第5話 恋人同士の通学路
私が家を出ると、葵がドアの前で待っていた。
「凛ちゃん、おはよ!」
「おはよう……」
「なんか元気ない?」
「そんなことないよ……」
実際はそんなことあった。
私は昨日のキスのせいで、なかなか眠ることができなかった。
「もしかして昨夜は嬉しすぎて眠れなかったの?」
「嬉しいって何が?」
「恋人ができたこと。」
「ばか!そんなこと全く考えてないから。」
「ふーん。すごく眠そう。
忘れ物とかしてない?大丈夫?」
「当たり前でしょ。
あ……お弁当だ。」
私は台所までお弁当を取りに行った。
そして玄関に戻ると、葵が家の中まで入っていた。
「何してるの?」
「いってきますのキスしようよ……」
「は?」
「だから……いってきますのキスしたい。
恋人なんだから普通だよ……」
「それってどちらかと言うと夫婦」
私が最後まで言い終えるのを待たずに、葵は私の唇にキスしてきた。
私は優しい口付けにドキドキしてしまった。
葵の髪からは相変わらず甘い香りがする。
私はなんか良い意味で酔ってしまいそうだった。
洗い流さないトリートメントとかをつけているのかな?
「今日から最低でも1日に2回はキスできるね。」
「え?どうして?」
「いってきます。とおかえりなさいで2回だよ!」
「それって思いっきり夫婦じゃん……」
私は自分の発言に恥ずかしくなった。
自分でも顔が赤くなっているのが分かったけれど、何故か葵も顔を赤らめていた。
私と葵はようやく外に出て歩いて行く。
「凛ちゃん。お願いがあるの。」
「なに?」
「手つなご?」
葵が再び顔を赤くしながら言った。
しかも葵は私の許可を得るまでもなく手を握ってきた。
しかも恋人繋ぎだ。
「もう握ってるじゃん。
誰かに見られたらどうすんの……」
「手くらい友達同士でも繋ぐよ。」
「恋人繋ぎはしないでしょ……」
「恋人なんだしよくない?」
私ははぁと溜息をついた。
いったい今日から私の学生生活はどうなるんだろう。
私は昨日から葵と付き合っている。
でもこれはあくまで恋愛ごっこ。
小説を書いているらしい葵にインスピレーションを与えるために、私は朝からこうして体を張っているのだった。
「そういえば昨日は小説すすんだ?」
「全く。」
「はぁ?!
キスまでしたのに成果なしなの?!」
「凛ちゃん声が大きいよ……」
私は周りの視線を感じて、だいぶ反省した。
「ごめん……」
「ファーストキスした夜に、まじまじと机に向かえないよ……」
「ファ、ファーストキスだったの!?」
「凛ちゃん声大きい……」
「ごめんなさい……」
葵は初めてのキスの相手が私で良かったのかな?
やっぱりそういうのは、ちゃんと好きな人と……
「なんかキスってすごくいい。」
「どういうこと?」
「胸がドキドキして、すごく興奮した……
これがときめきなのかな?」
「何言ってんの?!
こ、こっちまで恥ずかしくなるからやめて。」
「ふふっ。凛ちゃんて恥ずかしがりだね。」
「うるさいっ!」
葵がニヤニヤしてこちらを見ている。
葵は休み時間などはいつも読書していて、教室では物静かで大人しいタイプの子だ。
けど付き合ってみると、けっこうグイグイ押してくる。
このギャップはなんなの……
私達は駅に着くと繋ぎ合う手を
そして私達は電車に乗って隣同士に座った。
「誰かと電車乗るのって久しぶりかも……」
実は私は高校生活初めの友達作りに失敗していた。
そのためにいつも一人だった。
「私も読書以外の通学は初めてかも。」
「葵はいつも読書してるもんね。
いったいどんな本を読んでいるの?」
「話題の小説を
特に好きな作家さんとかはいないから。」
「へぇ。私は漫画は読むけれど本は読まないんだよね。」
「ふーん。私も漫画読むよ。」
「そうなの?またオススメ教えてよ!」
葵がなぜか悪い顔をして「分かった」と言った。
電車は20分ほど揺れて、高校の最寄り駅に到着した。
とうとう恋人ができてからの初高校生活が始まる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます