第85話 お話し


「翠ー、いるんだろ?反応してくれ?」


ピンポンピンポンピンポン————


「うるさい!わかったからもう押さないで!」


悠真の家を出たあと陽輝は翠の家に行き、まず携帯でメッセージを送ったが反応なし。とりあえずインターホンを押すが反応なし。しかし居留守だろうと予測してインターホンを連打。そしたら案の定居留守を使っていた翠が家から出てきた。


「もう押さないからとりあえずお邪魔していいか?」


「……今日はだめ」


「……お邪魔しまーす」


ダメと言われても知らんぷりをして陽輝は翠家にお邪魔する。「え?!だめって言ったよね?!なんで入ってきたの?!」と騒ぐ翠を気にせずに。

まぁ陽輝が家に来たとわかれば翠母などは歓迎してくれるので安心して入れるのだが。


「翠、勉強の続きをしながら色々話そうか?用意するもんは用意してあるからさ」


左手に持っている袋を見せる。中にはお菓子やらジュースやら結構な量が入っている。(悠真の家に置いてきた分とは別のもので新しく買い直している)


「……わかったよ。じゃあ少しだけ待ってて、部屋の掃除軽く済ませるから」


「了解。終わったら呼んでくれ」


玄関で待つこと10分少々。「掃除済んだから来ていーよー」と聞こえてきたので陽輝は翠の部屋へ向かう。


再び訪れるこの部屋はやはりいい匂いがして少しだけくらっとくる。相変わらず女の子らしい部屋でぬいぐるみも以前より増えたような気もする。


「適当に座っていいよ。綺麗にしたから大丈夫なはず!」


そう促されたのでベットに背をかけて座る。荷物は全て隣に置く。逆側の方には翠がすすっとやってきて座った。


「それじゃあ勉強……の前に、まぁ少し話すか。うんとな、佐藤さんは反省してたぞ」


「うちも強く言ったのはあるけど……流石に今回は我慢できなかったよ……」


「気持ちがわからなくもない。他人と比べられてずっとガミガミ言われるのは心地のいいものではないからな。でも最初は必ずお前のことを思って言っていたはずなんだ。というか日頃から勉強してれば怒られなんて……」


「それができたら苦労しないから!……いつも迷惑かけてるのはわかってるし、お願いしてるのはうちだから本当はうちが我慢しないとでしょ?」


だんだんと暗い顔をしていく翠を見て、陽輝は慰めるわけでもなく淡々と自分の意見を言っていく。


「それは違う。時には我慢も必要だが、佐藤さんから聞いた話だと佐藤さんにも悪いところはあるんだよ。だから今回はお互いが悪い。もちろん翠は勉強をしてないこと、佐藤さんは悠真と比べすぎたところだな」


「そもそも悠真と翠でなぁ……同じことできるわけないんだよ。そこのところ佐藤さんは理解しないといけないよな?」


「うんって言いたいけどそれじゃあうちが馬鹿って言ってるようなものでしょ?!」


「実際お前は馬鹿だ。何度でも言ってやる、馬鹿だ。勉強をしない馬鹿だ」


「そうやって人を馬鹿にして……!」


「事実だろ?それとも一人で勉強できますか?」


「……できません。うちは馬鹿ですよ!」


暗い顔をしていた翠はいつのまにか元気?になり陽輝をポカポカと叩いていた。


そんな翠の頭をポンポンしながら陽輝は言う。


「そんな馬鹿な翠でも俺は構わないさ。馬鹿でも幻滅なんかしない。まぁ怒られない程度に勉強はしたほうがいいとは思うが……出来ないことは他人にこれからも頼ればいいんだよ。でもまぁまず俺に頼って欲しいな?一応俺だって学年2位な訳で人に教えることぐらいできるし……まぁ何気ないことでも頼れよ?翠がお願いするならなんだって手伝うし叶えるからよ」


その台詞を聞いた翠は、ポッと顔を赤くして情熱的な目で陽輝を見つめていたがそんなことに気づかずに陽輝は続けた。


「だから今回は俺が勉強を見ます。佐藤さんには今度謝っておこうな。それじゃあ勉強をやるために教材を出せ!」


「…………なんか台無しだよね、陽輝って。でも陽輝らしいよ!」


一瞬冷めた目で陽輝を見た翠だが、すぐに顔は赤くなった。そしてそれを隠すように隣にいる陽輝の胸元へ顔を押し付けながら抱きつく。


「……俺は教材を出せと言ったわけで、抱きつけとは言ってないぞ」


「でも嬉しいでしょ?彼女が抱きついてるんだよ?」


「テスト前、勉強ができなくて焦ってる彼女じやなかったらさぞ嬉しかったのに」


「とか言ってるくせに心臓の音ものすごく聞こえるなぁ?ドキドキしてるの聞こえてるよ?」


「……引き剥がすぞ?」


「出来るならね!ほら、ぎゅーっだ!」


先ほどよりも強く抱きつく翠に陽輝は頭をかきながらもそのままにさせることに。嬉しくないわけではないので引き剥がすことなんてできるわけなかったのだ。


「……満足したら勉強しろよ。ちゃんと勉強してテストでいい点取ったらなんでも願いを叶えてやるからさ」


「……言ったね?言質とったよ?」


陽輝の顔をしたから見上げる翠の瞳は、数十分前までとても暗い目をしていたとは思えないほどキラキラと輝いていた。


「そうだな……全部50点超えたらだな」


「余裕じゃん。うちの本気なめないでね?それと……なんでもするって忘れないでね?」


「一度行ったことは撤回なんてしない。だから早く勉強をしてくれ?」


「本気見せちゃうから!」


翠が本気で勉強してくれるならなんでもしてやるのに……と心の中で陽輝は思った。




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