第84話 喧嘩

「集中を切らさない!まだこれっぽっちしか進んでませんよ!」


「試合の時のように勉強も集中してやりなさい!休憩はとりながら進めてますよ!」


「分からないところはすぐに聞きなさい!何のために私が見てると思ってるんですか!」


翠が泊まり込みの準備を済ませて戻ってきたらすぐに小珀様による鬼指導が開始された。黙々とペンを動かし、時折お互いの苦手教科について相手に聞いている陽輝達に比べ、リビングでは修羅場と化していた。


気がつくと怒号が飛んでいて、正直なところうるさいと陽輝は思っているが、翠のためだと納得して我慢している。しかし数分経つと飛んでくる怒号に流石に耐えられなくなり、陽輝は一旦家を出た。


その間残された悠真は一人で勉強するのもなんだかなぁ……と思い、修羅場と化しているリビングで勉強をし始めた。小珀が怒ることがまず珍しいので、怒っている姿をこっこり撮ったりもしていた。


しかし優等生がリビングに来るとつい比較してしまうのが人間の癖である。少しずつだが小珀は悠真と比べ始めてしまった。


「わからないのは聞けばいいんです!でも集中は切らさない!ゆうくんを見習ってください少しは!」


「でも流石にぶっ通しでやってるし……」


「でも翠ちゃんは休みをたくさん入れて勉強をやってるのを知ってますけど?多分……5.6分で集中切らしてぼーっとする時間が3分程度ですかね?このペースでやるなら休憩は数時間後で十分でしょ!」


「でももう辛いんだよ……少しは休ましてよ……」


「ダメです。このままいくと赤点回避すら危ういですよ?赤点取ったら……大会には出れないでしょうね?補講と被りますから」


「大丈夫だから……休憩を挟んでよ……」


泣き出しそうになる翠。勉強を全くやってこなかった翠も悪いと思っているが、流石にこれは酷いと少なからず思っていた。ただ文句を言われるなら耐えられるが、少しずつ混ざっている比較に少しずつ辛くなっていた。翠と悠真では元々の出来が違うのだから。


と、思っている翠に小珀は気が付かない。元々小珀は出来る人間なのでできない人の気持ちをあまり理解できない。基本一緒にいる悠真、陽輝も優等生だからなお分からなかった。


悠真と言えば怒っている小珀に飽きたのか、ヘッドホンをつけて勉強していた。きっとうるさいと思っているはずだ。


陽輝はこの場にいないので小珀を止める人は誰もおらず、ついに翠はキレた。


「うちなりに頑張ってるのにそれには気づかないでずっと悠真と比べてさ!勉強を教えてとは言ったけど悠真と比べろなんて言ってない!うちと悠真は違うんだよ!出来が違うの!同じことを求められても出来るわけないよ!」


「同じことなんか求めてません!すぐにサボるから怒ってるだけです!ゆうくんを……」


「ほらまた比較した!もううんざりだよ!もう聞きたくない!帰る!」


勉強道具を雑にしまって、家を飛び出していった翠。泊まり込むために持ってきたバッグは置いていったままで。


遅れて現状に気がついた悠真は、小珀から何があったのか聞き、少しお説教をした。お説教が終わる頃に陽輝は両手に袋を提げて戻ってきた。

 

「おやつ買ってきたんだけど……翠は?」


「翠ちゃんは帰りました……私が悪いんです。ずっと怒って、ゆうくんと比べてしまったから……」


何があったのかを陽輝は聞いた。そして言った。


「そんな気にすんな。元々あいつがやってこなかったのが悪いんだから。今回に関しては俺が面倒見るから自分の勉強に専念してくれ。あ、これ迷惑料って事で受け取ってくれ。まぁ翠のことは任せてくれや。翠の荷物は?」


「これです……本当にごめんなさい」


「明日謝ればいいよ。このあとは俺がなんとかするから、悠真に慰めてもらってくれ。じゃあ、また明日な」


お菓子袋を置き、自分の荷物を纏め、翠のバッグを持って出て行く陽輝の姿を二人して眺めていた。


「まぁ小珀もさ……あんまり怒らないであげなよ次から。翠には翠のペースがあるからね」


「そうですよね……私はそんなことも考えず自分の理想を……」


陽輝が出ていった後の悠真家では、泣き始めた小珀を悠真が慰めていた。



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