第47話 体育祭③



「この競技も一位は二組だぁぁ!強い、強すぎる!午後は他のクラスにも頑張って貰いたいところだぁ!」


 午前最後の競技が終わり(結果は一位、ギリギリだったが)今はお昼休みである。


 この時間だけ教室に戻ることができるので、教室に戻ればエアコンによって快適に保たれている空間が待っていた。


「まじあっついなぁ……うぉぉぉぉ?!予想以上の涼しさだぞ!」


「ほんとだ!……涼しいぃ……」


 所構わず腑抜けた声が漏れる。それほどまでに灼熱の中過ごしてきた俺たちにとってはこの教室が快適であった。もちろん俺たちも例外ではない。


「おぉ……涼しいな。ここならのんびりできるな」


「本当だね!……ほんと外暑かった…………」


「二人とも寛ぐの早くない……?ほら、お昼ご飯用意するよ」


「「もうちょいだけ……」」


 教室に入るやいなや、俺と翠はすぐに教室の隅に座り込んで肩をくっつけて休む。

 クラスメイトからは殺意やら妬みやら羨望などの含まれた視線を向けられるが、気にする余裕などない。


 俺と翠は午前だけで五種目出されている。しかも中距離を含めているので体力的にもかなり厳しかった。


 それでいて今日は絶好の体育祭日和。気温をさっき確認したら三十五度と表示されていたので外にいるだけで体力は奪われる。


 そんな中この涼しい教室に入れば……あとはお分かりであろう。座り込んだらもう立てない。


「……陽輝、お弁当とってきて?」


 その気持ちはとてもわかる。座ったら立ちたくないのはわかる。だけどいくら彼氏だからって聞くわけがない!


「……悠真、俺と翠の弁当とってきて」


「……はぁ、しょうがないな。何処にあるんだい?」


「うちは陽輝の机の上に置いたー」


「俺は机の横にかけたー」


「脱力しすぎ……でもご苦労様。ちょっと待ってて」


「「ありがとーーー」」








 ◇ ◇ ◇



「ふぅ……食った食った。んじゃ、ちょっと寝るわ」


「うちも……ちょっと眠くなったなら寝るね……」


「あのさぁ……ってもう寝てる」


 楽しく三人で話しながらご飯を食べ終えて、片付けを済ませた途端に二人は寝てしまった。


 にしても……寝方が悪いんだよね。陽輝は悪くないんだろうけど、翠さんが陽輝の肩に頭をのっけてるもんだから男子は人殺しそうな目をしてるし、女子は面白いものを見ている目で見てるんだよなぁ。


 ……とかいう僕も、二、三枚写真を撮ったけれど。

 あ、いま陽輝が肩に乗ってる翠さんの頭に頭を乗せた。シャッター音が止まらないなぁ……。


 すやすや寝ている二人を見て、本当にお似合いだと思う。二人とも美形だし、積極的な翠さんを受け止めてる陽輝って言う関係性が眩しいとも思う。


 小珀はどちらかというとお嬢様みたいな雰囲気があって、あんまり僕に踏み込んでこないんだよね。たまに積極的になる時もあるけれど……。


 それはおいといて、いつも積極的な翠さんを見て羨ましいと思う。僕らにはあまりないから。


 付き合って数ヶ月経つけれど、上手くはやっているとは思う。一度も喧嘩は……一回だけあったけれどすぐ和解したし、今は同じ屋根の下で毎日暮らしている。


 そんな毎日を過ごしていて僕は幸せだと思っている。学校で三大美女に入る彼女がいて、気の許せる幼馴染みもいて何ひとつ不自由のない生活は送っている。けれど二人を見ているともう少し小珀に対して何かしたほうがいい、とまでは言わないけれど積極的になった方がいいのかなと思う。


 二人の寝顔を見ながら、そんなことを思っていた。






「んっ……よく寝た……はっ!」


 お昼を食べ終えた後、陽輝の肩に意図的に頭を乗せて眠りについたうちは、今窮地に迫られている。


 誰もいなくなってしまっていた教室の中に二人。そして陽輝は今うちの頭の上に顔を乗せている。


 陽輝の頭を優しくどかすべきか、はたまた悪戯心でちょっと叩いてみたりする方がいいのか、それとも寝てるのをいい気に……


「どーしよう!何をすればいいか迷う!」


 頭の中にはいたずらのことしか無くなってしまった。ただ、そのいたずらを何にするのかで現在迷っている。そして———


「まずは……優しく頭をどかして……っと。これでよし。……はぁ、ドキドキするなぁ……」


 頭を壁にバランスよく動かし、寝ている陽輝と向かい合う。いたずらをする準備はできたので、気持ちの準備をするために、すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……と深呼吸をして覚悟を決める。


「よし……やっちゃうからね!やるぞ———」


「……何をやるつもりだ?場合によっては止めるぞ?」


「っっ!ちょっ!起きてたの?いつから?」


「ついさっきだ。なんかゴソゴソ聞こえるから目が覚めてな……それより、何をしようとしたんだ?」


 それは……言えない。うちがしようとしていたのは陽輝の首筋にキスマークをつけようとしていた。軽いものだけれど。


 体育祭で目立って欲しいと言ったのはうちだけれど、みんなが陽輝の凄さに気がついて、かっこよさにも気がついて、今日だけで陽輝くんに告白しよっかなー……みたいな声を何度も聞いてしまった。


 それを聞いてうちはとても嬉しかったのだが、同時にとても心配になってしまった。誰かに盗られてしまうのではないのかと……。


 自分でもよくわかっている。醜い女の子だと。でもやっぱり不安になってしまうのだ。


 だからうちのものだよ!というキスマークをつけてやろう(もちろん悪戯心もある)としていたんだけど……起きてるならできない。


 どうやってこの場面乗り越えよう……。

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