第48話 体育祭④
「えっとね……寝てたから少し悪戯しようかなって……ほら!みんなもう外に出てたし……」
俺の目の前であたふたしながら苦し紛れと思われる言い訳をする翠。あたふたしてポニーテールが跳ねてなんとも可愛らしい。
「……どんな悪戯なんだ?」
「……言えない。ほら、もういこ!」
「ちょっと待てよ……まだ時間はあるだろうが」
逃げようと翠がするので手を掴んで離さない。そしてそのまま座らせる。
「さぁ、吐け。何をしようとしたんだよ……怒らないから言ってみろ」
「えっと……その……」
待つこと数十秒。コロコロと表情を変えていた翠が口を開いた。
「……首元をつねってキスマークみたいにしてみんなにからかわれてしまえばいいと思いました」
この返答には流石に驚いた。てっきりポケットにペンでも入れて顔に悪戯書きされると予想していたので想定外の返答だった。というか、体育祭中に首元にそんな痕つけようと思ったな……。
そんな俺の考えを読んだように続きを翠は言った。
「だって……うちが陽輝に目立ってほしいっていって、みんなが陽輝の良さに気がついた途端に狙っちゃおっかなーとかって声が聞こえてくるから……だからつねって痕でも付けておけば大丈夫かなって……」
……確かに俺は今日目立っていると思う。普段積極的に行事には参加しないタイプなのだが、今回は翠がいるし、クラスの奴らの足を引っ張りたいとは思わなかったから、かなり本気を出している。
その結果、俺を狙う女子が増えて翠が心配したのか……。だからといってな……。
「はぁ…………あのさ」
「うぅ……重くてごめんね……」
「いいから聞け、まぁ……心配した理由はわかった。別に怒るつもりもない。だけどなぁ……幼少期からずっと好きだったのに俺が目移りすると思ったのか?」
「うっ……そうは思ってないけどさ、でもさ、もしかしたらって思っちゃうんだよ……。他にも可愛い子はいるし……」
こりゃダメだな。翠がちょっと負の方になってる。テスト期間の時みたいになってるな。
どうしたら良くなるか……。
………いつだったか悠真が佐藤さんの機嫌を悪くさせたときに、あれをしたら治ったって聞いたな。だけど付き合いたての俺たちには早い気もするんだが……仕方ないか。翠には午後も頑張って貰わないといけないからな。
「翠……ちょっといいか?」
「なに?もう時間ないから行こうよ……」
「まぁちょっと待てよ……ここなら外からは見えないよな。ちょっと待っとけ」
「いいけど……なんで?」
「ちょっと覚悟をな………」
そう言って翠の額に顔を近づけ、触れるだけの優しいキスを落とす。
「………えっ?いま……」
「うるさい、もう行くぞ。……これで少しは安心してくれよ」
翠の顔を見れば真っ赤に染まっていた。だが、俺の顔もきっと赤いのだろう。これでもかってくらい顔が熱いのだから。……よく悠真はこんなことをスムーズにできたものだ。
「……うん!えへへ〜」
上機嫌になり、鼻歌を歌いながら少しスキップ気味で少し前を歩く翠。その後ろ姿を見て、俺も少し嬉しくなるのはおかしくないだろう。
好きな人が楽しそう、もしくは幸せそうなら自分もそう感じるのは普通なのだから。
「ねぇ、陽輝」
「ん?どうした」
「またうちが勝手に落ち込んでたり、不安になってたりしたら元気づけてね?……次は少し期待してるからね!」
そう言い残して先に行ってしまう翠。一人残された俺は悠真を尊敬することしかできなかった。
……まじで悠真、何かあるたびにイチャついて元気づけてるって言ってたからな。流石イケメン。
翠の後を追うようにしてクラスメイトの所に戻った俺は、みんなからニヤニヤした目で見られた。
「あ?何で俺のことそんなに見てくんだよ。俺なんかしたか?」
「いやいや……そりゃ教室で二人で残ってたら何かあってもおかしくないでしょ?」
なるほどな……俺たちは寝てたとはいえ、二人きりでいたわけだ。だからこいつらは何かしたんだろ?と好奇心が読み取れる視線を向けてくるわけだ。
ただそんなこと俺がいうわけもない。こいつらに知られたらまともなことにはならないのだから。
「期待するようなことはないぞ。爆睡してたおかげで起きた時には時間ギリギリだ」
「って言って、本当はあったんだろ?」
「何にもない。残念だったな。お、召集がかかったぞ?張り切って行こうぜ」
午後の最初の競技の召集がかかったので向かう。「嘘つけよー!」「つまらねぇな!」などなど……後ろから言われるが気にしたら負けだ。
とりあえず、午後も頑張ろう。
読んでいただきありがとうございます。
書く時間があまり取れず、急いで書き上げたのでおかしい点が多いかもしれません。
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