第38話 うちも一緒に!
陽輝の温もりを感じる。まだ少しだけ震えているけれど、大丈夫だろう。
最初は怖かった。いくら陽輝を、信用していても、怖いものは怖い。だから、問い詰めるような形になってしまったから。
けれど、陽輝が自分で思い出さないといけないと思ったから、そうしたまでだった。
目の前で表情がコロコロ変わる陽輝を、見てて怖かった。悲しみ、絶望、苦しみ……負の感情しか現れなかったから。
それをただ見てるだけなのが耐えられなくて、途中から幼い子供を抱きしめるようにして抱きしめた。
大丈夫、大丈夫……と。
もしかしたらうちの手助けはいらなかったのかもしれない。陽輝は過去と向き合えて、全部思い出したのだから。
そして思い出した陽輝にうちは告白された。
もちろんオッケーを出した。ずっと待っていたのだから。
嬉しすぎて飛び付いてしまったけれど、陽輝も優しく受け止めて、抱き返してくれた。
あぁ……温かい。
ずっとこうしていたい……そう思っていた。
陽奈ちゃんに言われるまでは。
「お兄ちゃん。私、もう寝るから翠さん送ったら鍵閉めといてね……って、お邪魔でしたね……ごめんなさい……」
確かうちが陽輝と話し始めたのが十時前。今時計を見ると十一時二十分ぐらいだ。……うち、どれくらい抱きしめてたの?
「陽奈ちゃん!お邪魔なんかじゃないから!」
「……とりあえず家まで送るから、もうそろそろ離れてくれるか?」
「そ、そ、そうだね!離れますごめんなさい!」
いやー!恥ずかしいよ……付き合いはじめたからってずっと抱きしめてるのはおかしいよね!変な風に思われてないかな……。
「翠さん。私のお兄ちゃんをよろしくお願いします。そして私を、義妹に……」
玄関で、ぼそっと囁かれた。陽奈ちゃんがこちらをニヤニヤとしながら見ていた。
「そうなるように頑張るね……またね、陽奈ちゃん」
陽輝には聞こえないようにして返事をする。
「また今度も遊びに来てください!」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「んじゃ、また明日な」
あっという間に家に着いてしまった。結構近いこともあるんだけど……離れたくないって思っていたからかなぁ……。
「そうだね……あのさ!」
少し前から思っていたこと。学校から遠回りにはなってしまうけれど、一緒に登校したいと考えていた。朝練は基本的にうちもないから、問題はないと思うんだけど……。
「なんだ?」
「明日からさ、うちも一緒に登校したいんだけど……いい?」
「遠くなるけどいいのか?俺はべつに構わないぞ」
「平気平気!じゃあ明日から一緒に行こうね!」
断られなくてよかった!……付き合い始めたんだから断られるわけないとは限らなかったし……。
「明日は迎えに行くわ。集合場所、知らないだろ?んー……七時半とかに迎えにいくぞ?」
「知ってるわけないでしょ!……じゃあ明日はお迎えよろしくね!じゃあまた明日ね!」
「おう、明日な……本当にありがとうな」
結構遅くなってたのでささっと家に入ったから、最後まで聞き取れなかった。なんて言ったのか気になるー!
でも、明日から一緒に登校できるんだ……!
この日、うちは楽しみでしょうがなくて寝付かず、次の日寝坊しそうになってしまった。
「お兄ちゃん、何か言うことはないの?」
送り届け、家に帰ると玄関に陽奈がパジャマ姿で立っていた。
「言うことって、特にないが?」
何にも陽奈には言うことなんてないはずだが……何か忘れてたりするんだろうか?
「翠さんと、どんな関係なのかお兄ちゃんの口から聞いてないよ?さぁ、教えて?」
「そんなことか……まぁ、その、彼女になってもらえたよ」
「本当鈍感なんだから……早く寝てね?まだ心の整理が完全についてるはずないんだから」
前から知っていたような口調で話す陽奈。そして俺の心の状態も見透かされていた。……はっきり言ってまだ整理はついていない。だけど、前に比べたらましだ。
「陽奈はよくわかるな……ちゃんと整理はつけるさ」
「何年お兄ちゃんを見てきたと思ってるの?何年お兄ちゃんは私の面倒を見てくれたの?お兄ちゃんが私の面倒を見てくれてた分だけ私はお兄ちゃんを見てきたんだからなんでもわかるよ!」
ドヤっ!と効果音が付いてるんじゃないかと錯覚するぐらいドヤ顔をして言い切られた。……父さんが死んで、母さんが仕事でずっといない中、二人で長い時間過ごしてきたんだよな。
「そうだな。俺もお前のことならなんでもわかるからな。だから早く寝ろよ、もう限界だろ」
「心配して起きてたのに……おやすみ、お兄ちゃん」
「ん、おやすみ」
この日はいつもよりぐっすり寝れた。ただ、次の日寝坊して陽奈に怒られた。
しょうがないだろ?付き合えたのもあるし過去との整理もほぼついたんだからさ。
読んでいただきありがとうございます。
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