第36話 決意



「今日の夕飯はカレーにするぞ」


「うちカレー好きなんだよねー!期待してるね?」


 佐藤さんの後に作るのはものすごく気まずい。だから家庭の好みの味が出るカレーを作ることにした。作り置きもできるし結構楽で、俺もよく作っているので不味くはないはず。


「まぁ不味くはないはず……だから、作り終わるまでその辺で休むなり、テスト勉強するなりして待っててくれ」


「りょーかい!」


 翠は勉強をやり始めた。……よく頑張るな。

 ただまぁ、翠なのでもちろん質問を聞いてくる。あれがわからない、これってなに?と。


 野菜の下処理をしながら質問に答え、俺の方も進めていく。


 時短をするためにジャガイモなどはあらかじめレンジでチンをしている。俺が作るカレーは全体的にジャガイモが大きい。まぁ、三日目とかには溶けて無くなるのは嫌だから大きめに切っているのだが。


 大きめのジャガイモに、ニンジン、タマネギを入れ炒める。全体的に火が通ったのを確認して豚肉を入れる。今回は豚肉だが、牛肉の時ももちろんある。


 豚肉にも火が通ったのを確認し、水を適量入れ煮込む。ある程度煮込んだらルーを入れる。中辛より少し辛くない程度になるように中辛のルーと甘口のルーをうまい具合に入れていく。


「いい匂いがするー!ねぇまだ?もう勉強したくないんだけど!」


 ルーを入れた途端に騒がしくなる翠。机の上を見ると全く片付けをしていない。プリントやら教科書やらが散らばっていて食事ができる環境ではない。


「もうすぐ作り終わるから机の上片しておけよ。飯食ったら送ってくからすぐ帰れるようにな?」


「わかったよー!」



 味見をして、ちょうど良い感じになったので火を止める。と、同時に炊飯器からごはんが炊けた合図をする音楽がなった。タイミング良いな。


 二人分のカレーライスを盛り付けてテーブルに置く。ちゃんと片してくれてたので綺麗だ。


「おー!美味しそうだね!いただきまーす!……うま!うち、この辛さちょうどいいと思う!美味しい!」


「そう言ってもらえると助かる。まぁゆっくり食べてくれよ?」


 翠は凄まじい速さでカレーを食べていく。あっという間に半分がなくなっていた。……早すぎだろ。


「んぐ!……ぷはぁ、危なかった。本当に美味しいね!」


「ゆっくり食べろって……まぁ、ありがとな」


 小声で漏らした俺の感謝の言葉には翠は気づかない。パクパクと口にカレーを運んで……


「おかわりってある?」


 まだ物足りないと表情に出しながら二杯目を要求してきた。……年頃の女子がそんな食べていいのかよ。


「まぁあるが……量は?」


「同じくらいで!」


 そんな食ったら太るだろ……と思うが普段からこれくらい食べているのなら流石としか言えない。なぜなら、翠のお腹周りを見ればわかる。お腹が出ている様子は全くない。運動量でカバーしているのか、はたまた体質なのか……それはわからないが。


「ちょっと待ってろ……ほら、これでいいか?」


「ありがと!」


 二杯目を出せばまたパクパクと手を止めず口にスプーンを運んでいく翠。そんな様子を見て内心苦笑しつつも、俺もカレーを食べるのであった。



 ◇ ◇ ◇





「お腹いっぱいだよ……動けないよ……」


「食い過ぎだろ……」


 あの後もう一回おかわりをした翠は、お腹をパンパンに膨らましてソファーに寝っ転がっていた。

 お腹をさすりながら翠は「苦しい……」とたびたび漏らしている。あれだけ食えばそうなるに決まってるよな。


「少し休んでろ。俺が家事終わらしたら家まで送って行くから」


「そうするねー……(帰りに言うか、うちの家の前かな?」 )」


 返事は食器を洗う音で聞こえなかったが、まぁおっけー的な事でも言ったんだろう。


 食器を洗い終え、風呂の準備も済ませ、洗濯ものを洗い、家事を全て終わらせて翠を家まで送ろうと声をかけるが動く気配がなかった。


「あのさー陽輝、もう少し休ませて?」


「あのなぁ……明日学校だし、早めに帰って寝たほうがいいだろ?普段バカな翠が勉強を必死にやったんだし精神的に疲れてるはずだろ」


「でもまだ苦しいんだよー……陽輝がおんぶか抱っこして家まで送ってよ」


「出来ないことはないが……流石にそれはできねぇよ」


「けちー……(今の方がいいのかな……)」


 もう九時を過ぎているのに帰る気配が全然ない。困るな……。陽奈の方も迎えに行かないと行けないだが……。


「なぁ翠、まだ動く気はないんだな?」


「もうちょっとだけ……」


「じゃあ俺一旦陽奈の迎えに行ってきてもいいか?まだ小学生だしこれ以上は相手のお宅に迷惑がかかると思うから、てか迷惑だな」


「それを早くいってよ……早く迎えに行ってきなよ」


「いやお前が早く帰ると思ったからその後にあと……」


「言い訳しなーい!……ほら、早く迎えに行ってきよ」


「わかったよ……」


 俺悪くないはずなんだがな……まだ翠が行ってきなよと言うので先に陽奈の方の迎えに行くことにした。




 ◇ ◇ ◇


「陽輝が帰ってきたら……話そう、全部」


 陽奈ちゃんを迎えに行った陽輝の背中姿を見送りながらうちは決意した。


 黒木くんの睡眠不足のせいは絶対うちが今日、陽輝にあの出来事について話すと決めた、と伝えたからだろうな。黒木くんのことはあんまり知らないけど、何処か怯えてるような雰囲気をほんの少し纏っていた。


 きっとそれは陽輝の抱えてる物で、陽輝自身がいつ再び壊れるのか、と考えているから。


 だったら尚更うちは話さなければいけない。黒木くんも少なからず苦しんでいるし、陽輝はもっとだ。


 だけど伝えたら黒木くんの考える最悪な結末を迎えるかもしれない。そうじゃなかったとしても酷いかもしれない。黒木くんはそうなるとしか考えられなかった。


 でも、うちは信じる。陽輝に全てを伝えても壊れず、受け止められる、と。うちの好きなひろくん……陽輝なら大丈夫だと。


 もし壊れてしまっても、うちが支えればいい話だ。支えきれないことなんかない。好きな人を支えるためならなんだってしてやる。


 だから、陽輝……信じてるからね。










  








 読んでいただきありがとうございます。

 誤字脱字何かありましたら連絡ください。


 多分次話で一章完結……予定です。

 ただその前に本当に申し訳ありませんが、僕の都合上更新ができるかわかりません。

 本当にすみません。

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