第35話 勉強会②


「楽しかったー!陽輝はやっぱり上手いね!」


「まぁこれくらいならな。翠も上手かったぞ」


「ありがと!」


 二十分ほど二人でパスをして、リビングに戻ろうとした。俺たち二人の視界に入ったのは、ソファーの上で膝枕している佐藤さんと寝ている悠真だった。

 ……あの、俺の家なんだが?


 と、こちらに気づいた佐藤さんは口に指を立てている。……静かにってことか?


「どういうことなのかな?」


「どうせ悠真が俺たちがいないのをいいことに要求でもしたんだろ」


 小声で話しながら佐藤さんの元に行く。悠真は寝ていた。


「これには事情がありまして……最近ゆうくんはあんまり寝れてないんです。今週の火曜日ぐらいから……」


「それで、この状況と?」


「はい……私が強引に膝枕をして、寝かせちゃいました。途中から辛そうにもしてましたし」


 気がつかなかった。悠真はいつも通りだと思っていたが佐藤さんは違反に気がついていた。恋人だからなのか、はたまた俺が気がつかなかっただけなのか。


 隣を見れば翠は思い悩むような顔をしていた。何か関係があるのか?……そういえば火曜、木曜と二人は教室にはいなかったな。


「んじゃ起こすのは悪いな。俺と翠は勉強してるから……っとその前に」


 机の上に置いてある携帯を取ってカメラを起動させる。そして、写真を撮る。


「これでよし……佐藤さんもいるか?」


「あ……いります!あとで送ってください!」


「おう。……じゃあ翠、続き、やるぞ」


「……わかった」


 まだ思い悩んでいるように見えるが、あまり気にしても仕方がないだろう。もしかしたら、ただそう見えているだけで実は勉強が嫌ー!とかって考えてるだけかも知れないし。


 静かな空間に響くのはペンの動く音と静かな寝息。翠は始めた最初の方は悩みながら問題を抱えて解いていて、時折文句を言いながらやっていたが、途中から無言でひたすらペンを動かしていた。


 難問をなんとか解き終え、時計を見れば六時。あっという間に時間は過ぎていたようだ。外を見れば夕焼けが見える。ソファーの方を見れば佐藤さんは静かに寝ていた。悠真の頭を膝に乗せたまま。きっと悠真の心配をしていたから佐藤さん自身もそんなに寝れてないんじゃないだろうか。


 そんな状態でも二人は俺たちに付き合ってくれた。……本当に優しい二人だ。


「あの二人って本当にお似合いだよね」


「中学の時はあそこまで仲良かったわけじゃないんだよな。クラス同じなのに話すことは少なかったし佐藤さんも静かにしてるタイプだったしな」


「意外だね。今の様子からじゃそんなのわからないよ」


「まぁ……知ってるのは俺だけだろ。中学の時は付き合ってることなんか隠してたんだし」


 これに関しては佐藤さんも悠真も学校で人気があった方だ。そんな二人が付き合ってるなんてわかった際にはどうなるかはわかるだろう。だから人前では隠すしかなかった。


 もちろん隠していたら恋人のしたいことであろう(俺の勝手な予想)一緒に登下校とか、デートとか、そういうのは全くできない。


 だから中学の時はそこまで良好な関係とはいえなかった。


 そんな二人の間を取り持ったのは俺だ。いっとき悠真が別れようとしたときに止めたり、佐藤さんが関係が上手くいかないって言ってきたときも相談に乗った。


 俺のおかげで今の二人がいるとは思わない。だが、多少は力になれたのではないかと思っている。


「なんで隠してたの?……って聞くだけ無駄だね」


「わかるだろ?この二人の容姿を見れば」


「そうだね……」


 静寂が再び訪れる。俺は寝ている二人を優しく見つめていた。隣を見れば翠はどこか羨望の情景を含んだ眼差しを向けていた。


 どれくらい見つめていたかわからないが、そろそろ帰ったほうがいいと気づき、肩を揺らしながら声をかけた。


「お二人さん、そろそろ日が暮れるから帰ったほうがいいんじゃないか?」


「………」


「むぅ……はっ!すみません!寝てしまって……」


「気にしなくていいぞ。今日は疲れてるところ来てくれてありがとな。悠真を起こしてもう帰っても大丈夫だぞ?」


「小珀ありがとね!赤点は回避できそうだよ!本当に助かったよ!」


「そう言ってもらえて嬉しいです。……ゆうくん、起きてください。もう帰りましょう?」


 悠真の頬を摘みながら、話しかける佐藤さん。フニフニし、時折捏ねたりしている。ぱっと見だが、楽しそうにしてないか?佐藤さん。


「……いひゃいよ、小珀。……ひょっとやめて」


 あれだけ捏ねられたりつままれたりしたら悠真も起きるだろう。しかし、起きているのをわかっているのにも関わらず佐藤さんの、手つきは止まらない。


「ふふっ、いつ触っても柔らかいです。やみつきになります……」


「……ねぇ、小珀、ひゃめないとひゃりかえふよ?」


「あ、起きましたか?もう外も暗いですし帰りましょう」


 やっと手つきが止まり、悠真が起き上がった。


「帰るって……あぁ、そうか。ごめん、陽輝に谷口さん。途中から寝ちゃって」


「「気にすんな(しなくていいよ!)」」


 悠真の体調にも気づかず声をかけたのは俺だ。午前だけでもいてくれただけ感謝するべきだろう。



 ◇ ◇ ◇



「お二人は優しいですから気にしなくて大丈夫だと思いますよ。じゃあ、お邪魔しました」 


「そうだね……じゃ、僕たちは帰るよ。また明日……陽輝、谷口さん……」


「今日は助かった。ちゃんと寝ろよ」


「小珀ありがとー!ばいばーい!」


 荷物を整理し、帰る二人を玄関先から見送る。二人の手は繋がれていた。


 リビングに戻って、時計を見れば午後七時前。夕飯を作るにはちょうどいい。


「さて、時間もちょうどいいし夕飯でも作るが……期待するなよ?昼間みたいな料理俺には作れねぇからな?」


 別に作ることはいいんだが、お昼に食べたあの料理に比べたら味も見た目も見劣る。あのレベルで作れる高校生は滅多にいないと思う。……まじで佐藤さん凄ぇよ。


「別に気にしないからー!夕飯ご馳走になるんだし、それより陽奈ちゃんは?」


「陽奈は友達の家で夕飯食べて帰ってくるって聞いてるぞ。まぁ俺たちが食べ終わったぐらいに帰ってくると思うぞ」


「ふーん……(言うなら夕飯を食べ終わった後……!)」


 若干ソワソワしている翠を片目に見て、まじでそんな期待されても困るんだが……と思いつつ冷蔵庫の中を見て何作るか……と考えた。


 佐藤さんの後に夕飯作るとか……はぁ。















 読んでいただきありがとうございます。

 誤字脱字ありましたら連絡してもらえると助かります。


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