第32話 予定を立てた
「なぁ悠真。日曜日に翠と勉強すんだけど来てくれないか?あ、佐藤さんも来るか?」
帰り道。隣で歩く悠真と佐藤さんに聞いてみる。俺が翠に教えるには問題ないのだが、俺自身の勉強もしたいので悠真も佐藤さんに聞いた。
二人は俺より頭がいい。佐藤さんは悠真に付いていくために勉強を欠かさずしていると聞いたし、特に悠真なんかは受験した時に総合で二位で、新入生代表の言葉をしていたはず。一位の人が拒否したとかなんとかで。……二人でいい大学通いたいとかって願望でもあるんだろうか?
とにかく、二人は頭がいい。だからこそ来てもらえると助かるので声をかけた。
「日曜日かぁ……テスト前だね。んー僕は平気なんだけど……」
浮かない顔をして返事をくれる悠真。嫌なら断ればいいんだが……。
「私は平気ですよ。多分紅島くんだけで翠の面倒見るのは不可能かと……」
佐藤さんは快く了承してくれた。ただし、苦笑付きだが。
……翠ってそんなに酷いのか?
「……テスト期間に言うのはどうかと思うんだけどな……でも谷口さんは信じてるから言ってもいいって……けどさすがに早くないかな……」
「どーした悠真。無理してこなくてもいいんだぞ?」
浮かない顔をして独り言を呟いていたので、少し心配になった。何が早いのかはわからないが。
「いや、全然平気だよ。むしろ僕なんかでいいのかい?」
「中学の時からお前に頼んでるだろ……たまになんで悠真が俺と同じ学校に通ってるのかわからなくなるわ」
佐藤さんは悠真と同じ学校にするから来たのは知っているが、悠真が俺と同じ学校を選んだのかはわからない。
正直悠真はもっと偏差値の高い高校に行けたはずだ。まぁ俺ももう少し高い所だったら行けただろうが、悠真とは一つレベルが違う。悠真なんて中学の時の全国模試の順位が二桁だったはずだし。
理由は俺らが通う学校はほんの一握りだけの生徒には一流大学の指定校があるからだと聞いたが、悠真なら自力でどうにかなると思う。
「前にも言ったはすだよ?指定校がここは上位だけにはいい大学が貰えるんだよ。きっと僕が普通に勉強すれば学年一桁は余裕で入れるだろうし。小珀も一桁は確実に入れると思うし。まぁ、小珀が来ると思ってなかったけどね」
「私は悠真くんから離れたくないので同じところ行くって何回も言ったじゃないですか!そのために必死に勉強したら悠真くんぐらい頭が良くなって、親からもここの学校の許可が取れたんですから!」
そう言って悠真の右腕に抱きつく佐藤さん。言われて満更でもない顔している悠真。……写真撮って馬鹿達に送って見るのもいいかもな。
どこか心の奥で痛む傷には気づかずに。
「まぁ小珀がいて本当に良かったよ。もちろん陽輝もね?愛しい彼女と、大親友の幼馴染と一緒に居られるって考えただけでここの学校を選んだっていいじゃないか」
……何かを隠しているが、深く追求するべきじゃないのだろう。悠真の悪い癖が出たが、丸々嘘ってわけでもないはずだ。
いつか教えてくれるはずだ。それまで待っていればいい。だから今は———
「そうか……俺も同じ高校に来てくれて嬉しいよ」
笑顔で返事をしてやるべきだ。……俺、嘘はついてないからな?
いや悠真があっけにとられたような顔をしているのはわかるぞ?俺が笑顔だからだろ?
だけどさ、俺だって笑うんだが……。
「陽輝って自然に笑顔を作れたんだ……」
「おい、俺は普通に笑う時だってあるだろ」
「私もそう思いますけど……あ、でも翠ちゃんと出会ってからの方が笑顔は多くなりましたよね!」
「翠と会ってから?」
「はい。それまでは笑っていても辛そうというか……確かに悠真くんが言った通り自然ではなかったかもしれません。ですが、今の紅島くんは生き生きしてていいと思います」
……多分、部活のことだろうと思う。あいつに話して、助けてもらって、心は軽くなった。そういった意味では生き生きしていると言われても納得はいく。
その代償に、俺はあの子の事を好きかどうかわからなくなってきた。今までは好きだったのが、今は会えなくてもいいだろ……という気持ちが出てきた。
夢には何度も出てくる。その度にもう一回会いたいとも思う。
なのに、学校生活の中で翠と過ごすと別にいい……と思う俺が出てくる。
……まさか……な。
そんな訳はない。
「自然に笑ってたつもりだったんだが……」
「気にしなくていいよ。今は普通だから……話逸れたけど、日曜日に勉強会ってことでいい?」
今は考えなくていいだろう。勉強会の話をしなければ。
「ああ、時間は……十時くらいから一日やる感じでいいか?場所は……俺の家でもいいか?」
「僕は構わないよ。小珀は?」
「私も平気だと思います」
「翠には俺から伝えておく。……もうこの分かれ道か。んじゃ、また明日な」
「さようならー」
「バイバーイ」
「悠真くん、私達が紅島くんと同じ学校を、選んだ理由……一つ隠しましたね?」
隣で寝ている小珀からだ。……隠すしかないよ。
「しょうがないじゃないか……いつでも助けられるようにしたいんだから。君以外に本当の意味で信用できるのは悠真しかいないんだから」
手を握って答える。きっと僕の手は震えているだろう。壊れてしまった陽輝を見た時を思い出してしまったからだ。
「唯一の親友を、失いたくないからね……でも、陽輝に言った理由も嘘じゃないんだけどな……」
ただ一番の理由を言ってないだけで、嘘はついてる訳じゃない。実際に指定校はいいし二人と同じ所にも通いたかったし。
「紅島くんなら大丈夫ですよ……隣に翠ちゃんがいるんですし。お昼休みのことを聞きましたし、怖いんですよね……」
「怖いよ……僕は臆病だからまた陽輝が壊れるんじゃないかって……」
「大丈夫ですよ……」
手が解かれたと思いきや、抱きしめられた。ふわっと香る甘い匂い。温かかった。
(……情けないなぁ……)
背中をさすられ、少しずつ僕の不安は消えていって、僕はいつのまにか寝ていた。
久しぶりの登場だった佐藤さん笑
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