第31話 思い違いと信頼



「まず、これが前提にないと話が理解できないと思うから説明するけど、陽輝のお父さんのことについてなんだけど———」


「昨日陽奈ちゃんから聞いたよ。陽輝が思い込んでいることは本当は違うって」


「なら僕の考えはすぐにわかると思うよ。僕は、陽輝はお父さんの思い出と共に谷口さんとの思い出も心の奥底にしまっているのだと考えるよ」


「うちも同じこと考えたんだよね……陽輝の事だから自分に責任を感じたんだと思うし」


 陽輝は、父さんは交通事故で死んだ、と言っていたけれど、陽奈ちゃんはそうは言わなかった。


「お父さんは、お兄ちゃんを庇って死にました。事故に変わりはないけど、お兄ちゃんの方に向かってきた車から守るために……」


 きっと陽輝は自分を責めたと思う。だから一度壊れたんだと思う。


 悪いのは陽輝じゃなくて車の運転手なのに。運転手は事故を起こした当時携帯を操作しながら運転していたと陽奈ちゃんから聞いた。


 誰も陽輝のことは責めるはずがない状況で、陽輝だけは自分を責めて……それで心が壊れて、無意識のうちに心の奥底にお父さんとの思い出をしまったのだろう。そして、うちとの思い出も———。


「きっと陽輝は昔の谷口さんの事を思い出した時、一緒に思い出すと思う。その時、陽輝はまた壊れるかも知れない。今度は、谷口さんへの罪悪感も伴って」


 陽輝のことだ。お父さんの事で思い違いをしている事でも罪悪感を感じると思うし、うちのことを忘れてたってことでも絶対に罪悪感を感じる。


 それでいて、思い出も思いだしたら壊れるのは目に見えている。


「優しい陽輝ならそうなるかもしれないと思う。うちはどうしたらいいと思う?」


 次、また壊そうになるときには支えになりたい。ひろくんだからとかは無しで、陽輝のことが好きだから支えたい。傷を癒してあげたい。隣にいて助けたい。


「僕は谷口さんが隣で支えてあげるのが一番だと思うよ。陽輝が今一番心を許してるのはきっと谷口さんだからね。……それに、壊れた時僕は支えてあげられなかったから……」


 後悔の念と共にうちが支えたほうがいいと言う黒木くん。……きっと彼も思うことはあったんだろう。仲のいい幼馴染が苦しんでる時に助けられなかった後悔。自責。


「今の陽輝がいるのは黒木くんのおかげでもあると思うから、そんなに後悔しなくてもいいと思う。自分を責めすぎたらダメだよ」


「そう言ってもらえると助かるよ……」



 すぐに無くなるわけじゃない。だけど誰かが許してあげなければならない。

 そうしなければ彼も陽輝みたいに壊れてしまうかもしれないから。

 その役はうちがするべきだ。

 うち以外がその役をしても、きっとダメなのだから。


「うちは隣に居続ければいいんだよね?」


「壊れた時に支えられるようにしていれば平気だね。まぁ過去を乗り越えなくてもいいのかもしれないけれど……」


「それはダメ。乗り越えなきゃいけない。いつまでも過去にとらわれていたら幸せにはなれない……」


 乗り越えなければ心の何処かにしこりは残る。そしてそれは一生消えない。

 陽輝が幸せになろうとするときにそれが邪魔をして幸せにはなれない。


 だからこそ乗り越えさせなければならない。


「……決めた。うち、日曜日に陽輝に伝える」


「伝えるって……そしたら陽輝は思い出してしまう!」


「それでいいの……いつ壊れるか分からないぐらいなら早めに思い出させるべき。それに……」


 満面の笑みを浮かべて黒木くんに伝える。自信を持って。


「うちの大好きな陽輝なら壊れたりしないで乗り越えられるよ!」


 壊れるかもしれない。次はもっと酷いかもしれない。きっと黒木くんはそう思ってしまうのだろう、一度陽輝が壊れた時を見たのだから。


 でもうちはそうは思わない。誰に対しても優しく、思いやりの心を持っている陽輝なら平気。



「……そうだね。あの陽輝ならもう大丈夫だね」


「うん!」



 気づけばお昼休みも終わりに近い。

 他にも話したいことはあるけれど、それは携帯で話せばいい。


「そろそろ教室に戻ろっか……小珀にはうちから伝えておくよ」


「あぁ、もう伝えてあるから平気。先に言わないと心配性の小珀のお願いを聞かないといけなくなるからね……」


 苦笑混じりに話す黒木くん。何か怪しいなぁ……。


「例えばどんなお願いがあるの?もしかして、キスして欲しいとか?」


「流石にそれはないよ……今まであったのは膝枕と、添い寝だった気がするよ……ってこれ言っちゃいけないって言われてた……」


「え?添い寝ってどういうこと?まさか同棲とかしてるわけじゃないし……」


 添い寝ってできないよね?普通。たまたまどっちかの家に遊び行った時にしたんだよね?あの小珀がそんなこと言うなんて……意外と大胆だなぁ。


 そう思っていたのに、黒木くんの顔は苦笑したままだった。……まさか本当に同棲でもしてるの?そういうのは早くない?


「僕からはノーコメントで」


 一言だけ言って教室から逃げるようにして出て行った黒木くん。


 一人残されたうちはとりあえず、小珀を問い詰めようと思いながら教室を出た。







 読んでいただきありがとうございます。書いてて何か違う気がして読み直しを多くして書き直したりしましたがこれが限界でした。

 誤字脱字等何かありましたら報告してもらえると助かります。


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