第30話 楽しいお昼と相談

 「誰のせいだと思ってんだよ……酷い目に合ったぞ」


「俺の気持ちがわかったか?ついこの前まで追いかける側だった山崎くん?」


「正直舐めてた……やばいよな。小川達」


「あいつらは殺す気で来るからなぁ……まだ菊池さんだとバレてはいないのか?」


「一応な。バレたのは女子と出掛けてるってことだけだったんだけど、誰かが彼女さんとか言うからさぁ!」


「悪い悪い。つい追いかけられてた時の恨みでな」


「申し訳ございませんでした」


「とにかく、正式に付き合えたんだろ?おめでとう」


「ありがとな……まぁ学校では隠すしかなさそうだけどな」


 実は合コンをした時のメンバーは全員同じクラスだったのだと後で知って驚いた。学校が始まって間もなかったこともあって名前も覚えきれなかったのもあるが、教室での印象と全く違くてわからなかったのだ。今はたまに話す程度の仲にはなったが。


 菊池さんは特にその例で、学校では優秀だ。失敗はしないし、よく教師の手伝いをしているところを見る。合コンの時のドジっ子感はなんだったのだろう。


 まぁそんな菊池さんと付き合ってると知られたら山崎は大変な目にあう。だからこそ隠すしかないのだ。


「由奈は別に知られてもいいって言ってくれてるんだけどな……まぁ俺そんなかっこよくもないし由奈が俺と付き合ってることでなんて言われるかわからねぇし、俺は奴らに酷い目にあわされるしな……」


「下の名前で呼んでるのか。お熱いことで……まぁ、菊池さんの隣を堂々と歩きたいのなら生まれ変われよ」


「お前だって谷口さんと下の名前で呼びあってんだろ……生まれ変わるのって難しいんだよ」


「難しくないぞ。本当に好きならな」


「どういうことだよ」


 少しキレ気味になる山崎。まぁこの言い方だと生まれ変われないのは山崎は本当は菊池さんのことを好きじゃないって言ってるようなものだからな。


「そのまんまだ。本当に好きで、菊池さんと自信を持って付き合いたいのなら変われるだろってことだよ」


「陽輝、喧嘩売ってんのか?」


「売ってるつもりはない。事実を述べたまでだ」


「お前いい加減に———」


「俺は名前すら覚えていない昔の好きな人を今でも好きだ」


「だからなんだよ。それがどうしたっていうんだよ」


「俺は、あいつが好きだ。だからこそ今まで努力をしてきた。あいつが家事をできなくても俺が代わりにできるように。安定した収入を得られるように勉強も欠かしてない。俺はもともと勉強は嫌いだったが今では嫌いじゃない。家事も最初は大変だったが今じゃ普通にこなせる。全部、あいつと将来暮らすことを考えて身につけたものだ」


 俺が今までできているんだから、山崎だってできてもおかしくはないのだ。

 まぁ俺にも色々あったけれど、結局あいつのことが好きだから頑張れたのだ。



「俺がここまでできているんだから山崎もできるだろ?俺みたいな人間ができるんだから」


「………俺は陽輝は努力なんかしないでなんでもできると思ってたよ」


「そんなことねーよ、過大評価しすぎだ。元々は鈍くせぇからな、俺。まぁそんな俺が今は大体のことはできるんだから、お前もできるだろ?」


「………頑張ってみるわ。まずはテストで結果を出せるようにするわ!」


「その意気で頑張れよ。そしていつか彼女が菊池さんとばれて俺の代わりに犠牲に……」


「ならねぇからな?!流石に嫌だからなそれは!」


 珍しく山崎と話しながら過ごした昼休みはとても楽しかった。

 山崎、俺のためにも頑張れよ。










「話ってなんだい?谷口さん」


 昼休み。うちは黒木くんを空き教室に呼び出していた。


 理由は言わなくてもわかるよね。


「あのさ、黒木くんって陽輝の幼馴染で昔からずっと一緒なんだよね?」


「そうだよ?それがどうかしたかい?」


「ならさ、陽輝の好きな人のことってわかる?」


「……嘘はつかないで話すよ。僕は知っている。名前もフルネームで覚えているよ。……谷口さんも知ってるんじゃないのかい?というか、知ってなきゃおかしいよね。だって———」


「陽輝の好きな人の名前はたにぐち みどりだから?」


 聞きたいことの一つ目はこれだ。まぁうちは陽輝がひろくんだって思うし、うちの身に起きた出来事と陽輝の身にできた出来事の時制は一致しているからね。


 ただ、陽輝は知らない。だけど、黒木くんなら知っているのではないのか、と考えた。


 昔からずっと一緒の黒木くんなら知っているかもと思って聞いてみたけれど……当たりだったようだ。


「そうだね。陽輝の好きな人は谷口さんだよ。ただ、今の谷口さんじゃないけどね」


「それが聞けてうちは安心したから平気だよ……じゃあさ、次に聞きたいんだけど———」


「なんで陽輝は谷口さんの名前と思い出を忘れてるのかってこと?」


 うちの言いたいことを先読みして答えてくれる黒木くん。多分、いつか聞かれるんじゃないかって考えていたのかな?


「察しがいいね、黒木くん」


「まぁ僕が谷口さんの立場なら絶対に聞くからね」


「知りたいと思うよね……それで、理由はわかる?」


「僕の予想でもいいかい?実際に知ってるのは陽輝のお母さんだけだと思うし」


 そして、黒木くんは話し始めた。















読んでいただきありがとうございます。次の話で大雑把にですが陽輝の過去について触れたいと思ってます(なんとなくわかってる人もいるかもしれませんが……)


誤字脱字等何かありましたら報告してもらえると助かります。


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