第29話 鈍感馬鹿アホお兄ちゃん



 翠を送って、家に戻ると陽奈はまだ起きていた。


「お兄ちゃん、無理させてごめんね?翠さん可愛いから、何かあったらと思って……」


「気にすんな。俺も送った方がいいと思ってたんだから」


 陽奈が謝ることじゃない。無理してでも送っておくべきだった所なのだから。


 もし翠に何かあった時、俺は必ず後悔するのだから、そうならないようにするのは必然だ。


「そっか……ところでお兄ちゃん、翠さんと親しげだったよね?」


「まぁそれなりに仲良くやってるよ。異性じゃ一番仲良いんじゃないか?」


 佐藤さんとはそこまで話すわけでもないし、クラスの女子とはあんまり話さない。というか毎日話す翠が少しおかしいぐらいなんじゃないのか?


「お兄ちゃんさ、翠さんのことどう思う?」


 いきなりどうしたのだろうか。


「どう思うって……」


「私はさ、翠さんみたいな人がお姉ちゃんになって欲しいなー」


「どういうことだ?」


 お姉ちゃんって……そういうことか?


「本当はわかってるでしょ?私の言いたいこと」


「まぁ、わからなくはない……だけどさ、陽奈も知ってるだろ?俺が好きなのは——— 」


「翠さんでしょ?」


「何言ってんだ。翠はあいつじゃない。確かに似ているけど——あいつじゃないよ」


 あいつは翠じゃない。写真に似ている気もするし、雰囲気だってどことなく。だけど———違う。


「私はお兄ちゃんの好きな人が翠さんじゃなくても翠さんと一緒にいて欲しいな。いつか結婚してくれれば私のお姉ちゃんに翠さんが!」


「そんな未来は来ないからな?俺も翠もお互い好きな人がいるんだから。でもまぁ、これからも友達として一緒にはいると思うから安心しろ」


「…………鈍感馬鹿アホお兄ちゃん」


 そう言い残して自分の部屋へ行った陽奈。


「なんで俺が鈍感馬鹿アホお兄ちゃんなんだよ……」


 思い当たることはないのにそう言われてしまえば納得はいかない。何が鈍感馬鹿アホなんだよ……。


 とりあえずまだ頭がぼんやりしているので歯を磨いて寝た。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝、すっかり普段通りになった俺は学校へ一人で向かう。悠真は先に行っていると連絡が入っていた。


 教室に入ると、一人の男子がいじめられていた。あれは……山崎か?


「陽輝!助けてくれ!こいつらが殺そうとしてくるんだ!」


「「「黙れリア充!裏切り者には制裁を!!!」」」


 察した。やつはきっと誰かにデート中のところを見られて、リークされたのだと。


 まぁ俺らもあの二人が仲良く手を繋いでいるところ見たしなぁ……。


 とりあえず燃料投下でもしてやろっかな。追いかけられた恨みは忘れねぇし。


「なぁ、お前ら。知ってるか?一昨日俺山崎が可愛い彼女さんと手を繋いでなんだっけ……プリクラってやつ?よくわかんねぇけど写真機の中に入るところ見たんだよな」


「「「それ本当なのか!?」」」


「嘘じゃねぇぞ。仲良く恋人繋ぎで入っていってたよな!山崎くん?」


「なんで陽輝がそれを知ってるんだ?!……あ」


 馬鹿だな。俺の言葉に反応しなきゃそこまで重いいじめにはならなかっただろうに……。まぁ次からは隠してやるか。もう気も済んだし。


「「「山崎。言い残すことはあるか?」」」



「……俺の彼女は可愛かったぞ!」


「「「死ねぇぇぇ!!!」」」


 この後山崎がどうなったかは……まぁ想像つくだろう。勇敢な山崎に拍手を送ってあげた。




「おはよー陽輝!元気になった?」


 山崎がいじめられてるのを見ていたら翠がやってきた。


「あぁ、本当に助かった。ありがとな」


「気にしなくていいんだよ?うちも陽奈ちゃんと仲良くなれて楽しかったし」


 翠が来てくれなかったらかなり危なかったと今でも思う。本当に助かった。

 ……そして、山崎をいじめていたはずの馬鹿達は、こちらをじっと見ていた。何やら嫌な予感がする。というか何か絶対に起こる。


「あ、あぁ。陽奈も翠さん可愛くていい人って言ってたぞ」


「それは嬉しいなー!」


 まだ何も起きない。だが奴らは山崎をいじめることを完全にやめてこちらに集中している。


 そして俺は仕返しを食らった。


「なぁ陽輝……お前、なんでショッピングモールで俺がデートしてることを知っていたんだ?」


「あ?たまたま用事があって———」


「うちと出掛けてたからだよ?うちも見たしねー!あの熱々の二人って、陽輝は何処に行ったの?」


 翠がうちと———と言った瞬間に俺は廊下へ飛び出して駆け抜ける。病み上がりだろうが関係ない。次の標的は俺なのだから。


 後ろから迫るクラスメイト。先程までとは違って殺傷能力のある武器を手に持っている。捕まったら死が待っているのは確定だろうな。


「「「裏切り者には制裁を!」」」



 ◇ ◇ ◇


 結局俺が教室に戻ったのは一時間目の途中で、先生に怒られてしまった。


 ただ、先生も理解してくれたようなので生徒指導室へは行かされずに済んだ。今回送られたのは主犯の小川を筆頭とした六名だった。


 教室に入った時は山崎が青あざのある顔で笑っていてムカついた。だが俺も悪いといえば悪いのでしょうがない。


 悠真は、まぁしょうがないよねといった顔を向けてきて、翠からはニヤニヤした顔を向けられた。


 その他クラスメイトからは憐れみの表情を浮かべられた。………あいつらどうにかならねぇかな。


 席に着き授業を受ける……。珍しく翠から話しかけられなかったのでそのまま授業に集中し、あっという間にお昼休みになった。


 指導を受けた奴らは小川を残して教室に戻ってきており、食堂へ向かっていった。俺も悠真と食べようと思ったのだが、


「ごめんね。今日は先約があるから」


 と言われたので一人で購買のパンを買ってきて教室で食べていた。……意外と美味しいな、これ。


「なぁ陽輝。一緒に食べないか?」


 珍しく山崎が声をかけてきたので、いいぞ、と返事をして二人で食べる。


 ……そういえば翠もいねぇな。


 まぁたまにはこういう日もあってもおかしくないか。それより、


「なぁ山崎。朝はお疲れ様」


 ちゃんと労いの言葉をかけてやらないとな。













 読んでいただきありがとうございます。悠真はどこに??

 次回は山崎と陽輝の話が続きます。

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