第28話 陽奈と翠②
「どうって……友達としていい人だなって思うよ?」
「友達ならわざわざ授業を抜け出して看病しに来ますか?」
うぐっ……痛いところをつかれた。確かに友達だからといって授業中抜けだしてまで看病には来ない。どう誤魔化すか……そうだ!
「昨日陽輝と遊びにいってね、家まで送ってくれたんだけど、様子が少しおかしくてね。それで心配だったから」
これで怪しまれることないよね!誰だって心配するでしょ。
「昨日遊びに行った相手は翠さんでしたか……確かに家に帰ってからの兄はどこかおかしかったです。それなら納得しました」
誤魔化せてよかった……と思っていたのに。
「でも、本当は兄のことが好きなんじゃないんですか?二人で遊びに行こうって誘ったりするんですし。あ、この事は兄から聞きました」
むぅ……疑い深いなぁ……いっそのこと認めるのもありなのかなぁ……と思っていたら、
「兄は翠さんと出会ってから生き生きしてるように思います。今まで何処か影がかかっていたような兄が変わったのは翠さんのおかげです。兄は翠さんに好意を少なからず持っていると思います。普段の話にもよく出てくるので」
真剣に話し始めた妹さん。変わったのって、あの日だよね……。そっか、それまでは苦しんでたのかな。うちが思っていたよりも。てか、少しは意識してくれてるってことだよね?好意があるって!やったね!
「ただ、兄は翠さんへの好意は自覚してません。なぜなら———」
「昔の子を好きだから、でしょ?」
野菜を切りながら返事をする。まずはサラダから作っておかないとね。楽だし。
「兄から聞いたのですか?私は詳しくは知らないのですが……」
「話は聞いたよ。多分、その昔の子はうちだと思うよ。まぁ、自分で言うのも恥ずかしいんだけどね……」
うちは陽輝の好きな人は昔のうちだと思っている。まぁ葵のおかげもあるんだけどね。
「もし本当に翠さんが兄のずっと好きな人なら早く付き合ってもらえませんか?」
「えぇ?!……と、危ない。いきなりどうしたの?」
突然付き合ってほしいなんて言われたもんだから、手元が狂ったよ……危ない危ない。
「母は何か知っているような雰囲気でしたが、何故か兄は好きな人のことを全く覚えていません。ただ好きという感情しか残ってないんです。そんなのは見ていて辛いんです……」
悲しそうに話す妹さん……確かにうちには思い出が残っているけれど、陽輝の方には残っていなそうだった。名前すら覚えてなかったし。
「だからっていきなり付き合えなんて言われても……」
「私は兄に幸せになってほしいだけです。父が兄を庇って死んでしまってから一度壊れた兄に……」
「え?どういうこと?」
サラダの盛り付けをしていた手が止まり、妹さんの方を向く。悲しげな表情をしていた妹さんはポツポツと話し始めた。
「この話は、私が小さい頃に起こった話なので母から聞いた話ですが———」
妹さんが話した内容は、陽輝の話していた事と違っていた。交通事故に間違いはないが、詳しい部分が異なっていた。
そこである一つの仮定が思いついた。陽奈がなぜ昔の思い出が存在しないのかについての。
これについては黒木くんにも話してみないとわからないな……。知ってるかどうかは別として。
「そんな事があったのね……でも、陽輝なら大丈夫だと思うよ。今なら乗り越えられて、幸せになれるよ」
「そうだと信じます。……テーブルの片付けが終わったので、料理お手伝いしてもいいですか?」
「いいよー!じゃあ———」
二人で夕飯を作ろうね!と言おうとして、
「それで、翠さんは本当はお兄ちゃんのことどう思ってるんですか?」
遮られた。……どうやら答えるまで聞かれ続けられるらしい。白状するしかないかぁ……。それより、さっきまで兄って言ってたのに、お兄ちゃんって言いかた変わってたよね?
「翠さんには取り繕うのをやめようと思って!それで、お兄ちゃんのことは?」
さっきまでのしっかり者の雰囲気はなくなり、今はちょっとやんちゃで明るい女の子の雰囲気をしている妹さんのみて、信用されたのだと思った。普段はこっちが素なんだろうな。
「ただの友達だって!」
「嘘はつかなくていいんですよ?」
「だーかーらー!」
「好きって認めるなら手助けしますよ?お兄ちゃん賢いくせに鈍感なところありますし」
「陽奈ちゃん手助けお願いします」
陽輝の身内の手助けがあれば付き合える可能性高くなるし、正直になるしかない……!
「最初から認めてくれればよかったのに……さぁ、ご飯作りましょ!」
「恥ずかしいじゃん……」
この後はうちが中心となって夕飯を作って、先に二人で食べ始めた時に陽輝が起きてきた。
うちらが楽しそうに話しているのをみて少し不思議がっていたけれど、色々話せて仲良くなったからね、料理のこととか聞かれたし。
今度陽輝が手料理を作ってくれて、勉強も見てくれるって言ってくれてとても楽しみになった。
◇ ◇ ◇
「もう遅い時間になったね……うちは帰るよ。また明日!」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がついたら十時前になっていたので帰ろうと思った。
ただ、陽輝はやっぱり優しいようで、
「遅い時間だから、送っていくよ」
と言ってくれた。まだ体調だって万全とは言えないのに……。
「陽輝は早く寝て明日から学校に来て!今日は大丈夫だよ」
「いや、こんな中帰す訳には———」
「大丈夫だって!意外とうちの家は近いから!」
多分だけどそんなに離れていないと思う。歩いて十分程度かな?
「じゃあ、気をつけて———」
「お兄ちゃん馬鹿?具合はもういいでしょ?送ってきなよ。何があるかわからないんだから」
陽輝の言葉を遮るように陽奈ちゃんが言う。こちらをみて、にやっと笑っている。
「陽奈ちゃん。うちは大丈夫だよ?」
「翠さんが大丈夫と言っても、私が不安なのでお兄ちゃんを連れて行ってください」
「平気だと思うんだけどな……陽輝、やっぱりお願いしてもいい?」
「ああ、わかった」
二人で陽輝の家を出る。陽奈ちゃんは笑ってうちらを見ていた。
「近かったな。俺が一人で帰った時はもうちょい時間がかかったんだけどな」
「遠回りしてたんじゃない?」
うちの予想通り歩いて十分程でうちの家に着いた。一人で帰っていたら少し怖かったと思った。……陽奈ちゃん、ナイス!
「送ってくれてありがとね、って毎回言ってる気がするよ」
「毎回言われてるな、別に気にしなくていいんだよ。男なら送っていくのは当然なんだから」
文句も言わず、送っていくことを当たり前と言う陽輝は凄いと思う。
彼の優しさには何度も凄いと思い、何度も好きだと思う。
「……好きだなぁ」
「ん?なんか言ったか?」
「本当は聞こえてるんじゃないの?」
流石に聞こえてそうな気もするので聞いてみるけど、否定されてしまう。
「いや、ぼーっとしてて聞こえてない」
「なら早く寝ないとね。今日は可愛い陽輝が見れて良かったよー!」
少しからかってうちは家に入る。こうでもしないと話し続けてしまうと思った。そしてそれは、陽輝には良くない。
家に入って気づく。陽輝からはプレゼントを貰ったけれど、うちからは渡してないことに。
慌てて玄関を開けるが、そこに陽輝の姿は無かった。
「今度こそ渡さないとな……」
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字等何かありましたら報告してもらえると助かります。
現在、執筆スピードが低下しており、学校も本格的に始まってきたので毎日更新が難しくなるかも知れません。
これからは二日に一回になるかもしれません。
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