第27話 陽奈と翠

 今回から◯◯視点を、書くのをやめようと思います。






 目が覚めたとき、身体のだるさや重さはかなり無くなっていてそれなりに動けるようになっていた。


 身体を起こして、時計を見ると七時を少し過ぎていた。


 とりあえず下に降りると、途中からいい匂いが漂ってきた。リビングの方へ行くと、陽奈がご飯を私服姿の翠と楽しそうに食べていた。


「お兄ちゃん!大丈夫?」


「あぁ、翠のおかげでそれなりにはな……それより、本当に作ってくれたのか」


 正直作りに来るとは思っていなかった。翠が看病してくれたこと自体おかしいのだから。まぁ本当に助かったが……。


「言ったからにはちゃんと作りに来るよ!早く治って欲しいし、胃袋掴みたいから……」


 時々言っていることが途中から聞こえなくなるんだが……まぁ大事じゃないだろうから気にしなくていいだろう。


「本当にありがとな、助かりっぱなしだ」


「いいのいいの、気にしなくて。それより、早く食べて!夕飯作る前に、陽輝の顔を見てさ、結構顔色が良かったからしっかり作っちゃったんだけど、食べれなさそうだったら言ってね」


 机の上を見ると、豚の生姜焼きにサラダ、味噌汁とご飯があった。


 食欲は全然あるので、まずは味噌汁を一口飲む。普段俺が飲んでいるインスタントの味はせず、だしがしっかり感じられた。


 次に豚の生姜焼きに箸を伸ばしてご飯と一緒に口に入れる。こっちの方もおいしい。


「翠が料理をここまでできるとは……思ってもいなかった。美味い」


「何それ!酷いよー?でも、安心した!」


「翠さんの料理美味しいです!お兄ちゃんより美味しいと思います!」


 そんなことを言われて少し悲しくなった。いや、俺も長年作ってきたんだけどな?たった一回食べただけで俺より美味しいって言われるのはショックだ。




 ◇ ◇ ◇



「ごちそう様。美味しかった」


「美味しかったです!ごちそうさまでした!」


「どういたしまして!」


 作ってくれた料理を残さず食べきり、今は寛いでいた。翠と陽奈は楽しそうに話していたので、昼間から寝ていたせいで、汗でベトベトなのでお風呂でも入ろうとしたら、


「絶対にお風呂に浸からないでね!よくないから!」


「シャワーだけにしてね?お兄ちゃん」


 としっかり言われたので浸かるのは我慢してシャワーだけ浴びた。浸かるの好きなのに……。


 シャワーだけなので十分程度で済み、リビングへ戻ると楽しそうに二人が話していた。


「何話してんだ?」


「料理の話を聞いてるのー。翠さんにコツとか色々ね。お兄ちゃんに負けたくないしー」


「陽輝が料理できるとは思ってなかったよ……今度食べさせて欲しいなー」


「それぐらいいいが……期待されても困るぞ?」


 あくまで俺が作る料理は手間がそんなにかからないでそこそこ美味しい物しか作らないので、期待されても困るのだが……目の前の翠はキラキラした目でこっちを見ていた。


「別にいいよ、陽輝の料理が食べたいだけだから!そーだね……今週の土日のどっちか作ってよ!」


「日曜でいいか?日曜からテスト前になるから部活ないからな」


 うちの学校はテスト後に体育祭を行うので、早めにテスト期間が来る。昔からスポーツに力を入れていたこともあり体育祭はかなり盛り上がる。テストが終わった後は体育祭練習に暮れるのだが……その話は今度にしよう。


「うぇ……日曜ね。りょーかい」


「日曜じゃ嫌か?」


 嫌な顔をしたので聞いてみる。


「いや、もうテスト期間に入るんだなーって……あのさ、陽輝って勉強できるよね?」


「一応できると自負はしているが、翠のことだからテスト期間中に勉強でも見て欲しいのか?」


 普段なら質問してくるこいつが、テスト勉強をまともにできるとは思わない。きっと俺の予想は当たるだろう。


「流石陽輝!うちの考えがわかるね!って事で、見てもらってもいい?」


「俺で構わないならいいぞ。日曜でいいよな?」


 同じ日にしてしまえば楽だからな。まぁ一日じゃ済まなさそうだけど……。


「いいよ!日曜日はよろしくお願いします!」





 ◇ ◇ ◇




 夕方、陽輝の家をもう一度訪れた。インターホンを押すと、はーい!と可愛らしい声が聞こえた。……え?なんで女の子の声が?


 とりあえず、陽輝のクラスメイトで看病しに来たと伝えると、玄関を開けてくれた。そこに立っていたのはどこか陽輝の雰囲気を漂わせる女の子だった。


「初めまして!兄がお世話になりました。妹の陽奈です!」


「初めましてだね。うちは翠って言うの。気軽に呼んでねー!」


 妹かぁ……安心したよ。うち以外の女子が家にいるかと思っちゃったよ。まぁ妹さんなら平気だ。


「とりあえず、家に上がってください!兄の部屋はわかりますか?」


「お昼に一回きてるからわかるよ。勝手に鍵を開けて入ってごめんね?陽輝が心配だったから……」


「いえいえ全然平気です!むしろ感謝してますから。翠さんが来てくれなかったら兄は大変だったと思いますから」


 勝手に入ったことを怒られなくてよかったー!あの時は焦ってたとはいえ、今思い返すとやっちゃいけないことに近かったよね。ほんとよかったー!


「とりあえず陽輝の様子見に行ってもいいかな?」


「平気ですよ」






 結果から言うと、陽輝の顔色はお昼頃に見た時より良くなっていた。薬が効いて何よりだ!


 ちょっとイタズラしたかったけど、夕飯の支度をしないといけないので我慢してリビングへ行く。


「何か食べたい物とかって陽奈ちゃんはあったりする?」


 陽輝の顔色はよかったからしっかりしたご飯を作っても平気だと判断し、うちは妹さんに声をかけた。


「私が夕飯は作りますよ?」


「陽輝にうちが作るって約束しちゃったから、うちが作るよ。だから何か食べたい物でもある?」


「わざわざありがとうございます。兄が料理する時はお肉がおかずとしてよく出てくるので、お肉を使った料理をお願いできますか?」


「おっけー!」


 冷蔵庫の中を見てメニューを考える。栄養満点で、お肉が中心の料理……うん、この材料なら豚の生姜焼きかな!


 あとは、サラダと味噌汁があれば平気だよね、と考えて早速準備に取り掛かる。




「翠さんって、兄のことどう思ってるんですか?」


 ふと思った、だから聞いた。みたいな感じで妹さんから突然聞かれた。

















 読んで頂きありがとうございます。

 誤字脱字等ありましたら報告お願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る