第25話 看病


 *翠視点






 昨日はとても楽しかった。一日陽輝と一緒にいられて、写真を撮ったり色違いのストラップを買ったりした。渡しそびれちゃったけど……。


 だけど、陽輝が家まで送ってくれたときにどこか思い詰めたような顔をしてうちを見てきた。声をかけたけれど反応が無かった。


 そして突然涙を流していた。陽輝自身は流したことに最初は気がついていなかったように見えた。


 あの時の陽輝の目には、何も映っていなかった気がする。なにもかもを失った目だった。


 陽輝から何故泣いているのか聞いて、支えになってあげたいと思った。だけど陽輝は逃げるように帰った。


 うちには、話せない内容だったのかな?それとも本当はうちとのデートが嫌だったのかな?


 そんな考えがずっと頭の中をぐるぐる回っていた。回って回って、うちがすべきことを見つけた。



 明日、ちゃんと聞かないと。どうして泣いたのか。それがうちにできる精一杯のこと。聞いて、支えてあげてあげること。


 まぁ、デートが嫌すぎて泣いたとかって言われたらショックで不登校になるかもしれないけれど、流石に無いと思う。


 うちの隣にいた陽輝は、純粋に楽しそうに見えたから。てか、うちの要望を聞いてくれてるんだから嫌ってことはないはず!


 とにかく、明日は絶対に陽輝に話を聞かないと!



 ……そう思って登校したのが今朝だった。


 普段よりちょっとだけ早めに家を出て陽輝を隣の席で待っていた。


 まだかな、まだかな……って待っていたのに陽輝は来なかった。


 なんでも、陽輝自身が熱があるって言って学校に連絡して休んだんだと、陽輝の親友の黒木君から聞かされた。


 そんなに酷くはないって黒木君の方に連絡は入っていたけれど、うちには強がりだと思った。


 いきなり泣いた陽輝の情緒は不安定なはず。きっと、あの後家に帰ってお風呂に入って、身体もまともに拭かないですぐ寝たんだろう。夕飯も食べてないはず。


 人は、情緒が不安定な時ほど体調を崩しやすいとうちは知っている。

 そして、そのときに体調を崩した場合、かなり酷いことになるとも知っている。


 


 誰かが隣にいてあげないと、ずっと辛い。いつだったか陽輝から、母さんは基本家にいない、と聞いているので今陽輝の家には誰もいないはず。


 二時間目が終わると同時に、うちは早退した。お腹が痛いと嘘をついて。


 そして、黒木くんから陽輝の家を教えて貰い(小珀経由で連絡先を貰った)、陽輝の家へ歩いて向かった。


 歩いて十五分ほど経った頃、陽輝の家の前に着いた。そこまでは良かったんだけど、ピンポンを押しても反応がない。


 寝ているのか、それとも倒れているのか。倒れていると考えたら、身体の震えが止まらなかった。


 今頃は授業中だろうと思いつつ、黒木くんへ連絡したら、すぐに返信が来た。


[とりあえずドアが開くか確認して。それで開かなかったらポストの中か、玄関脇の鉢植えの下に鍵があると思うからそれを使って開けて。ポストの開け方は、右に二回回して、左に回して三の数字を合わせると開くから。僕たちの分も看病頼んだよ]


 言われた通りにまず玄関が開くか試す。鍵がかかっていたので、先に鉢植えを持ち上げて鍵があるか確認した。


 銀色の鍵が置いてあったのでそれを鍵穴に差し込み、回す。ガチャ、という音が鳴り、もう一度ドアノブを引くと、開いた。


「お邪魔します……」


 一応挨拶をするが反応はない。しん、としていて人がいる気配はなかった。

 とりあえず黒木くんから陽輝の部屋の場所は聞いたので向かう。



 階段を登って右に曲がったところに陽輝の部屋はあった。インターホンに反応はなかったので寝てると思い、ドアを開けたら、目に飛び込んできたのはベットに倒れかかるようにしていた陽輝だった。


「ねぇ、陽輝!大丈夫?」


 声をかけるが反応はない。だけど息はしているのでとりあえず安心した。

 ベットに寝かせようと頑張ったが、力不足で体を持ち上げることはできなかったのでそのままにした。

 顔色は悪く、おでこを触ったらかなり暑かった。


「ちょっとごめんね……」


 恥ずかしいのを我慢しながら陽輝の服の中に手を伸ばして、体温計を脇の下に挟ませる。ピピッ!と言う音と共に表示された温度は三八度七分と表示されていた。


「酷い熱……多分薬も飲んでないんだろうな……薬と、スポドリあるかな……あと冷却シート」


 多少の申し訳無さはあったが、陽輝の家を漁る。薬とスポドリはあったけれど、冷却シートは見当たらなかった。


 とりあえず薬を飲ませるために一度陽輝を起こす。


「陽輝、起きて。薬飲まないと」


 何度か声をかけたら、目を開けた。


「陽輝ー?大丈夫ー?」


「………陽奈?なんで家に……早く学校に……」


 妹だと勘違いした。うちのことを。酷いなぁ……。


「妹さんじゃなくて翠だよ!とりあえず、薬飲んで?」


「………みどりか。あぁ、風邪引いて、それで倒れて……え?なんで……翠がここに?」


「黒木くんから風邪で休んだって聞いたから看病しに来たの!ほら、薬とりあえず飲んで?」


「………ぷはっ、翠、学校は?」


「心配だったから嘘ついて早退してきた」


「別に、そこまでしなくても……」


「風邪引いてるときに一人ぼっちなのは辛いって知ってるから来たの!ほら、とりあえず寝てて。お粥作ってくるから」


「助かる……」


 咳はしてないけれど、ものすごく怠そうだ。話していても声にハリがない。

 食欲があるかどうかは分からないけれどお粥を作ってあげないと。




 ◇ ◇ ◇



 *陽輝視点


 目が覚めたら、目の前に翠がいた。最初は陽奈だと思っていたが、翠が少し怒っているような言い方でアピールしてきたので気がついた。なんで家にいるのか聞き忘れたが、多分悠真が教えたんだろう。


 身体はものすごく怠い。咳や鼻水はほぼないが、とにかく身体が重い。まだ熱もある感じだ。


 翠に薬とスポドリを渡され、とりあえず飲む。……きっと俺のために家の中を探してくれたのだろう。感謝しかないな。


 挙句にお粥まで作ってくれるのだと言う。流石にそこまでは、と言いたかったが口から溢れたのは「助かる」の一言だった。



 そして今、俺はベットの上に座らされて、翠にお粥を食べされてもらってる。


「ふー、ふー、はい、あーん?」


「いや、自分で食べるって」


「ダメだよ。まだ怠そうだしあんまり動かない方がいいの。だから、あーん?」


「だが、これは流石に———」


「美味しくなかった?不味かったら言ってよ……」


「おいしいんだけど、この歳であーんは」


「よかったー!不味くなくて。じゃあ食べれるよね?あーん?」


 ……聞く気がないとわかった。そして、泣きそうな顔をして、美味しくなかった?はやめてほしい。心が痛む。


 受け入れるしかないので、ただひたすらに食べさせてもらった。恥ずかしかったが、なんだか暖かかった。


「全部食べたね。食欲はあるし、咳もないからあとは寝てれば大丈夫かな。あ、冷却シートが無かったから買ってくるね。陽輝は暑いだろうけど我慢して寝てて」


「色々とすまん……ほんと助かる。ありがとな?」


「気にしなくていいよ、うちがしたいと思ってしたことだから。じゃ、寝ててね?」


 笑顔で言われて、考えてしまう。何故ここまでしてくれるのか、と。

 単なるお人好しなのか、それともそれ以外の感情から来るのか……。

 今考えることじゃないだろう、と思って眠りについた。












 読んでいただきありがとうございます。中途半端ですが、長くなると思ったので区切りました。

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