第24話 翠とデート⑤

誤字を修正しました。





 *翠視点




 あのあと、これといって買ったものは特になく、二人で手を繋ぎながらショッピングモール内を回った。


 ただ、少し違ったのは午前中はただ手を繋いでいただけだったのに、午後は恋人繋ぎだったこと。


 ついついうちが恋人繋ぎにしちゃったんだけど、陽輝は特に気にしないでそのまま繋いでいてくれた。


 それどころか、何回か別行動した後にまた二人で回ろうとした時には、陽輝から繋いでくれたこともあった。


 それだけでうちの心はドキドキしちゃうし、心臓の音もうるさかった。顔はちょっぴり赤くなってたかも。いや、真っ赤だったかな?


 時折見せてくれる笑顔や、人とぶつかりそうになったときにうちの手を引っ張って抱きかかえてくれる優しさ。


 抱き抱えたときに、ちょっとバツの悪そうな顔をして、「すまん、危なかったから」って言ったときは、本当にやばかった。うちからも抱きしめようとしちゃってた。


 陽輝の一つ一つの行動が愛おしくてしょうがなかった。些細な事でも、うちにはたまらなかった。自分の気持ちを知ってから。


 合宿で、陽輝の事が好きだってわかって、今日のデート(うちが言わせた)で確実にわかった。


 陽輝は、だって。

 うちが、幼い頃に離れ離れになったひろくんだって。


 一日ずっといて、そうだと思った。

 あの頃の、無邪気で元気だったひろくんの面影はなかったけれど、ひろくんだと確信した。


 名前覚えてればすぐにわかったんだけど、いつもうちはひろくんって呼んでたからな……。名字までは覚えてなかった。


 陽輝は、うちがみどりちゃんって呼んでいたこと、思い出してくれるかな……。あれだけ一緒にいて、約束もしたんだしきっと思い出してくれるはず。


 陽輝から思い出してくれるまではアプローチは続けるけど、待とう。


 これから頑張らなきゃ!






 あ、そういえば、もう一人よく遊んでた子はどこにいるんだろう?




 ◇ ◇ ◇


 *陽輝視点


 特にこれといったこともなく、デートは終わりを迎えようとしていた。


 午後は恋人繋ぎに変わっていたが、俺にとっては手をただ繋ぐのと特に変わりはなかったのでそのまま恋人繋ぎのまま、回った。


 時折視界の端に山崎たちカップルを見たりして笑ったり、翠がぼーっとして他の客とぶつかりそうになっていたのを助けたりした。


 助けた時、ついつい抱きしめるような形になってしまって、セクハラになるのではないかと思ったが、特に言われることはなく無事にすんだ。


 ただ、翠が俺から離れたときにほんの少しだけがっかりした俺がいて、恥ずかしくなった。


 今日一日中翠といて、楽しかった。

 俺たちは恋人ではないが、それっぽいことをしながらでも十分楽しめた。

 振り回されたことを含めても、純粋に楽しめた。


 そろそろこのデートも終わりを迎えるが、繋いでいる手はなぜか離したくない、と思っていた。



 ◇ ◇ ◇


「今日はありがとね!楽しかったよ!」


「俺も楽しかった。ありがとな」


 家まで送り届けたので、帰ろうと思ったが身体が動かない。何故か、翠の顔をじっと見ていた。


「そんなにうちのこと見てどうしたの?なんかついてたりする?」


 恥ずかしそうにもじもじし始めたが、そんなことは今気にしていられなかった。翠の顔を見つめるたびに、何かが、頭の隅に引っかかっている。思い出せそうで、思い出せない。


「ねぇ、本当にどうしたの?じっと見て。少しは反応して欲しいよ?」


 後ちょっとで何かが思い出せるというのに思い出せない。まるで、かのようだった。


 そして、ふと気がついた。右頬を伝う一筋の涙に。


「陽輝!陽輝!どうしたの!」


 わけもわからなく出てくる涙。止まらない。意味がわからない。何故泣いているのかすらわからない。


「なんでも、ないんだ。気にしないでくれ。それより、今日は楽しかったから。もう帰るわ、送り届けたし」


 今の俺は、翠の前にいてはいけない。そんな気がした。だから、走って帰った。


「ちょっと、陽輝!待って!」


 翠の声を無視して。


 ◇ ◇ ◇


 気づけば、俺は玄関に座っていた。疲労によるものなのか、それ以外の何かによるのかはわからないが動く気にはなれなかった。


 玄関に飾ってある写真を見る。小さい頃の俺と、母さんと、妹と……父さん。


 その写真を見て、また涙が溢れ始めた。またもや理由がわからない。ただ、どうすることもなく、涙を流し続けた。




 いつのまにか寝ていたらしく、起き上がろうとするが起き上がれない。何かが俺の上に乗っかっていた。


 乗っかっていたのは、血まみれの父さんだった。至る所から血を流し、足は変な方向に曲がっている。


 周りを見渡せば、自分の部屋では当然なく、昔よく遊んでいた公園の脇道だった。道路には血が流れていて、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。


 父さんを見ると、ふと視線が合った。そして———



「あああぁぁぁぁぁ!……はぁ、はぁ………」


 目が覚めた。今度こそ現実だ。時計を見るといつもより早い時間だったが、起きようと思い身体を起こす。あの夢はなんだったんだ……と考えてながら洗面所へ向かおうとした。


 足が前に出ない。というか、床に沈んでいるような感じだった。そして、身体全体が重く感じる。普段より怠い。


 部屋に常備している体温計を頑張って取って、熱を測る……三十八度三分。


 風邪を引いてしまったみたいだ。どつりで普段より身体が重いわけだ。


 携帯のメッセージアプリで悠真に連絡を入れておき、学校への連絡も済ませておく。


 リビングになんとか行き、陽奈のご飯を軽く用意して、部屋に戻る。


 部屋に戻って、ベットの上に倒れ込んでからの記憶は無かった。そのまま寝たのか、気を失ったのかは分からなかった。





 目を覚ましたときにいたのは、制服姿の翠だった。何故、ここに?













 読んで頂きありがとうございます。

 今回で、デート回はお終いです。

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