第23話 翠とデート④

 カコン!


 今入った翠のシュートで、同点だ。

 序盤は俺が優勢に得点を重ねていたのだが、途中から翠の動きが良くなり、俺のシュートはなかなか決まらず、逆に何度もカウンターを食らう羽目になった。


「これで同点だねー!次で終わらしてあげるよ!」


「チッ、俺が決めて終わるんだよ」


 パックを取り出し口から取り、速攻を仕掛ける。が、普通に返され、そこからはお互いが一歩も譲らないまま撃ち合いが進んでいた。


「早くミスしてよー!もう!」


「負けられねぇんだよ」


 均衡が崩れたのは、翠のミスだった。パックが緩くこちらに飛んできたのだ。ここで仕掛けるしかない!


「もらった!」


「引っかかったねー!」


「嘘だろ?!」


 俺がゴール付近でパックを打つのをやめて前の方で強く打ったのを翠はブロックした。そしてそのままブロックしたパックは俺のゴールへ吸い込まれるようにして入った。と、同時に終了を告げる声が響いた。


「うちの勝ちだねー!何聞いてもらおっかなー!」


「まじか……」


 負けるとは思ってなかったので結構ショックだった。


 そして翠は小悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。……普通に翠は可愛いので周りの人も何人かチラチラ見ている。ただ、あの笑みを浮かべている時はあまり良くない。


 実際に良くなかった。


「うちに負けた罰としてー、さっきいた二人にうちのことをか、彼女って言って紹介してきて?」


 ほらろくでもなかった。こんなこと言ったら俺は普通の高校生活を送れなくなる。主に馬鹿クラスメイトのせいで。


「冗談でも良くないぞ。俺なんかと付き合ってるなんて言うな」


「そんなことないんだけどな……」


「ん?なんか言ったか?」


「な、何でもないよ !……言えないよ……」


 またもや後半部分が小声だったので聞こえなかったが、あんまり気にしなくても大丈夫だろう。


 それより、罰のことを俺は心配するべきだろう。


「紹介してくれないなら、あれ撮ろうよ!もちろん、拒否権はないよね?今回は」


 先程山崎と菊池さんが一緒に撮っていた写真機を指差して、俺に言ってきた翠。


 別にそれぐらいなら構わないのだが……


「ああ、それぐらいならいいぞ。ただ、俺撮ったことないんだけど平気か?」


「大丈夫だよ!言われた指示に従ってポーズを取るだけだから!」


 そんなもんなら簡単だな。軽くて済んだ……と思っていた。この時は。


 早速写真を撮るために向かう。さっきの二人とは違うタイプのところで止まった翠。


「これがいいんだけど、いい?」


 と聞かれても俺にはさっぱりわからないので「平気だ」と返事をする。


 まず驚いたのは写真を撮るだけなのに四〇〇円した。まぁ半額出しているので二〇〇円だが、普通に高いと思った。


 準備ができたらしく、中へ入っていく翠に続いて俺も入った。思ったより広かった。何やら翠が画面を操作していたが、俺にはわかるはずないと思い気にしなかった。


 思えば、この時ちゃんと見ていれば後で後悔することはなかったのだろう。




 早速指示がではじめた。その指示に従って荷物などをカメラの横のスペースに置いて、多少だが身だしなみを整えた。


 そして、写真を撮る時のポーズを指示された。


 最初の方は、猫とかのポーズで済んだのだが、

[次は、お互いのほっぺにつん!ってしてねー!]


 翠と接触系の指示が出た。


「なぁ、翠。従えばいいんだよな?」


「そ、そうだよ!だから、ほら!」


 俺の頬に翠の人差し指が触れる。もちろん俺も翠の頬に指を触れさせた。ふにゅっとして、柔らかかった。


 パシャ!と音がなり、次の指示が出た。


[次は、腕を組んでね!]


 またもや接触系の指示が出た。……こういうものなのか?


「ほら、指示が出たから腕を組むよ!」


「あ、ああ。これでいいのか?」


 右腕に感じる翠の腕の感触に、柔らかい何かの感触。これって、気づいてないのか?

 隣を見るとにひーとしてカメラを向いて笑っている翠がいたので、あんまり気にしないようにしながら俺も作り笑顔を作った。



[最後に、彼氏さんは彼女を後ろからハグしてね!]


 ……彼氏さんってどういうことだ。確認しようと翠を見るが


「別にどんなモードで設定しても陽輝は言うこと聞かないといけないよね?」


 と、顔を赤くしながら言われたので、一応確認のために


「なぁ翠。これもしないといけないのか?」


 と尋ねた。


「最後まで指示に従わないと……ほら、早くして?時間無くなっちゃうよ?」


 ほんのり顔を赤くしながら俺に言ってくる翠。許可は一応得たので、指示に従って後ろから優しく抱きしめた。

 ほのかにいい匂いがした。多分、女子特有の甘い匂いだったと思う。

 意識しない方が難しかった。


「ひゃ!……暖かいね」


「まぁ、暖かいだろうな」


 お互いの触れてる面積が広いんだからそれは暖かいだろ……と頭の隅で考えていたら、俺の両腕をぎゅっと抱きかかえられた。


「ちょっ!何して———」


 パシャ!


[お疲れ様でしたー!写真が出来上がるまで外でお待ちくださいー!]



 ◇ ◇ ◇



「変な顔ー!可愛いねー!」


「うるせぇよ……お前だって顔を真っ赤だろ」


「これは暑かったからだよ!」


 出来上がった写真を見ていると、最後の写真は、俺が驚いた顔をしていて、翠の方は真っ赤だった。後の写真はお互いいい感じに笑っていた。


「半分ずつにできるから、これ」


「おう、サンキュー」


「大切にしてよね?」


「まぁ、それなりにはな」


 半分翠から貰い、財布の中へしまう。

 一応取っておこうと思った。

 翠にも言われたしな。


「この後はどうするんだ?」


「えっとねー、あっちのお店に行こ!」


「焦るなよ。俺は逃げねぇから」


 手を繋がれ駆け足で向かう翠に遅れないように付いていった。

 繋がれた手は、自然に恋人繋ぎになっていた。

















 読んで頂きありがとうございます。

 次でデートは最後にします(多分)

 デート回が終わったら、一日空けてまた更新します。その間に書き溜めと勉強のために小説を読み漁ろうと……

 誤字脱字等何かありましたら報告してもらえると助かります。

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