第21話 恋心、自覚

 今回は翠視点です。













 私の右手に感じる温もり。手を繋いでいる相手は陽輝だ。私から無理やり繋いだけど、離さないでいてくれる。

 なんで今日、このようなことを積極的にしているのか、きっかけは合宿の二日目だった。





「ねぇねぇ翠さんや、正直に答えてね?陽輝くんのことどう思ってるん?」


 私が、所属している女子バレー部は、どちらかというと強豪である。県大会の八強からは落ちたことはないという。だから、県外のチームとよく練習試合や合宿を行う。だからGWも県外へ行き、合宿を行っていた。


 その合宿の二日目の夜。諸々を済ませて、後は寝るだけとなり、私は他の部員と話していた。


「どういうことかわからないけど、いい人だなーって思ってるよ?」


「それだけじゃないでしょ?普段の練習の時からよく見てるじゃん!」


 そう言ってくるのは、私の親友の葵だった。中学校から一緒で、お調子者だ。


「だってさ、一人だけ目立ってるでしょ?ついつい視線が行くのはしょうがないじゃん」


「そんなことないと思うけどな〜。黒木君も同じポジションとして言わせてもらうけど、凄いからね?」


「もうお風呂出たの?小林先輩」


 新たに会話に参加してきたのは、一個上の小林先輩だった。今のチームで二年生唯一のスタメンだ。私たちとも気軽に話してくれる、優しい先輩だ。



「まぁ私長風呂しないから。それより、黒木君ともう一人の子は同じくらい目立ってるのに、もう一人の子しか見てないんだって?」


「そうなんですよ!練習中よく見てるのはもう一人のほうの紅島くんだけなんですよ!怪しいと思いません?」


「私は怪しいと思うかな〜」


「うちはなんとも思ってないから!」


 二人してうちのほうをじっと見てくるので、ちゃんと否定する。


「そっかー、じゃあさ、私合宿終わったら紅島くんに遊びに行かない?って聞くけどいいよね?」


「行ってくればいいと思うよ」


 別に聞かなくてもいいのに。陽輝とはただの友達なんだから。……でも、ほんのちょっぴりもやもやする。このもやもやはなんだろう。


「翠ちゃん可愛いわね〜顔に出てるよ、少し困った顔しちゃって〜」


「そんな顔しないでよ、私は行かないから」


「別に顔に出てたのは、そんなこと聞かなくてもいいでしょ!って思ってたから!」


 やけになって言い返す。陽輝が誰と遊ぼうと関係ないのだから。


「でもさ、私たまに思うんだよね。小林先輩は知らないと思うんですけど、翠の好きな人って幼い頃の友達のひろくんって子なんですよ」


「ちょっと葵!勝手に言わないでよ!」


 葵には私の好きな人の事は言ってある。幼い頃離れ離れになった仲の良かったひろくん。ずっと好きな、ひろくんのことを。


「まぁまぁ、小林先輩ならいいでしょ。で、そのひろくんって子と紅島……黒木ともう一人の上手いやつの名前なんですけど、下の名前が陽輝って言うんですよ」


「なるほどね〜、でもそれだけじゃ同じとは限らないでしょ?」


「翠がバレーを始めた理由って、そのひろくんって子からボールを貰ったからだよね?」


「そうだよ?離れ離れになるときにプレゼントされたから始めてみようと思って」


 引っ越すとき、彼がバレーボールをくれたから始めようと思った。男子にはあまり人気ないが、女子には人気があって、周りの子にも何人かやっている子がいたので始めた。


「あれだけ上手かったらその幼い頃からやっててもおかしくないでしょ?名前の一致に、昔からやっててもおかしくない。で、翠は中学校に進学と共にこっちに戻ってきたから、中学は一緒じゃなくても高校なら一緒になる可能性は全然あるわけだから、私は紅島くんが翠の好きな人だと思ってるわけ」


「でも、そんな偶然ある?向こうがうちと離れ離れになってから引っ越したかもしれないし、バレーやめてるかもよ?」


 陽輝がひろくんだというのはないだろう。ひろくんも昔から好きな人がいるって言ってたし……ん?昔から?その昔って幼稚園って言ってたのよね?……偶然、同じ時期だ。引っ越したのと。


「私は葵と同じ考えかな〜。全然ありえない事はないと思うからね〜、って翠?顔赤いよ?」


「どうしよう……うちも陽輝の事、ひろくんって気がする」


「私の推測を聞いてそう思ったんだな?そうだろ?」


「それだけじゃないの……この前さ、うちさ、クラスの友達の代わりに合コン行って、陽輝もいてさ、色々話したの。その時、陽輝が、幼稚園の頃から好きな人がいて、引っ越してるんだって……よく考えたら、うちも幼稚園の頃に引っ越してるから……」


 陽輝の話す、幼稚園の頃に引っ越した、うちの引っ越した時期、名前が似ている、昔からバレーをやっている事と、陽輝の言った、かけがえのないものという言葉。


 ここまで一致しているなら、陽輝がひろくんでもおかしくはない。


 そう考えると、急に陽輝の事が気になった。嫌な顔をせずうちに問題を教えてくれたり、夜は家まで送ってくれる。歩くスピードも自然に合わせてくれる。いつも陽輝は優しかった。

 ————そっか、今は陽輝の方が好きなのかな。たとえひろくんじゃなくても、いいって思えるくらいには。


「恋する乙女って顔してるわよ〜翠ちゃん。ひろくんが、紅島くんかもって思って、どう思った?」


「陽輝が……ひろくんじゃなくても、別にいいかなって思った。うちは、陽輝の隣にいたい」


 きっとうちの顔は真っ赤になっているだろう。陽輝のことを好きっていっているようなものなのだから。


「そっかそっかー!紅島くんの隣にいたいのかー!じゃあ、早速仲を深めるためのイベントを用意しようじゃないか!………これでよし!後は自力でなんとかするんだ!」


 葵ならうちの携帯を渡されて、画面を見ると陽輝へ電話をかけている状態だった。


「なんで電話かけてるの?!ていうか、なんで暗証番号わかるの?!」


「翠のことだから誕生日だろうなーと思って打ち込んだら開けたから、それより、繋がったっぽいよ?」


「もしもし、何の用だ?」

 携帯越しに聞こえる陽輝の声。陽輝への恋心を実感した今聞くと、とてもドキドキする。


「ふぇ?ち、ちょっと待ってね!……本当に出たんだけどどうすんの?」



「そのまま遊びに誘っちゃえー!」


「そーだそーだ!」



 この後に、出かける約束をして、葵と小林先輩からは積極的になったら?と強く言われて、今日はうちから積極的になっている。


 朝は待ち合わせをして、普段より力を入れておしゃれをして、待ち合わせ場所に行ったら見惚れてたと言われ、とても嬉しかった。


 ショッピングモールを回る時は基本手を繋いで回り、服を選んでもらったりもした。


 お昼ご飯を食べた時は、恥ずかしかったけれどあーんってしたらほんのちょっぴり恥ずかしそうにしてた陽輝を見て、あぁ、意識してくれているんだと思った時は嬉しくなった。


 陽輝からハンバーガーを差し出された時は、ドキドキしているのを隠すために大きく齧ってやった。なるべく顔に出さないようにして。


 その後に口についていたソースを手で拭き取られ、ぺろっとされた時は倒れるかと思った。口元を、手で触られたし、顔も近くにあった。ドキドキが止まらなかった。


 ずっと、こんな時間が続けばいいとは思う。けれど、終わりはくる。だから、


「陽輝!あっちのお店に行くよ!時間は有限だよ!」


 今日は、精一杯楽しもう。


















誤字修正いたしました。

 読んでいただきありがとうございます。まずはお礼を。フォロワー50人に到達しました!本当にありがとうございます!

今回は翠視点で何があってデートになったかを書きました。

 まだいちゃいちゃはあんまりさせられないと思いますが、翠から陽輝へのアプローチは頑張って書いていこうと思ってます!

 誤字脱字等何がありましたら報告していただけると嬉しいです。

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