第20話 翠とデート②



 まずやってきたのは洋服屋だった。翠の夏服が少なくなったらしい。なんでも、昨年着ていたのを着たら少し小さかったのだとか。それに付き合わされる形となった。


 今日のデートのために予め悠真の方に色々な事は聞いてある。女子が服を選ぶ時は絶対に時間がかかるし何店舗も回るから我慢する、どっちがいいと聞かれたら素直に自分の意見を述べる、などなど役に立ちそうな事は聞いた。


 早速役に立つと思った。目の前に服を二つ持った翠が現れたからだ。


「ねぇ、どっちの方がいいかな?」


 そう言って持ってきたのは、天色あまいろで、花柄のワンピースと、薄青の無地のワンピースだった。


 花柄の方は、翠のもともとの可愛さを引き立たせつつ、綺麗さも表せると思った。しかし、薄青の方は普段の翠には合わないが着ている所を想像すると悪くなかった。


「俺は天色の方のワンピースの方がお前には似合うと思う。薄青の方も悪くないんだが、翠のイメージって言ったら天色の方が近いと思った」


「陽輝がそう言うなら、こっちの天色?って言う方のワンピース買ってくるね!」


 なんとか上手く選べたようだ。これ、うまくいかないとこの後がかなり辛くなるらしいとのこと。悠真は実体験で一度味わってるのだとか。





「お待たせー!次、行こっか!」


 買い物袋を下げてやってきた翠に引っ張られつつ、次のお店に向かう。

 相変わらず手は繋いだままだった。




 ◇ ◇ ◇




「なぁ翠さんや、そろそろお昼でも食べねぇか?」


 午前中目一杯翠に振り回された俺は、お腹が空いたので携帯で時刻を確認し、お昼をちょっと過ぎていたのでお店を空いていると思い翠に声をかけた。



「早くないー?もうちょっとだけ見ようよー!」


 翠はまだ服を見ている。今いる店は三店舗目だ。女子が洋服を見たり買ったりするのに時間がかかるとは聞いていだが、ここまでかかるとは思ってもいなかった。


「俺、腹減ったんだけど。洋服なら後でも見れるだろ?」


「あと五分だけー!」


 そう言った翠が店から出てきたのは、十五分後のことだった。





 ◇ ◇ ◇





「美味しい!フワッフワだよ?これ」


「こっちも中々美味い。値段の割には量も多いし」



 店からやっと出てきた翠を連れて、フードコートへ来た俺たちは、各自料理を注文して食べていた。


 俺が食べているのはハンバーガーセットで、翠が食べているのはオムライスだった。

 俺が食べているハンバーガーは、まぁ某チェーン店の期間限定のやつなので普通に美味しいが、翠の食べているオムライスは見た目がとろっとろで、卵に包まれているチキンライスの方も美味しそうだった。


「ねぇねぇ、そんなに見てるなら食べる?」


 じっと見ていたのに気づかれていた。


「じゃあ、一口だけくれるか?」


「うん!じゃあ、あ、あーん?」


 俺の口元に運ばれる一口サイズのオムライス。美味しそうだが、それを持っている手元は震えていた。翠の顔を見れば、顔が赤く染まっていた。


「ほら、早く!あーん!」


「いや、スプーンくれれば別に……」


「恥ずかしいんだから!ね?早く食べて?あーん?」


 周りには他にも食べている人がもちろんいるので、こちらを見ている人も何人かいた。

 恥ずかしいならやらなきゃいいのに……と思いつつもこのまま食べないのは周りからの視線も痛いし、翠にも申し訳ないだろうと思って、食べる。


「どう?美味しいでしょ?」


「あ、あぁ。美味しかったぞ」


「だよね!」


 美味しいとは言ったが、あんまり味は分からなかった。女子と間接キスをするぐらいどうってこと無いと思っていたが、実際にすると恥ずかしかった。そのせいで肝心の味は全く分からなかった。


 翠は、俺に一口あげたあと何気ない顔をして残りを食べていた。……あーんは恥ずかしいくせに間接キスは気にしてないのはちょっとムカつく。


 だからやり返そう。


「翠、俺のも食べてみるか?」


 そう言って翠にハンバーガーを突き出す。もちろん、翠には渡さない。


「いいの?じゃいただきまーす!」


 大きく口を開けてがぶっ!と食べる。俺が差し出していることも、口をつけてあることも気にしている様子はなかった。


「ん〜〜!こっちのも美味しいね!ん?どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 無性に悔しくなった。俺だけ意識していたのが少し恥ずかしかった。

 っと、翠の口元にソースがちょこっと付いていたのに気がついた。


「ちょっと翠こっち向いて」


「どうしたのー?」


「ちょっと止まって……取れたからもう気にしなくていいぞ」


「あっ……ありがとね?」


 口元についていたソースを指で拭き取り、ついつい舐めてしまった。たまに陽奈がご飯粒とかをつけている時によくつまんで食べていた癖が出てしまった。


「次からは気をつけろよ?」


「う、うん……」




 ◇ ◇ ◇






「美味しかったな」


「うん!」


 あの後は特に何も起きず、三十分程で食べ終えた。ちょっと翠の顔がほんのり赤かったぐらいで特に何もなかった。


「これからどうするんだ?」


 今回は翠から誘ってきているのでこれと言った予定は俺にはなく、翠に合わせる形でいる。


「行きたい場所まだあるんだけど、一緒に来てくれる?」


「今更何言ってんだ。ついていくに決まってんだろ」


「言質とったからね?それじゃ、行こっか!」


 手を繋がれ、引っ張られていく。傍目から見たら俺たちはどう見えるのだろうか……と考えつつ、この時間が続けばいいと、ふと思った。

 俺は今でもあいつ……が好きなはずだ。なのにこんな事をしていても良いのだろうか?と一瞬思ったが今この場でそれを考えるのは翠に申し訳ないと考え思考を放棄した。


 まだまだこの時間は続くのだから、今は考えなくてもいいだろう。


 今は、隣で歩く彼女が笑顔ならそれでいいと思った。
















 読んで頂きありがとうございます。

 次回は、翠視点で書けたら書いてみます。視点を変えるのは初めてなので、もしかしたら一日空くかもしれません。その時は申し訳ありません。


 誤字脱字等ありましたら報告してもらえると助かります。

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