第14話 親ってすげぇな


「なぁ、母さん、今なんて言った?」


 俺の聞き間違えじゃなきゃ、母さんは俺の好きな人……あいつが同じクラスにいると言ったはずだ。

 本当にそう言ったのか?


「だから〜同じクラスにあの子がいたわねってこと〜。もちろん名前は教えないからね〜?本当に好きなら名前ぐらい自分で思い出せるよね〜……あぁ、でもあの子の名前変わってたわね……」


 後半部分は聞き取れなかったが、そんなに大事なことじゃないだろう。

 それより同じクラスにいるだと?あいつが?誰なんだ?


「本当にいるんだな?俺のクラスに」


「あなたから貰った手紙にね〜クラスメイトの名前と集合写真載ってあったじゃない?それに載っていたから間違いないと思うわよ〜?」


 手紙って……学級新聞的なやつか?担任から貰った手紙色々と大切なやつといらなそうなやつをごちゃ混ぜで配布してきたから纏めて渡したのが仇となってるのか?

 最後に会ってるのが十年近く前、それでいて名前もわからないのだから探しようがほぼないが、同じクラスにいるってわかってるならなんとかなるだろう。悠真もいるし、二人で探せば……


「そうそう、家に帰る前に悠真くんと可愛い彼女さんに会ってね〜。悠真くん相変わらずイケメンだったわ〜。もちろん、彼女さんもとっても美人だったわ!話ちょっとそれたけれど、悠真くんはあなたの好きな子分かってたわよ?私が、「何故教えてあげないの?」って聞いたら、「自分で思い出さないと意味がないと思うからです」って返ってきたわ〜まぁ、深い意味は私と同じじゃないかしら〜」



 なんで俺の思考を読んで、その思考に対しての返事が返ってくるんだ?マジで母さんって何者?

 それに、悠真は知っているがわざと教えてない……ってことか。自力で思い出すか、探し当てるしかないのか。


「母親は子供のことはすぐに分かったらするものなんだから〜」


 だから、思考を読まないでくれ。

 親って凄ぇ。



 ◇ ◇ ◇



 他にも色んなことを話しているうちに時間はあっという間に過ぎ、十一時を過ぎた頃に


「本当はもっと居たいんだけど〜もう行かないと間に合わないのよね〜」


 と言って支度を始めた。


 明日も県外に行かないといけないらしく、夜もあんまり寝れないそうだ。


 母さんの支度が終わったので陽奈と見送りに玄関外まで行く。陽奈のほうは普段はこの時間帯は寝ている、だからうつらうつらしながら頑張って起きていた。


「次いつ帰ってくるかわからないけれど〜兄妹仲良く暮らしてね〜?」


「あぁ、任せてくれ。家のことは気にしないで仕事に専念してくれ」


「おかあさん……がんばってね……」


「うふふ。それなら安心だわ。じゃあ、行ってくるわね〜」


 自前の車に荷物を乗せ、運転席へと行った母を見て陽奈を家の中へ連れて行こうと振り返った時、


「あなたがまた試合で活躍するときは必ず行くから、連絡してちょうだいね〜。ちゃんと教えなさいよ〜?」


 と、何気ない一言を言って車を発進させてしまった。


 ……母さんに部活の件は何も言ってないのに見抜かれてるとは。


 本当に親って凄いのだと改めて実感した。



 ◇ ◇ ◇



「陽輝はあの子のことわかるかしら〜」


 深夜、車の数も減った高速道路を走りながら彼女は呟いた。


「私の方には再婚したわ!って言うが連絡来て、新しい家族写真が届いたけれど陽輝には見せてないのよね〜。でも、小さかった頃から好きって言ってる子を、普通は忘れないと思うのよね……」


 そう独り言を呟く彼女の表情は少し悲しげな表情だった。普段ののんびり、ほのぼのとした雰囲気はどこにも存在していなかった。


「ねぇ、陽汰ようたさん……貴方が亡くなってもう何年も経っているのに、あの子は今も悲しい記憶を消すためにあの子との思い出も一緒に消してしまっているのよ……あまりにも可哀想とは思わない?今じゃ名前もわからないのに好きだって言ってんのよ?」


 今は亡き陽輝の父、陽汰への文句に近いような独り言。それは彼女以外誰も知らないことだった。否、知らないのではなく覚えていないのだ。彼に起きた事件、それも部活の仲間に裏切られる事より比にならないほど大きな事件。


 何故陽輝があんなにも想っているあの子の名前が出てこないのか。そして、あの子との思い出がなくなった原因。


 彼女だけが知っていて、今も陽輝のことを心配している。

 大事な息子のために。


「あの子が誰か、分かってしまったら、きっと陽輝は陽汰さんとの思い出も思い出して、壊れてしまう……」


 最後に呟いたその言葉は、車の音とともに消え去った。

















 読んで頂きありがとうございます。

 昨日、1000PVを超えました。

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