第8話 嫌な予感がする!
「大丈夫〜?」
「あ、あぁ。なんとかな……」
何人かは保険室送りにしてしまったがしょうがないよな。まぁ、自業自得ってやつだろ。
「うちも色々聞かれて大変だったよ……」
「あっ、そうだよ。何で部活休んでること言わなかったんだ?部活あるなら俺は別の日でもよかったのに」
そう!部活があったのにも関わらず谷口さんは俺と話していたのだ!
部活さえなければ俺も彼女も噂は立たずに俺は酷い目に、彼女は噂を根掘り葉掘り聞かれずに済んだだろうに……。
「えっとね、うち、昨日病院行く予定があったから……」
何かを隠している気がする。明らかにそわそわしている。
「本当か?」
「本当だよ?」
「後で嘘ついてたってわかったら来週は一言も話さねぇぞ?」
「えっとね、実はね」
さらっと嘘ついてた事を認めて本当のこと話し始めたな。ちょろいちょろい。
「うち、今ちょっとした怪我してるんだけど、それを顧問に見抜かれちゃって。昨日から月曜までは来ないで病院行くなりして安静してろって言われてね」
「そうなのか。どこを痛めてるんだ?」
「右膝だよ」
確かに顧問の判断は良いと思う。結構バレーボールは膝を痛めやすい。
谷口さんは女子の中では背が大きい方だからきっとスパイカーだろう。スパイカーはよく飛ぶし、男子も違って女子はボールが落ちにくいからかなりの頻度で飛ばなければならないはずだ。
だから顧問の対応はいいと思う。だが、
「だからって俺と話すんじゃなくて病院に行くべきだった。谷口さんは大丈夫って思うかもしれないが、早いうちに対処しなければ取り返しがつかなくなるからな。特に膝は重要だから今日は必ず病院で診てもらえ」
「でも、昨日しか時間は———」
「俺の事を思ってくれたんだろ?だから急いで話をしたんだろ?それはありがたいと思うさ。だが、それでも自分を優先するべきだ。…………これ、俺が中学の時よくお世話になった所のカードだから、今日行ってこい」
「ちょっと自意識過剰だよー。もしかして、気になっちゃった?うちのこと」
「そんなわけあるか。とりあえずこれ渡すから行ってこい。腕は保証する」
「ちょっとぐらい照れてよー。もう!……優しいんだね」
「最後の部分聞き取れなかった、悪い。なんて言ったんだ?」
「気にしなくていいのー!それより、今日行ってみるね!………あとさ、うちらって友達だよね?」
「あぁ。そうだが?」
「じゃあ———」
嫌な予感がする。とてつもなく。彼女のニヤァっとした顔は明らかに危険だと俺の本能が訴えている!
「今度から下の名前で呼んでね?前から思ってたんだけど谷口さんっていうのよそよそしいから嫌だな。わたしも陽輝って呼ぶからさ」
「それは……だめだ。よくない。主に俺の身の安全が確保できないから」
そう、もし学校で下の名前で呼びあったら
「陽輝ー?なんで下の名前で呼びあってるのかなぁ?」
「やっぱりお前は、ギルティ!」
「谷口さんのこと下の名前で呼ぶのはいけないよねぇ?」
「野郎ども!岡野と同じ目に合わせるぞ!」
「「「当たり前だ!!!」」」
あぁ、俺は死ぬな。生きるためにもここはなんとか———
「じゃあ二択ね?下の名前で呼ぶことにするのか、呼ばないでこれからもいつも通りに谷口さんと呼ぶ」
「もちろんいつも———」
「後者を選んだらうちは連絡先を交換した事をあの子たちに教えます」
「すみません翠様。それだけはお許しくださいませ」
「やったね!じゃあこれからもよろしくね?陽輝くん!」
脅されたら無理だろ。連絡先を交換したのがバレたらかさらに
まぁ下の名前で呼んだ瞬間に奴らはこっちを
誰でもいいから俺に平穏をくれねぇかなぁ……と考えながら黒板に目を向けた。
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