第6話 話してくれてありがとう

「まずは、朝のことはごめんね。私、たまに人の聞かれたくない事とかまで気になってグイグイ聞いちゃうタイプでね……他の人とも同じようなことを何回かしちゃってて、治そうと思ってるんだけどまたやらかしちゃった。朝のことは本当にごめんね。それでいて烏滸おこがましいんだけどなんで怒ったのか聞いてもいい?うちの予想ではバレーが嫌いとは思えないんだよね。だから、聞きたいな」


 一時間目と同じような少し低いトーンで話した彼女。とにかく、俺の方からも説明しなければ。言えばきっとわかってくれるはずだから。


「朝のことは気にしない。俺の方こそすまなかった。で、俺が何故バレー部に入らないのかは、過去にある出来事があったからなんだ。その出来事っていうのは———」


 彼女に分かりやすく説明する。最後の引退試合で俺がバレーから離れた、部活に入らないと決めた出来事。


「———ってことがあった。だから俺は高校では続けるつもりはないんだ。谷口さんのいう通りバレーは嫌いじゃない。むしろまだ好きだ。けれど、俺はバレー部には入らない」


 説明し終えた時、彼女は真っ直ぐに俺の方を見ていた。まるで、何か言いたいことがあるかのように。


「紅島くんに何があったかはわかったよ。確かに部活そのものが嫌になるよね。それでも、うちは続けて欲しい」


「何故そこまでに言うんだ?別に谷口さんにとって俺は赤の他人だろう」


「もう他人じゃない。うちは友達って思ってるから言うの。紅島くんにとっては違うかもだけど、うちにとっては優しい紅島くんは友達なの」


「そうか……ありがとな。そう思ってくれて。だけど、友達として考えてもお節介が過ぎるんじゃねぇのか?」


 彼女から言われたことは嬉しい。だが、そうだとしても他人ということには変わらない。


「うちには、過去に怯えてるとしか思えないから。確かに辛かったと思うよ。けどさ、紅島くんにとってバレーってそんなものだったの?」


「っっ!それは……」


 痛いところをつかれた。確かに俺は怯えてるさ。けれど……


「そんなもので表せると思うか!俺にとってバレーは、生きがいに近いものだ!けど怖いものは怖いんだよ!」


 そう、怖いのだ。今まで信頼してきた仲間に裏切られるのは。彼女にはわからないだろう。


「わかるよ?うちだって同じ経験したから」


「そんなわけ———」


「状況は違うかもしれない。紅島くんとは重み間違うかもしれない。けど!うちも同じ苦しみを知ってるもん!」


 そう言う彼女は顔を真っ赤にして怒っていた。私は嘘なんかついてない!と表すかのように。


「なら、何故谷口さんは続けられるんだ」


「そんなの簡単だよ。だって———仲間とやるのは楽しいからだよ。辛いことがあってもさ、楽しかったことまでは忘れられないじゃん?だから、うちは楽しむために続けてる」


 ———そうだ。俺は忘れていた。あの出来事の印象が強すぎて、それまでにあったいい思い出を。

 必至に繋いでくれたボールを決めきって勝ち取った優勝の時のチームメイトの顔。全員が笑顔で俺に飛びついてきて倒れ込んだ懐かしい思い出。

 他にもたくさんあったのに、俺は忘れていたんだ。たった一度裏切られたというだけで。


「あぁ……、そうだな。谷口さんの言う通りだったな。確かに、楽しい思い出はたくさんある」


「でしょ?その楽しい思い出を忘れることはできないよね!」


「あぁ……ありがとな。思い出させてくれて」


「どういたしましてっ!」


 そ少し前かがみになりながらそう言った彼女の姿は、あの子に似ているような気がした。俺の、初恋の人に。

顔なんて、思い出せなく、わからないのにも。


「どうかしたの?顔、赤いよ?」


「いや、なんでもない!」


 見惚れていて、よく見ていたら不思議がられた。危ない危ない。


「俺、バレー部に入るよ。続けてみるよ」


「うん!そうしてね!そしたら隣で見ててあげるから」


「やめてくれ。下手になってるからな」


「下手でもいいのー!」


 彼女と話終えた時には、外は暗くなっていた。ちょうど最終下校時刻と同じぐらいのようだ。


「もう外も暗くなったね。帰ろっか」


「送っていくよ。俺のせいでもあるから」


「本当に?ありがとね!」


 暗いところを一人で歩かせるわけにはさせられないので、送ることにした。





 学校での話や、部活などの話を彼女としながら帰ること二十分弱。周りの家に比べて一回り大きい家の前で彼女は止まった。


「この大きい家がうちの家ね。ありがとね?送ってくれて」


「気にしなくていいから。じゃあな」


「待って!……連絡先貰ってもいいかな?せっかくだし」


「おう。いいぞ。っと、これでいいか?」


「えっとねー、うん!大丈夫だよ!ありがとね!」


「おう。……今日はありがとな。じゃあな!」


「うん!気をつけてねー!」



 家に着くと早速メッセージが届いていた。谷口さんからだ。


 可愛らしいクマさんがヨロシク!と喋っているスタンプが送られていた。

 とりあえず返信をすると、


「お兄ちゃん!今日、お兄ちゃんの当番の日なの忘れてない?お腹空いたから早くご飯作ってー!」


 と妹がリビングから叫んでいた。


「悪い!すぐ作るから許せ!」


 急いで夕飯の支度をし、妹に夕飯を出す。そしてベランダに出て洗濯物を取り込みお風呂の支度を終えて夕飯を食べ始める。


 二人でテレビを観ながら食べていたら、


「お兄ちゃんさ、今日いいことあったの?」


 と聞かれた。


「なんでそんなことを?」


「いつもより表情がいいよ!なにかが取れた感じがする!」


 そうか。谷口と話したことで気持ちが楽になっているのか。

 気持ちに整理がついたのかもな。


「そうかもな。確かにいいことあった気がするよ」


 そう笑って言えた俺はきっといい顔をしてるだろう。目の前の妹がポカンとして驚いているのだから。






























すみません、またまた修正を……

直さないとこの後で話がおかしくなると思ったので……!

 読んで頂きありがとうございます。

 これから少しずつ陽輝と翠の関係を深めていきます。

 誤字脱字、その他ありましたら報告お願いします。

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