第5話 谷口さんと話を
俺が谷口さんに怒った後、彼女は話しかけて来なかった。時折彼女の方を見ると顔をしかめて教科書と睨めっこしていた。それでも彼女は自力で解こうとし、必死に悩んでいた。
いつもなら彼女は分からなければ俺に必ず聞いてきた。しかし、俺がさっき怒鳴ったせいで遠慮しているのだろう。
そんな様子を見て、どうしても可哀想だと思ったので、
「そこは、単語一個一個の意味で考えてみればなんとなくでわかるぞ」
と、教えると彼女は驚いたような顔をしてこちらを見ていた。……何かおかしかったか?
「ありがとね」
いつもより声のトーンが低い声でお礼を彼女は言った。どこかおかしい。
……理由は朝のあれか。俺のせいでいつもと違うのなら俺がなんとかしなければ。
そう思いつつもどうしたらいいかわからず、昼休みになってしまった。
谷口さんとの件を相談でもするか……そう思いながら悠真に声をかけようと席を立った時だった。目の前に手紙が置いてあった。小さく折りたたまれており、広げてみると
「放課後、時間があるなら教室に残っていてくれない?——翠」
と書かれてあった。
隣を見るがもう彼女の姿は見えない。とりあえず貰った手紙のスペースに了解、と一言書いて机の上に置いとく。
「ねぇ陽輝。谷口さんと何があったの?」
「私も聞きたいです!翠ちゃんが紅島くんを怒らせてどうしたらいいかわからないって相談を受けたんですよ!
詳しく聞かせて頂けませんか?」
「あぁ。谷口さんに部活の件を言われてな。それで悠真は知ってるけどあの時の事思い出してしまってな」
「なるほどね〜。陽輝にとっては嫌だもんね」
「それで何故怒ったのかわからないのですが……」
「あぁ。俺は最後の試合の時にな———」
そう言って佐藤さんに俺の過去について話した。何故俺が怒ったのか。その理由がわかるように思い出したくないところまではっきりと思い出し詳しく説明した。
「そんな事が……紅島さん、私の方から翠ちゃんに説明しておきますよ?」
「その気持ちだけ受け取るよ。だから、谷口さんには俺から伝えるよ」
「じゃあ私の方からは特には伝えませんね」
「あぁ、頼む」
「話はちょうど済んだかな?僕からも話があるんだけどいいかな?」
「あぁ、すまねぇな俺の話が多くて。いいぞ」
「なんですか?何かあったんですか?」
相変わらず心配症だな。ただ話があるって言っただけなのにな……。
「僕たち一学年で、小珀から見て可愛い子っていたりする?できれば名前も教えてほしいんだけど」
女子の話を聞くには女子に聞くのが1番適しているな。ただ……
「……なんでいきなりそんな事を聞くんですか?」
うん。そうなるよな。彼氏が彼女に他の女子を知りたいって話したらそうなるな?現に今一瞬で佐藤さん不機嫌だよ?何故俺から聞くようにさせるとか思いつかなかったんだ……。
「クラスメイトの小川君って子がいて、その子が可愛い子を集めて合コンを開きたいんだって。もちろん僕は行かないって言ったらじゃあ誰か招待しろ!って言われちゃってね。招待しないと危ないから……」
「そういうことでしたか。悠真君のクラスの男子は危険って噂になってますしね。私の方でいいなら何人か声かけておきますね!」
「うん。ありがとうね、小珀」
……うんスルーだ。クラスメイトのあいつらは危険視されていたのか。俺、巻き込まれてなきゃいいんだけどな。
その後も少し話をして昼休みを過ごした。放課後には佐藤さんも探しておいてくれるらしいから悠真の方の心配はいらないだろう。
帰りのホームルームが終わり、次々に部活へ行くクラスメイト達を眺めながら教室に残っていた。
一部クラスメイトからは不思議そうな目で見られたが、しょうがない。
肝心の谷口さんは、ちょっとだけ用がある、と言って今はいない。
「遅くなってごめんね」
「気にしないぞ。じゃあ、先に俺から———」
「私から話させて。お願い」
出来れば俺から話したいんだが……まぁいいか。
「わかった。先にいいぞ」
「ありがとね。じゃあ———」
そう言って彼女は話し始めた。
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