第4話 やらかした

 悠真が他の子と同じ屋根の下で暮らすまで残り一日となった金曜日。


「「「今日こそ殺るぞ!」」」


 多分一回以上は指導室に連れ込まれているであろうクラスメイトに今日も追いかけられていた。

 しょうがないだろ、悠真と登校したらセットで佐藤さんもいるんだから。そんぐらい別にいいだろ?なんで俺だけ毎日追いかけられなきゃいけねぇんだ!


「俺は忙しいんだよ!お前らに構ってる時間はねぇんだよ!」


 俺の唯一の取り柄と言ってもいい運動神経を駆使して逃げようとするが、


「甘いんだよ!そんなちょろさで俺達から逃げれるとでも?」

「ちょこまかうざいねぇ〜でも逃げきれないよ〜」

「大人しくして早く制裁を受けろ!」


 嘘だろ?!俺、中学時代バレーボールの絶対的エースやってたからスタミナもあるし足も人並みより速いはずだぞ?それなのについて来れるってこいつらの運動神経もやばいのか?!


 このままでは捕まる……そう思った時だった。


「谷口さん!僕と、つ、付き合ってください!」


 そんな告白が聞こえ、


「ごめんね?私、好きな人いるんだ」


 と返事が聞こえ、


「なぁ、今の声って岡野じゃないか?」

「あいつ、今日いないと思ったら抜けがけか?」

「陽輝の事は後で制裁するとして……先に岡野を殺るぞ!」

「「「おう!」」」


 なぁ、振られたんだから制裁は可哀想だろ……てかなんで俺を下の名前で呼ぶんだよ。まぁ、岡野ってやつ。とにかく助かった!



 教室に戻ると悠真が待っていて


「父さん、僕にわからせたくないのかわからないけど下の名前のイニシャルだけ教えてくれたよ」

 と、苦笑混じりで言ってきた。


「なぁ……まずは俺に何か一言かけてくれよ。」

「じゃあお疲れ様?でいい?」

「次からは自然になんでもいいから言ってくれよ。あいつらマジで厄介だから。で、イニシャルは?」

「K、だって。ただ、昨日の夜父さんが酔っててさ、「お前の同棲相手は可愛かったぞ〜羨ましいなぁ、悠真」って言ってきてさ、その後に母さんにお説教貰ってたよ」


「錬さんらしいよ。で、特徴は下のイニシャルがKで可愛いんだな?錬さんの女を見る目ってどうなんだ?」


 そこがポイントだ。例えば錬さんの可愛いの基準が高いのであれば若干だが探しやすくなる。まぁ優衣さん美人だし目は肥えてると思うんだが……


「父さんが可愛いって言うのってかなり珍しいんだよね。普段テレビとか見ててもあんまり言わないぐらいだからかなりレベルが高いと見ていいんじゃないかな?」


「そうか。なら探しやすいな。って言っても他のクラスはどうやって探すか……」


 俺達のクラスの中なら名簿見ながら顔を見て判断できるが、他クラスはそれができない。どうするか……


「席につけー。ホームルーム始めるぞー。ん?岡野はどうした?」


「岡野くんならお腹痛いといってました!」


 クラスメイトの一人が言った。


「そうか。連絡ありがとう」


 岡野くん……可哀想に。俺のために犠牲になってくれてありがとう……。


「じゃ、方法考えとく。また後で」

「ああ。頼むね。僕も考えるから」


 自分の席に戻り、何かいい策はないかと考えていたら


「ねぇ、あのさ!紅島くんってなんでバレー部に入らないの?」


 と、いきなり谷口さんが話しかけてきた。


「いきなりどうしたんだ?」

「私バレー部に入ってるんだけど、昨日部活の仲間が紅島くんの事知ってて、話聞いたの!全中出た事あるって聞いたからなんでやらないんだろうって思って」


 誰かは知らないが俺のことを知っているのか。確かに俺は中学時代に全中には出た。けれどいい思い出は全くない。


「確かに出た。けれどもういいんだよ」

「なんで入らないの?」

「色々あったんだよ。だから部活はもういいんだ」

 沸々と思い出したくないことを思い出す。もうやめてくれ、俺に話しかけないでくれ。

「全中出るぐらいなら上手いんでしょ?だったら続けたほうが———」

「これ以上は俺にその話題を出すな!」


 立ち上がって谷口さんに叫んでいた。クラスメイト全員からの視線を浴びた。


「ごめんね……怒らせちゃって。もう聞かないから」


 そう言った彼女の声はいつもの元気さは無かった。


「紅島ー。ホームルーム中だぞー」


 すいません、と一言謝り席に着く。

 あぁ、やらかした。

 どうやって謝ろうか……そんなことを考えながらホームルームを過ごした。

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