第3話

 家に帰ると私はまずシャワーを浴びた。一人暮らしを始めると、お風呂に溜めて入ることが少なくなり、シャワーで済ますことが増えた。念入りに体を洗い。丁寧にタオルドライする。パジャマに着替えると、ドライヤーをつける。ドライヤーはマイナスイオンの物を数年前に買って以来愛用していた。髪の毛から8cmほど離して乾かす。

 そうしてすべて整うと、私はキッチンに向かう。先日のシチューを冷蔵庫から取り出し、鍋に移す。

 昔からご飯に執着があった。それは料理というより食べるという儀式的行為に対して。生きていたものを食す。咀嚼して。そこからエネルギーと栄養素を得る。噛む。味わう。噛む。殺す。噛む。

 チチチッバチッ。と音がなって火が灯る。そこにシチューを入れた鍋を置く。

 頭の中でカマキリの共食いを思い出す。ガブガブむしゃむしゃばりばり。映像の中のカマキリはいつだって食べている。子を孕むために食べる。生きるために食べる。

 時折、想像の中で私はそのふたつのカマキリを食べる。小さな私は両手で交尾するカマキリを捕まえて口いっぱいに放り込む。ガブガブむしゃむしゃばりばり。想像上のカマキリは抹茶の味でクリーミーな食感。オスのカマキリを食べるメスのカマキリを私は食べる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る