第3話


「起立、礼!」

「おはようございます!」

「おっはよー!」

チャイムギリギリと同時に駆け込んできた理愛が元気よく挨拶してきた。

「おはよ。宿題やった?」

「え、うそ?あったっけ?」

「なんなら今日、理愛当てられてなかったっけ?」

理愛はカバンから急いで英語の教科書を取り出し、前回分のページを広げる。大問2の(3)に「次回、当たる!」とでかでかと殴り書きがしてあり、刺々しい吹き出しで囲ってある。

「嘘、全然忘れてた!宿題見せて!」

日本語の文法がおかしいと思いつつも、親友の頼みは断れない。

「しょうがないな、今回だけだよ」

「へへっ、あざーす!」

にかっと笑顔を見せ、理愛がノートに答えを写し終わると同時に、教師が質問してきた。

「えっと、じゃあ次は大問2の(3)は、…夏目!どうだ?」

「は、はい!あ、I'm going to the party next week. 、、、ですか?」

「よし、正解だ。ここでのbe going toっていうのは予定を表している、ってのはもう散々やったからいいな?えーっと、次は大問3の(1)だから…」

理愛の右側の列の先頭の人が指されていき、授業が進んでいく。

「サンキュー、助かったわ。」

「後でだるま飴買ってね」

「好きだねぇ、だるま飴。買います買います」

承諾したところで、理愛はさっさと机に突っ伏し昼休憩まで眠っていた。


 だるま飴とは、赤印(せきいん)フーズというお菓子会社が出している、大ヒットを記録した子供に人気の飴玉の事である。この飴、不思議なことに最初は甘いのだが、舐めれば舐めるほど甘さがなくなっていき、舐め終わる頃には物足りなさを感じてしまうため、もうひとつ、さらにもうひとつと続けて食べてしまうのだ。

「あったよ、だるま飴」

昼休憩に購買でだるま飴を見つけた理愛は、飴を2つ摘むと、惣菜パンと一緒にレジに持っていく。

由芽の中学校には珍しく給食がなく、お弁当を持ってくるか購買を買うかする学生が多い。購買に憧れを抱いていた由芽にとっては夢のような環境だった。

「はい、今日の英語のお礼」

「やったー!理愛、ありがとう!」

だるま飴を受け取り、話しながら教室に帰っていく。

「どうせ今回も2ついるでしょ?」

「当たり前じゃん!1つだったら食べた気しないよ!」

由芽は包装をくるくると回し中身を取り出すと、飴を1つ舐め出した。

ガラッと教室の扉を開け、席に着いた際に

「あ、今度ビュッフェ行かない?駅から少し歩いたところに、新しい店できたんだって!」

理愛とビュッフェに行きたいことを思い出し、誘ってみた。

「ああ、なんか知ってる。食べ放題の時間が長い割に安いって噂らしいね」

「そうそう!行ってみたいなぁって思ってて」

「いいよ。ちょっと待って。…うん、今度の土曜なら空いてるから行こっか」

「やったぁ!」

嬉しさのあまり、大声で思わずガッツポーズをしてしまった。数秒経ってから急に恥ずかしくなり、教室の空気が冷たくなった気がした。

その日の授業は、楽しみすぎてビュッフェのことばかり考えていた。


「由芽ー?帰る?」

5限目が終了した後、課題プリントを教卓に提出し終わった理愛が聞いてきた。

「うん、でもプリント提出したらトイレ行きたいから待ってて」

「あいよー」

殴り書きで解答を終わらせ、プリントを提出した後にトイレに向かう。


 ハンカチで手を拭きながら教室の扉を開けると、理愛が携帯をいじりながら席で待っていた。由芽は、なんの気なく扉のところでじっと理愛のことを見てしまっていた。

理愛はぱっと見ると、友好関係が多そうな人物に見える。少なくても第一印象はそんな感じだった。それ故に、ひとりで携帯をいじり

由芽を待っている姿は、なんだか意外だった。理愛の周りに人だかりができ、楽しそうに喋ってる姿が目に浮かんだ。理愛は所謂、"そっち側"の人間だと思っていた。

「お待たせ。理愛、帰ろ」

「お、やっと来たな。早く行こ!」

しかし、別に変に気にすることもないような内容だし、偏見の様な見方を理愛にしていたことが急に馬鹿らしくなった。理愛は私の友達。そのことに変わりはない。その事実だけあれば充分だった。

由芽たちは靴箱までどっちが速く着くか競争しながら、仲良く帰った。

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