第2話

「娘は、なんでか分からないですけど、購買がある中学校に憧れていたらしくて。あまり自分のことは話さないんですが、その事だけは熱心に話していて、中学受験のために必死に勉強していたんです。でも、第一志望は数点足りなくて届かず、第二志望の中学に行くことになったんです。本人は気にしていない素振りを見せていましたが、内心かなり落ち込んでいたんじゃないかなぁと思うんです」

「そうですか」

担当医である大江保(おおえたもつ)は備考欄に、松本音榴(まつもとねる)が話したことを簡潔に記入していた。研修医時代に経験した症例から、意外なことが盲点にならないよう、些細なことにも注目したい、というのが彼のモットーだった。

「その頃の精神状態を明確にするものなどはないですかね?例えば当時つけていた日記とかに、受験に失敗し落ち込んだ、などの書き込みがあれば把握しやすいのですが…」

「日記、はつけていたなかったと思います。勉学に対してはそこそこ興味を持って取り組んでたみたいなのでコツコツ努力するタイプだとは思うんですが、それ以外のことになると、適当というかなんというか。あまり自分のことを記録する感じじゃなかったと思います」

「そうですか」

保はぽりぽりと頭を掻き、ふうっと溜息をついた。

「分かりました。色々と教えてくださりありがとうございました。由芽さんがいつ目覚めるかは分かりませんが、できるだけ側にいてあげてください。しかしながら、今日は長いこといらっしゃるので、一度ご自宅に戻られ、また顔を見に来ていただければと思います」

「ええ、そうですね。そうさせてもらいます」

そう礼を述べ、音榴は診察室を後にした。娘が病状が心配ではあったが、今日は顔も見たし、疲労も蓄積していたので、自宅に戻ることにした。


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