第25話 世話焼きアシスト
そんな3人のやり取りを眺めながら思わず深いため息を吐いたのが、ゼルゼンだ。
(あー……全く仕方が無いな)
相変わらずの幼馴染達の様子に、「世話の焼ける」と思わず呟く。
伊達に彼らとつるんでいない。
今2人が考えている事くらいはお見通しだ。
2人の姿は、幼馴染からすると見ていられないくらいにはじれったいものだった。
セシリアへの悪感情はある程度払拭されているというのに、2人が行動に出る様子は無い。
その内の一人は特に「話をしてみたい」と強く思っているみたいなのに、やはりと言うべきか尻込みしている。
(まぁアイツは元々仲直りが苦手だしな)
等と独り言ちる。
そうなればもう1人に期待したい所だが、生憎ソイツは『彼』の様子を面白がって、敢えて仲直りを切り出さない様な性格である。
期待は出来ないだろう。
だからこういう時、アクセル役は決まってゼルゼンが買って出る。
結局面倒そうなやつを放っておけない、ゼルゼンなのだ。
「おいセシリア、お前さっきの今で疲れてるだろ。足元ちょっとふらついてるし、その状態で歩くのか?」
それはきっかけ作りの言葉だった。
「まだ案内役を続けるつもりなのか」と言外に問えばやはりと言うべきか、セシリアは一も二もなく頷く。
だから。
「ユンとグリムに手、片っぽずつ手を繋いでもらえば?」
そう提案してみた。
「は?」
「え?」
突然の提案に、指名された2人が揃って声を上げる。
其々に「急に何言ってんのコイツ」という顔をしているが、そんな2人に構っていては話が進まない。
2人の視線には敢えて気が付かないふりをして、ゼルゼンは言葉を続ける。
「だって今の調子じゃぁお前、ただ歩いてるだけでもその内すっ転ぶぞ。また朝一の時みたいになりたいのか?」
ついでに「寧ろ此処は芝生じゃないから、転んだらさっきよりもっと痛いぞ」とセシリアを脅してやる。
するとセシリアは直ぐに思案顔になった。
悩んだのは、ほんの数秒だった。
セシリアがどちらに決めたのかは、彼女が向けた2人への『お願い』の眼差しですぐに分かる。
「そ、そんなのお前がやれば良いだろっ!」
「俺には最後尾を守るっていう任務があるから、無理」
声を上げたのは予想通り『彼』だった。
しかしゼルゼンは予め用意しておいた断り文句で迎撃する。
すると『彼』はすぐにグッと押し黙った。
そんな2人のやり取りをセシリアが「ダメだろうか」と瞳に僅かな不安を宿しながら見守る。
すると。
不意に、左手を優しい温度が包み込んだ。
見上げると、そこに居たのはグリムである。
「まぁセシリア様にはさっきユンが助けてもらったし、今までちょっと意地悪しちゃったし、恩返しと色々ごめんねって事で」
彼はそう言うと、飄々とした様子で微笑んでみせた。
しかしそれに異議を唱える者も居る。
「おい、グリムお前っ!!」
恨みがましそうに睨んだ『彼』に、しかしグリムは全く堪えない。
「何か文句でも? 確かに僕はユンと一緒にセシリア様の言う事を聞かなかったりしたけど、それはユンに付き合ってただけで別に何かセシリア様に思う事があった訳じゃないし」
暗に「良く今更仲良く出来るな」と言ってきた幼馴染に、彼は「僕には関係ないもん」と宣った。
なるほど、そういうスタンスだったのか。
セシリアは思わずそう納得した。
確かに彼からは終始敵意を感じなかった為、そう言われてみればすんなりと納得できる。
「だったら俺に付き合って――」
「だってユン、もうセシリア様への悪感情、無いでしょ? じゃぁもう付き合う必要も無いよね」
声を被せる様に言われて、『彼』はギクリと肩を震わせる。
セシリアが「そうなの?」という感じで『彼』を見上げると、一瞬だけ視線がかち合った。
しかしすぐにその視線を外される。
「ユンって仲直り、下手なんだよねー」
言いながら、グリムは握った方の手をプラプラと前後に揺らす。
必然的にセシリアの左手もプラプラさせられるが、一体これに何の意味があるのだろうか。
彼を見上げてみると、やはり何を考えているのか分かり難い顔でニッと笑ってくる。
「グリムは『仲直り』、しないの?」
『彼』にソレを勧めるのだから彼にはする気があるのではないか。
そう思って尋ねてみれば、彼は「ん?」と首を傾げた。
「僕はさっき、ちゃんと謝ったでしょ?」
謝ってもらっただろうか。
そう思って記憶を探るが、それらしきものは見つけられない。
可能性があるとすれば、手を繋いできた時に言った「ちょっと意地悪しちゃったし、恩返しと色々ごめんねって事で」という言葉くらいだが。
(それは謝ってるっていうのかな……?)
疑わしい所だが、彼との確執はセシリアがきちんと彼らに向き合わなかった事もその一員である。
だから元々セシリア自身、特に「謝ってほしい」とは思っていなかったりもする。
(まぁ、良いか)
結局その事はすぐに水に流し、『彼』の方を向いた。
相棒とは違い、『彼』には残念ながらさらりと謝罪を済ませる様な芸当は出来そうになかった。
『彼』はグリムと違い、今まで明確な悪意を以ってセシリアに接してきた。
それを自分自身、自覚している。
だからこそグリムの様なやり方は、何だか筋が通っていない様な気がして気持ちが悪いと思ってしまう。
ならば早くきちんと謝罪をしてしまえば良いのだが、言葉に詰まって中々言い出せない。
しかし『彼』のそんな性格を、幼馴染・ゼルゼンは良く把握していた。
だからこそこうやって、適切な時に適切な助け舟を出してやる事が出来る。
(おいユン、和解するなら今しかないぞ)
『彼』の肩に手を置いて、そう耳打ちしてやる。
するとどうやら此処で初めて、ゼルゼンが唐突に言い出した提案の意図を察した様だ。
彼はチッと一度舌を鳴らした。
そして少し乱暴な動きになりながらも、セシリアの手を取る。
「あの、まぁ……ちょっと『貴族』ってものを勘違いしてて、早い話がお前に当たってた。色々悪かった」
一息で言い切ると、此処で少し逡巡する様子を見せた。
そんな『彼』を見上げながら、セシリアは言葉の続きを待つ。
「……さっき、助けてくれてありがとな」
見上げていた顔が、思わず純粋な驚きに染まった。
セシリアは、まさかそんな素直な謝罪と感謝の言葉が『彼』から貰えるなんて思っていなかったのだ。
しかしその言葉から彼の本心を感じ取って、すぐに嬉しそうな顔になる。
セシリアは反抗的な態度を示す『彼』に、最初は案内役として手を焼いた。
『御者』での発言に怒って、興味を失って放置した。
しかしそれでも『彼』の事を、ただの一度だって嫌いだと思った事は無い。
ツアーの成功に必ずしも皆が仲良しで居る必要は無いと、セシリアは思っていた。
でも仲が良いに越した事が無い事も事実だ。
つまり――。
(仲良く出来るのは大歓迎だよ)
『彼』ことユンと握った右手を、優しく握り返す。
すると彼が呟く様な声で「行くぞ」と言ってセシリアの手を引いた。
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