第12話 カーちゃん、昂る

「ふむう。この高校に通えとな」


「ええ。といっても、カーちゃんだけに限った話ではありませんけど。ゆうくんを始めとした皆様にも入ってもらおうと考えておりますの。先程の、社会的地位の確立という観点から。勉学を真面目にやるも不真面目にやるのも、どちらでも構いませんわ、必要なのはあくまで学歴ですので。ただ、目標が欲しい――というカーちゃんの意気込みのスタートラインとしては、学校に通って勉学に励んで知識をつけることが最もスタンダードだと思いますわ。初めに言った通り、この世界は単純な力よりも、知識がものを言う世界ですので」


 カーちゃんは少し悩むような仕草をとってから、ややあって。


「確かにアシュリーの言う通りじゃな。よいぞ、どうせやることもないし、通ってみようではないか」


「じゃ、決まりね。百花はどうします?」


「あたし? 全然通うわよ。この世界では、とりあえず必要なことみたいだし」


「理解が早くて助かりますわ。他の皆様も問題なく承諾してくれるとよいのですけど――」


 話し込んでいるうちに、鐘の音が校内に響き渡る。


「何の音かしら」


「これは、授業の時間や休み時間なんかを区切るために流しているものよ。この世界の学校では、どこも導入してあるわ」


 そこでちょうど、こんこんと理事長室のドアがノックされる。鮫島さんが来たのだ。


「授業が始まりやしたので、お迎えにあがりやした。皆様、準備はできておりやすか?」


「問題ないですわ。さ、行きますわよ。ミリアちゃん、百花」


「はいはいー」「了解なのじゃ」


 そうして、理事長室を後にして、鮫島さんのガイドを聞きつつ建屋内を見て回ることに。


「急だったもんで、教師陣にも学校見学の旨を周知しきれておりやせん。ですので、教室内には入らずに、廊下越しでの見学で今日のところはご容赦くだせえ」


 とのことなので、あたし達は廊下と教室内を挟んでいる窓越しに、授業風景を見学して回っていた。


「なんか、見てもさっぱりなことを、同じくらいの年頃の子達が分かった風に見聞きしているのを見るのってさ、なんだかそわそわしない?」


「それきっと、前の世界でなら、他のパーティがワタクシ達に向けて同じようなことを感じてたと思いますわよ」


「確かに、そうかも」とうんうん納得していると、鮫島さんがきょとんとした顔で。

 

「理事長だけでなく、ご友人方もゲームがお好きなんで?」


「……え、ええ、まあそんなところですわ」


 そうだった、この世界でさっきみたいな発言はまともに取り合ってもらえるような話じゃない。ただの中二病発言――いや、酷い解釈するところだと妄言吐きの精神病だ。。この高校に通い始める頃には油断しないようにしないと。それと……。


「なんじゃ、ジロジロみおって。妾の顔になんかついておるかの?」


「一番、気を付けるようにしないといけないのは、カーちゃんかもね……」


「ふむう。何の話じゃ? わけがわからぬぞ」


「いいですのよー。ミリアちゃんはゆっくりで」


「こおらっ、気安く頭を撫でるでないぞっ」


 ぶんぶんっと、カーちゃんは金色のツインテールをプロペラみたく振り回して、アシュリーの手を払いのけている。それでも、やっぱり表情は柔和。カーちゃん、あんたまじで撫でられるの相当好きでしょ。


「皆様、相当に仲がよろしいんでやすな」


 と、鮫島が笑ったような表情を取る。だけど、まるで獲物を見つけた肉食獣のようで……なんというか申し訳ないけど、かなり恐怖を感じた。


「おぉー、あれは何をやっているのじゃ? 歳三よ」


 あたしがビビりくさっていると、不意にカーちゃんが足を止める。『理科室』と札の掛けられた教室を興味深く覗いていた。


「さっ、歳三……っ。うす、歳三でやす」


 おいなんだ歳三、下の名前で呼ばれたのが顔を赤くするほど嬉しかったのか、歳三。おいどういうことだ歳三。


「ここは理科室でやす。ちょうど実験をしているところでやすな」


「実験……よくアシュリーがやっていたやつか?」


「それは、厳密に言えば調合ですわ。まあ、実験と言えば実験と言えなくもないですけど」


「ふむう。して、なんのためにやっておるのじゃ?」


「それは、難しい質問でやすな。そうでやすなあ……世界の不思議を実践を通して紐解いていく……みたいなイメージでやすかね。かっこつけていいやすと」


「おぉ……! 世界の不思議を紐解くとな……、とてもかっこよいではないか! 妾もやってみたいぞっ」


 中二病チックなセリフが後押しをしたのか、カーちゃんがぴょんぴょんと跳ねて興奮している。興味津々だ。


「興味を持ってくれて良かったですわ。連れてきた甲斐があったというものですわね。……ただ、体験はまた後日に致しましょう。急な申し出で、邪魔をするのも悪いですわ」


「ふむう。そういえば見学のみじゃったな。妾としたことが、興がのってしまったのじゃ」


「申し訳ありやせん。次に来てくれやした時には、話を通しておきやすので」


「歳三が謝ることではないぞ。次を楽しみにしとくのじゃっ」


「へいっ」


 なんか、カーちゃんと鮫島さん仲良くなってる。すごいなカーちゃん、さすが元吸血鬼だ。


「カーちゃん、楽しみが増えてよかったわね」


「うぬっ。これも百花のおかげじゃ」


「あっ、あたしは別に何もしてないわよ。アシュリー頼っただけだし」


「何を言っておるか、アシュリーが物知りなのを知っていたのは百花じゃろうに、おかしなことを言うでないぞ」


 カーちゃんは、学校に来た時とは大違いで笑顔満点といった様子だ。勇者に好かれるためとはいえ、心がぽかぽかする。まあ、良かったんじゃないかしらね。うんうん。


「なんか、ロイみたいですわ」


「何がよ」


「そういう、子供っぽいところかしら」


 アシュリーがからかうようにくすりと笑う。


「子供っぽくないし!」


「皆様、楽しんでもらっているのは嬉しんでやすが、授業中ですんで、お静かにお願いしやすよ」


「す、すみません……」


 怒られちゃたじゃないのよっ、とアシュリーはしてやったりの顔。


「そうじゃぞ、子供じゃないんじゃからの」


 手を腰に当てて、無い胸を張る、ちびっこ。カーちゃんに言われると結構くるものがある、あたしなのだった……。

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