第6話 元吸血鬼の悩みごと
カーちゃんは、もといた世界では三強と呼ばれる種族の一つの吸血鬼だった。彼女は、このパーティの中で唯一、魔王軍との戦闘を楽しんでいたタイプ――いわゆる、
「百花も知っているとは思うが、妾は前の世界で最も強い種族になるべく、まいにち研鑽を重ねておった。現に、三強のうちの一種族――竜種の一頭を眷属とするまでにの。妾にとって、何かを極めぬいて一番になる、というのは生きがいなのぢゃ」
カーちゃんは、オッドアイを細めて、懐かしむように続ける。
「ここは、血で血を洗うような争いなど一切起きない、平和な地のように思える。それは、すばらしいことじゃ。しかし、妾たちのような強さを極めることだけが生きがいのような種族はいったいどうすれば良いのじゃろうな……」
目標が無くなっちゃったってことかぁ。……うーん。あたしにとっての目標の、「勇者と結婚する」みたいなことよね。かといって、これを勧めるわけにもいかないし……。何より、ライバルが増えるのはごめんだわ。
「カーちゃんは、この世界でも最強を目指したいと思う?」
「ふむう。しかし、この世界で争いごとは無いしのう……」
落ち込んだ様子で、カーちゃんは小さな口をすぼめる。
「なにも、前の世界みたいな戦いにおける強さだけが強さじゃないはずよ」
「むう。して、どうして思うのじゃ?」
「だって、この世界のトップ――というか、権力者みたいなのって、別に筋肉隆々だったり、魔法が使えるわけじゃないでしょ? 戦うための強さを持っているようには、とても見えないもの」
まだこの世界に来て3か月と日は浅いものの、テレビなんかを見る限り――いわゆるお偉いさんと呼ばれる人なんかは、そんな印象を受ける。
正直、格闘技といった、前の世界と似たようなスタイルで強さを競い合う競技があるのも知っているけど、カーちゃんが強かったのは、あくまでも吸血鬼だったから。今は魔力のまの字も無いし、ただの非力な女の子なのだ。
「確かに……百花の言う通りじゃっ。ふむふむっ!」
カーちゃんの顔がぱーっと晴れる。そうそう、この娘は元来、こういう無邪気な笑顔が似合う子なのだ。ぶすっとして落ち込んだ顔でいさせるのは損というものだ。
「まーまー、褒めるんじゃないわよ」
むふっ。とあたしはついつい鼻高々になってしまう。まっ、この百花様にかかればこんな問題朝飯前よ!
「して、この世界における『最強』とはなんなのじゃっ?」
カーちゃんがきらきらと眼を輝かせて聞いてくる、が。
「えーと……」
しかしながらあたしは、具体的な内容までは思いついていなかったり……。考えろ、考えろあたし……何か打開策を……そうだ!
「それは、アシュリーが詳しく説明してくれるわ!」
あたしは、清々しくも、アシュリーへと問題を丸投げすることにした。パーティメンバーの問題はパーティ皆の問題。いやあ、仲間って素晴らしいわねっ!
「………」
―—カーちゃんがあたしを見る眼が、ゴミを見る目に変わってしまった。
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