第4話 あさごはん
そうして、あたしと
勇者は、いわゆるお誕生日席のポジションの食卓に着くと、周りを見渡す。
「む。アシュリーはまた夜更かしかい」
「日本に来てから、ずっと画面と睨めっこしているみたいですよ」
透子が、表情の分かりにくい糸目のまま、そう返す。日本に来た当初、女神エリスの恩恵で、あたし達はこの世界で通用する通貨を相当な額もらった。それこそ、贅沢をしなければ一生食べていけるくらいの。その一部を、アシュリー主体で行っているこの世界についての情報収集の一貫として使用させている。パソコンやらを大量に買い込んだアシュリーは、それからというものそれらに没頭してしまっている状態だ。もちろんだが、あたし達の住んでいるこの屋敷も女神エリスの恩恵から来ている。
まあ、それは今はどうでもいい。
「ちょっと透子っ、そのハレンチ極まりない服装をやめなさいって言ってるでしょ!」
「あらあら、何を言っているんですか。これはれっきとしたパジャマです」
「そんな、胸元だけぱっくり割れたのがパジャマだなんて、ふざけるんじゃないわよ。なんか肌だって透けてるじゃないのっ。だいたいねぇ、パジャマだって言い張るにしても、起きたらちゃんと着替えてきなさいよ!」
あたしはびしぃっと、このぼんきゅっぼんな、スケベの権化と言っても過言では無い
「ですが、アシュリーさんが言ってましたよ。なんでも、この国の文化では、メイド服を着て、夜伽をすることもあるとか。そうなると、百花さんがまさしく着ている、そのメイド服もパジャマと言えるのではないのですか?」
「ばっ、ばっかじゃないのっ! よよよ、よとぎっって! 勇者と、勇者と夜伽……夜伽……よ、とぎぃ……」
「おい百花っ、頭から湯気出てるぞ、湯気っ!」
「誰も勇者と、とは言っていないんですけど……」
「大丈夫かっ」とロイにぶんぶん身体を揺すられる。
「まったく。おぬしらは、相変わらず元気じゃのう」
オーバーサイズのTシャツを身に付けているせいか、ただでさえ小柄な身体がより小さく見える、カーミリアこと―—カーちゃんが、笑っているようで笑っていない、なんとも複雑な表情でそう呟いていたのが、あたしはなんとか聞き取ることができた。どうにか、頭がクールダウンしてきたらしい。
「おー、カー子。今日は俺が一人で朝飯作ってみたんだぜ、どんなもんよ?」
口喧嘩をしていた、あたしと透子はさておき、黙々と食べ進めていたらしい勇者とカーちゃん。勇者が、こういう女同士での喧嘩に極力首を突っ込みたがらないのを知っているロイは、カーちゃんへと話を振った。
「ふむう。美味しいぞ。ただ、この鮮血によく似た味のするトマトジュースがのう……。いやな、不味いわけではないのじゃ、ただなんとなく、しっくり来ないのじゃ。いや、これも言い訳かの……」
カーちゃんは、犬歯で下唇を噛む。前の世界でなら、吸血鬼だったカーちゃんだけど、魔力が無い世界に来たことで、吸血鬼としての基本的な力は消滅した。そのせいか、吸血鬼特有の犬歯が一回り小さくなっていて、それに加えて紅の瞳も右眼だけになっていた。ちなみに、左眼は琥珀色の瞳に変わっている。いわゆる、オッドアイだ。
「ほおら、ロイ。あんたの作ったトマトジュース微妙らしいわよ」
「お、俺は百花のレシピ通りにつくったぞっ」
あたしが冗談まじりロイへ振ると、たじろぐ。ごめんロイ、あんたが頑張ってるのはわかってるんだけど……。
「なによ、あたしの考えたレシピにケチつけるっての?」
「そこまでは言ってないじゃんかよぉ……」
「こらこら、百花。あんまりロイを虐めるんじゃないよ」
勇者の一声も相まって、どうにか場の雰囲気が持ち直る。これは、いよいよカーちゃんが心配だ。内心で頭を抱えつつ、ロイの作った朝食にようやく手を付ける。
うん! 流石はあたしが仕込んだ弟子だ! と、あたしはロイを心の中でくらいは褒めておいてあげたのだった。
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