第1幕 偉大なる百花様と元吸血鬼の新たなる目標
第3話 頼られたのは、あたし
日本に来てから3ヶ月が経過した。あたし達——
「夏が収穫時って言うくらいだし、やっぱり厳しいのかなあ」
あたしは、庭に菜園をつくってやろうかと、画策していた。その第一号がこのトマトだ。花が咲いたのがだいたい60日くらい前。実はなっているものの、なかなか赤くなりきってはくれず、あたしは四苦八苦していた。
「
ロイが、1階の窓からひょっこりと頭を出して、声を掛けてくる。執事服姿が、彼の基本装備だ。合わせるように、あたしはメイド服姿だったりするが、これは前の世界に居た時の名残。あたしとロイは、もともと家事全般の担当だったので、流れで食事当番と洗濯を請け負っている。といっても、以前とは違ってある程度家事は分担しているが。モンスターも魔法も無い世界であれば、割とみんな手は空きがちなのだ。
「ふふん、さすがあたしが仕込んだだけはあるわね」
「お、おうょ……」
「顔赤いけど、熱でもあるの?」
「へ? いや、ねえよ! 百花の教え方が上手かったから、早く身に付いただけだよ! じゃあ俺は配膳始めとくからなっ」
「ぴゅーって走ってっちゃった。なんか変なこと言ったかしら。よいしょっと」
トマト目線から立ち上がり、スカートについた軽い土汚れをぱたぱたと落とす。
「ちょっといいかい、
声を掛けられ、振り向くと、あたしの
「もちろんいいわよ」
あたしは満面の笑みを返す。日本に来てから、フェイスパックに出会い、肌はつやつや。自分の笑顔に自信しかない。
「まだ何もいってないよ……まったく、いつも君はそうだね」
勇者は呆れ顔半分、子供を相手にするような顔半分といった感じの表情になる。あたしは、この顔面が好きだ。たまらなく好きだ。
「こほん。話というのはだね、最近カーミリアの様子がおかしいんだ、元気が無いというか……」
「それ、今に始まった話じゃないわよ」
「ん、そうなのかい?」
「ええ。こっち来た時からずっと。初めは気を遣ってかくしてるふうだったけど……(いえ、あの娘のことなんてどうでもいいけどねっ。勇者の近くにいるメスは敵よ敵!)」
「なら、話が早い。カーミリアの悩みに探りを入れてはくれないかい? 男の僕が相手だと、どうにも話がしづらいみたいでね」
勇者に頼み事をされる、というのはつまり……頼りにされている証拠! あたしはもう、あなたの妻になる覚悟はできているのよ?
「——そっ、そんなこと。……いいわ。あたしに任せておきなさいっ」
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