第152話 最後の光の獣
宇宙の全てが輝き、グリモアが打ち出した、主砲は圧倒的な力で異世界の地球を瞬時に消し去り、その光は銀河を突き抜け、十万光年の空洞を開けてしまった。
目の前から異世界どころか、銀河の多くの星まで消し去ったラシャプは、嗚咽を繰り返しながら、自分への言い訳を始める。
「仕方なかったんだ。僕自身が無能のせいで、光の獣ブルーノヴァを失った。そんなの認められない。僕が一番優秀な者でなければ、世界は存在してはいけない、決して! そうだろう! いけないだろう!!」
誰も答える者がいない暗い宇宙。
周りの星が消えた真っ暗な空間に、光の玉が浮かぶ、魔法のシールドで守られたツクヨミだった。
ツクヨミの生存を確認したラシャプは、何かにとりつかれたように、グルモアに命じる。
「生きてやがった! 僕の全てを奪いさったのに……そうだ世界が消えたのも全部ツクヨミのせいなんだ! 僕は何も悪くない、数億の魂を奪ったのもアイツを倒すための過程なんだ……全エネルギーを集約、フルパワーでツクヨミを主砲で撃て」
月と同じ大きさのグリモアが太陽のように、眩しい光を放ち始めた。
「サブ、メインの全エネルギーをジェネレーターに送信開始。主砲ラグナロクの封印を解除します」
オペレーターからの最終報告が船内に響く。
「ラグナロクへエネルギー充電完了。安全弁解放。発射準備完了」
円錐形のマスティマの上部の一部が開き、直系二キロメートルを越える、巨大な砲塔が発射の指示を待つ。
「ラグナロクオーバーキル発射!」
ラシャプの命令でグリモアの主砲により、最高のパワーで銀河を打ち消す巨大な力が放たれた。
・
・
・
……数分間……いや数十分……何も聞こえない。
世界を完全に破壊する行動に、恐ろしさに、しばらく目を閉じていたラシャプ。
「これでいいんだ。僕を認めない者は消え去ればいいんだ」
自分が正しかった、そう言い聞かせて、やっと目を開けて、自分の起こした結果を確かめる。
「グリモア……どうなった。世界は消えたのか」
ラシャプの言葉に、グリモアが答えた。
「乗組員はいない現在では、グリモアのパワーは8%ほどですが、1000の3333乗ジュールのエネルギーが発生」
あまりに巨大な力に、それを放ったラシャプ自身が恐怖する。
「1000の3333乗ジュールだって……宇宙を消し去ったのか僕は?」
グリモアのOSが答える。
「いいえ、宇宙は発射前と何も変わっていません」
ばかな、スクリーンを確認するラシャプ。
計器類にも、確かに一発目の主砲発射と何も変わっておらず、宇宙空間に漂うツクヨミの光球が漂っていた。
「……まさか、ツクヨミがまた時間を削りだしたのか?」
ブルーノヴァで経験した感覚が戻った、ラシャプが呟くが否定するグリモア。
「いえ、グリモアの主砲は最大パワーで打ち出し、1000の3333乗ジュールのエネルギーが発生しています。時間を削る、本来はブルーノヴァが持っていた神技は使われていません」
ラシャプはグリモアの答えには納得していない。
「主砲が放たれたなら、なにも変わっていない事はどう説明する!? 目の前のツクヨミにも変化がない……え、どうなってんだ?」
光球の中のツクヨミは苦しそうな顔で、膝を折り両手を底についていた。
「……ツクヨミは変化がある、よし、もう一度攻撃だ」
ラシャプの言葉にツクヨミが反応した。
光の玉の中から、巨大なグ戦艦グリモアを見上げたツクヨミが呟く。
「もう、十分。さっきの一発かなり効いたかな。私だけの魔力じゃ足りなかったけど、グリモアの攻撃を吸収して、やっとあの子を起動できる」
ラシャプがツクヨミの言葉を理解出来ないでいると、グリモアから通報が入る。
「シグナルコールがツクヨミから発せられました。これより最後の光の獣、無垢なる天使を射出します」
なに! 勝手に機能したグリモアに不満を現したラシャプの目に、拡大されたツクヨミの姿がズームアップされた。
ツクヨミが両手を合わせると、そこに、グリモアから転生された、最後の光の獣、無垢なる天使が浮かんでいた。
その姿は背を丸めて目を閉じて眠っているまさに天使の姿で、大きさは、ツクヨミの両手に乗るほどの小ささだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます