第151話 ラグナロク発現

 騎乗する神の鎧が数値で表した、絶対に勝ち目がない大魔王の実力に、絶望感と情報が間違っているとの思いたいラシャプ、機神OSの警告は無視して、とにかく前に出ようとする。


「攻撃だ! 早く実行しろ!」


 シャヘルの悲鳴にも似た声に、攻撃命令が実行された。


「攻撃を開始します。全ウェポンをオープン。エナジィパワーを臨界点へ。フルパワー攻撃を開始します」


 ブルーノヴァの全てのウェポンが白い光を発したが、発射された光の弾は、またも大魔王ツクヨミの前で全てロストした。


「なぜだ? シールドも張らずに、ブルーノヴァの攻撃を全て防ぐとは。いや、防ぐと言うより、消失したように見える。理解できない!」


 シャヘルの焦りの言葉に、OSラバーズが推測を答えた。


「報告します。大魔王ツクヨミは時間を削っていると推測されます」

「時間を削る? どういうことだ?」

「攻撃準備から、武器の使用、着弾までの攻撃フローの時間を削りとる。つまり攻撃前に時間が戻されるという事です」

「そんな事が可能なのか!? 何を根拠におまえは推測しているのだ?」


 ラバーズが回答する。

「先ほど述べたように、あくまでも推論の域を出ません。ただ、最初と二度目の攻撃開始から着弾、そして無力化までの時間が同一だった事、二度の全力攻撃を実行したにも関わらす、当機のエナジィはまったく減っていないことから、考えられる推論は他にありません」


「馬鹿な……時間を削るなんて、本当に出来るのか?」


 騎乗するラシャプの問いに答えるラバーズ


「普通は出来ないでしょう。神の力を得たものだけが可能なことだと思われます。このブルーノヴァを遙かに上回る、絶望的な驚異的な魔力です。しかし記録には時間と空間を操る者は、この機体ブルーノヴァだと記されています」


 意味が理解できないラシャプに、ツクヨミが話しかけた。


「金狼が言ってなかった? その機神は神になる運命を持った者が乗っていた。つまり、ラシャプ、あなたは相応しくないの。ブルーノヴァの力を使いこなせない。本来の力、時間と空間をコントロールする、その力を真似て私が見せたけど、こんなものじゃないよ本物はね」


 闇の王ラシャプの乗るブルーノヴァに、無造作に近づいてくる大魔王ツクヨミ。


「これからする行動は恨んでのことではないの。だから静かにお休みなさい。ずっと昔に戻るのよ。何も知らなかった純白の時代に」


「待避だ! ブルーノヴァ!」


 瞬間移動へ移行するブルーノヴァの時間のフローを削り、シャヘルの命令と同一時間で、ブルーノヴァの兜に手を触れた大魔王は、強力な魔力注ぎ込んだ。


「わたしは真の新しき時代を待つ事にするわ……関係を無くした、それでも愛する人と共に」


 強い魔力に包まれて、ブルーノヴァは蒸気のように消えてゆく。



 すべてが消え去り、自身だけとなった闇の王ラシャプは、地面に手をつき自問する。


「なぜだ、なぜ、僕にはブルーノヴァを使いこなせなかった……劣っている? 僕はもっとも優れた者ではなかった……クク、そうか、僕は見下していた者たちと一緒だったというわけか」


 ツクヨミは地面を叩きながら「無能」という絶望を味わっているラシャプに近づく。


「ラシャプ……特別な力なんていらないの」


 ツクヨミの真意だったが、ラシャプは否定されたと涙を流し、今までため込んでいた感情の全てを解き放つ。


「上位者の余裕かよ! 僕はね、無能で光の獣は使いこなせなかった……アハハ、でもね、力は他にもある……動き出したら世界が消える力が!」


 ゴゴゴゴゴ、地面が大きく揺れはじめ、グリモア城があったあたりの地下が隆起を始めた。ラシャプは血の涙を流し、初めて母に願った。


「世界をリセットする力を僕にください母マスティマ。あなたの乗艦していた、十二翼の光の神の旗艦、グリモアを使います」


 ラシャプの血の祈りと共に、直径3000キロ、地球の月と同じ大きさの、超巨大戦艦グリモアが、世界を割りながら、浮上を開始した。



 完全に露出した、月ほどの大きさの巨大戦艦から、光のラインが地上に降りてきて、自分に絶望したラシャプを艦内へと引き込んだ。


 旗艦グリモアの指令室に座ったラシャプは、感情のまま命じる。

「主砲ラグナロクを発射。目標は世界だ!」

 

「全エネルギーをジェネレーターに送信開始。主砲ラグナロクの封印を解除します」

 オペレーターからの主砲の活性化の報告と同時に、ラシャプの前に光のトリガーが現れた。パワーの循環を表す光の魔法陣がラシャプの手の甲に光り浮き出る。


「主砲ラグナロク最終段階へ。オールセキュリティ解除します」

 オペレーターからの最終報告が船内に響く。


「ラグナロクへエネルギー充電完了。安全弁解放。発射準備完了」


 円錐形のマスティマの上部の一部が開き、直系二キロメートルを越える、巨大な砲塔が姿を現す。全長、二十キロメートルを越える旗艦マスティマのリーサルウェポンが発射の指示を待つ。


「ラグナロク発射!」


 ラシャプの命令でグリモアの主砲が世界に向けて放たれた。



 

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