エピローグ人々の夢

第154話 大宴会

 エール公国で一番大きな来賓用大ホールは、豪華な飾り付けがされていた。

 悠久のエールの王宮。ホールの中央に立つ、赤髪の男の強靱な筋力は、今は。なみなみと注がれたグラスを持つ為に使われていた。


 六龍王との戦いに勝った白き騎士団に、参加したすべての国から、様様な戦士が、町人が、エールでの戦勝の大宴会に出ていた。


 みんなの注目の中、ダゴンが最初の挨拶を軽めに行う。


「おーーみんな! 長い戦いをよくぞ勝ち抜いたな。今日は俺の奢りで目一杯食って、飲んでくれよ! じゃあ乾杯だ!」


 ホールに入りきれない程の人々、兵士も民も神官も巫女も獣人も、全員が声を合わせた。

「乾杯~~! やった! ダゴン最高!」

 ダゴンの乾杯の音頭で大宴会が始まった。


「えーっと、ちなみに支払いは……エール王にお願いすると言うことで!」

 隣に座るエール王は、調子のいいダゴンの言葉にも、にこやかに答える。

「構わんよ、ダゴン。これくらいでは足りないくらいの働きだった。久しく感じられなかった、強い戦いへの意思を見せてくれた……とってもワクワクしたぞ!」


 エール王のお許しを得たダゴンは大いに喜び、賛辞と宴会へかける意気込みを語った。


「さすが、悠久のエールの国王だな。では遠慮せずにいかせてもらおう! グビリ、く~~エールの酒って旨いぜ!……って、獣王。それ俺が食いたかった、火食鳥のもも肉のロースト!」


 なみなみと注がれたグラスの酒を一気に飲み干したダゴンが、ドッシリと一番大きな料理が並ぶテーブルの前に座り込んだアスタルトに文句を言った。


「おい、アスタルト、それは俺のだ!」

 アスタルトは動じない、そして歴史にない苦労話を持ち出す」


「うん? こういうのは早い者勝ちだと古より決まっているだろ、シルバーナイトよ。それにツクヨミが銀河を再生してループさせ時間を、六龍王の戦い後まで、戻したが、俺は金狼として、ラグナロクまで付き合ったんだぞ」


 なんか愚痴ったアスタルトに不思議そうに答えたダゴン。

「うん? 金狼? それより食うぞ!」


 直系三メートルはある大きなテーブルには、肉料理専門のコックがついて、巨大牛モーモのステーキ、巨大魚ピラニャの塩焼き、そしてメインの貴重で珍味な、火食鳥のモモのローストがこんがりと焼かれていた。


 一メートルはある鳥のモモ肉を、むんずと両手で掴み、食べている獣王アスタルトにダゴンが文句を言った。


「ところでラグナロクってなんだ? 戦いは六龍王で終わっただろ? まあいいや、俺はこっちのデカイ、サラマンダーの肉を……って、アナト。なんでおまえ俺の隣でそれを食ってるわけ?」


 サラマンダーの胸肉を甘辛くソテーした南蛮焼きを、パクついているアナトが顔を上げた。


「もごもご、いいじゃない。こんなに……もごもご……あるんだから!」

「あのさ、一応、女の子だろおまえ? イルと一緒にオードブルとか、甘い物のテーブルへ行けばいいだろ?」


 アナトが口一杯に焼きたての、ブルーベリーのソースがかけられた、大羊のソテーを詰め込みながら、ダゴンをジロリと見た。


「あたしは肉料理が好きなの。あ! 甘いのも好きだよ。後でイルに合流するよ……それに、忘れたの?」


「そういえばおまえ、大食らいだったな。うん? 忘れたって何をだ?」

 ダゴンの答えにガッカリしたアナトが呟く。


「勝ってもどって来いって……そしたら、好きな物を食おうって……俺と一緒に……してくれるって、言った」

 アナトの言葉に腕組みをしたダゴン。

「そんな事言ったっけ? それに後ろの方、ハッキリ言わないと分からないぞ!」


「……!? ハッキリ言えるわけないでしょ!? ダゴンのばか!」


 アナトの言葉にニンマリするダゴンは、隣のアナトをこづいたは、

「もう、なにすんのよ! もごもご、いっぱいあるんだから、いいでしょ」

「あのさ、アナト。食ってから文句を言えよ。それになんでいつも、俺のご馳走を奪うわけ?」


 大羊のブルーベリーソースがけを飲み込んだアナト。


「ごっくん。ふぅう。美味しい~~! ここのコックの味付けもいいよ。そういえばゴースに初めて来た時も、ダゴンのご飯を食べちゃったっけ?」


 給仕から酒を注がれながらダゴンが答えた。


「ああ。俺も大概に食う方だけど、おまえはその華奢な身体で、どこに入っているんだ?」

 次の獲物に手を伸ばしながらアナトが答える。


「うん? 女子高生はエネルギーが弾けてるからね。特に、わたしは勇者だし」

「もう半分食った? アナト、俺と話してるとき以外は、ずっと食ってるだろう!?」


「もごもご。失礼な。もごもご、ダゴンと話している時にも、ちゃん食べているわよ約束は果たしてねダゴン」

(私を抱きしめて、よくやったと……優しく言って)


 宴もたけなわ……酔っ払いが大量発生。


 テーブルでは、バアルと獣王アスタルトが向い合って話している。

「バアル、もっと食わないと大きくならんぞ! ぷふぁぁ旨い。それに金狼の力を借りるなら、もっと鍛えないとな!」

 グラスは使わにず、樽ごとグビグビと酒を飲む獣王アスタルト。

「あのさ、アスタルト。何度も言ってるけど、そんなに大きくなるわけないだろう? それに金狼って誰?」


 まだ高校生のバアルは(現世では)絞りたての桜桃のジュースのグラスに口をつけた。

「うん、そうか金狼は知らないか。女の子みたいな細い身体の勇者は格好悪いぞ! ほれ、これを見ろ」

 酒の入った樽を自分の横に置いて、腕をまくり、その力こぶをバアルに見せつけるアスタルト。


「だからさ、軽く女の子の胴回りくらいある、そんな腕を見せられて、どうだって言われても、何とも出来ないよ」


 二メートル五十センチを越える巨大なライオンに、自分の普通らしさを訴えるバアル。


「人間の高校生の男なんて、こんなもんだよ」

 バアルの言葉に首を振る獣王。

「出来る! 牛乳を毎日、最低二リットルは飲め! 金狼も同意見だ!」

 脱力したバアルがため息をつく。

「何度も言っているけど腹壊すって。それに金狼って誰なんだよ……あれ? ところでグレンは?」

 次の酒の樽の蓋を開けたアスタルトが目で、バアルに方向を示す。


「うん? あそこだ。床に延びてるのがグレンだな」

「ええ!? なんでグレンが倒れてるの?」

 驚いたバアルが立ち上がり、床にのびているグレンへ向おうとした。

「少し飲ませすぎたかな? 酒をたったの一樽だけなんだがな」

 バアルは振り向きながら持論を獣王に述べた。


「はあ? だから、人間に獣人のマネは出来ないって!」

 獣王アスタルトは言に関せず特例を顎で示した。

「そうか? アーシラトは平気で飲んでいるぞ。既に三樽目だしな」


「すげーな姉……いや、さすがゴースの魔女。あの細い身体の何処に入っているのだろう?」


 アイネ・クラウンはめちゃ酔っ払ったイルに絡まれていた。


「こら、アイネ飲め! わたしに酒をつげ!」


 ケーキやドーナッツ、ワッフルなど、見かけは素朴だがとても美味しいデザートが並ぶテーブル。


「もーー、イル、酒癖が悪すぎるます。あ、だめです! アーシラトあんまり勧めないでください!」

 イルのグラスに酒を注ぐのを、止めようとするアイネを、ジロリとアーシラトが睨んだ。

 目が完全に据わっている。


 イルと共に三樽目を開けて、グラスに酒をくんだアイネをバアルが心配する。


「アイネ、もう、それくらいにしておいたらどうだ?」

「バアル。この状況を見て止められると思います? それかイルを何とかしてくれます?」

「いや、そーーじゃなくて。ちょっと心配しただけだ。はぁあ、俺の周り女子は強くて酒癖が悪くて……普通の女の子が欲しい」


 アイネの美しい切れ長の目が、前髪の奥からバアルを覗きこんだ、

「私じゃだめですか……きれいなお姉さんはきらいですか?」

  ドッキとしたバアルとアイネが、恋話を始めたので、そっと、イルは床に伸びているグレンに向かった。


 完全に飲まされ過ぎで、グロッキーなグレンの頭を自分の膝に乗せて、微笑みを湛えたイルは静かに話し出した。

「私もあなたも暗黒の力を持つ、その心の葛藤と弱さを共有するの。だからね、ダークナイトこれからもよろしくね、特別に」


 色々ともりあがっている席で、アナトは思い出した事があった。


「そうそう。あなたにも食べさせないとね……って言っても、宴会のご馳走はまだまだ無理かな……フフ」


 アナトはダゴンの皿から次の獲物を奪うのを止め、自分の右側の椅子に置かれたゆりかごを覗き込む。

 そこには無邪気な寝顔を見せる赤ん坊が居た。


「君はよく寝ているね……」

 アナトの呟きに答える声が聞こえた。

「……眠っている子供って可愛い。無邪気で何の罪も持たないから」


 アナトが振り返ると大魔王ツクヨミが、アナトと幼き闇の王ラシャプに微笑んでいた。 


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