第149話 大魔王の力

 対峙する現世の最強と古代の機神。


 大魔王の瞳にあふれる光、その圧倒的な魔力に恐怖が蘇る闇ラシャプ王。

 それはアナトの漆黒のエナジィで感じた、死の予感すら可愛いもの。


 恐怖に取りつかれラシャプが喚き散らす。


「ラバーズ攻撃しろ! 最大火力! 全スキル発動しろ!」 

 ブルーノヴァの肩の光子レンズが、光速で瞬いては暗くなるを繰り返す。

 焦点が合った場所に光の弾が打ち出され、地上が吹っ飛ぶ。


「どうだ! 僕は強いんだ。お前たちカスとは違うんだ。それは大魔王でも同じだ。この神の鎧の前では……えっ、まさか」


 土砂が吹きあげられ、視界が無くなり、粉塵が収まるとシルエットが見えた、竜巻のように舞い上がる、大魔王の魔力が見せる強大な姿が、ラシャプに近づいてくる。


「ばかな……無傷だと。その力はなんだ? 神さえ越えて見せるというのか大魔王?」

 ただ圧倒されて呟くラシャプの目に、爆破で舞った破片が収まりはっきりと姿を現した大魔王が口を開いた。


「まだ、そのおもちゃがいいみたいね……じゃあ、ぶっ壊す」


 大魔王が右手を上げて、手を開いて空間をつかむと、巨大な炎が頭上に立ち、変化していく、最終的に10メートルもの巨大な鷹となった。


『焼き払えフェニックス』


 大魔王の命令で巨大な炎の鷹は、ラシャプに向かって放たれた。


「レジストオールを発動」

 ラシャプは勇者のパーティとの戦いで、先ほどラーニングした防御魔法を展開。

 ブルーノヴァの周りに展開された結界に、炎の大鳥が飛びこむ。

 凄まじい爆音と、炎が周りに巻き散る、灼熱に包まれる機神。


「外装の温度は摂氏30万度。魔法の結界は消滅。第三層まで装甲が融解しました」

 機神のOSからの報告を聞きながら、ラシャプは恐怖に震える。

「まさに小さな太陽をここに作り出しやがった。だが、機体はもった、ラーニング完了だ……大魔王の最高魔法を受け切った……うん? なんだあの構えは?」


 灼熱の中でラシャプは見た、大魔王が両手を高く上げ、空中をつかむ動作を。

 天空から稲妻が数千も走り、大魔王の頭上に壮大なプラズマの塊を作り出す。


「なにが起こるんだ!?」

 ラシャプの恐れは、騎乗する機神を一歩後ろに下がらせる。


 巨大なプラズマは大魔王の上空で大きな翼を広げた、それは先ほど見せた炎の大鳥を遥かに越える、イカズチの鳳凰、大きさは100メートル。


「そんな……あんな魔法はあり得ない」

 かつて大魔王であったラシャプでさえ、感嘆する驚異の魔力によって作られた、巨大なイカズチの鳳凰を、放つ現在の大魔王ツクヨミ。


「撃てよ鳳凰 THUNDERBIRDS ARE GO」

 天空を覆いつくしたイカズチの鳳凰が、回復中のラシャプへ振り下りた。

 激しいスパークが青く輝き、ラシャプの身体に伝わる強烈な振動。

「まてまて、こんなのは反則だ! ありえない!」


 操縦席の計器類が吹き飛び、360度を映す球体スクリーンが消えた。


 完全に動きを止め、その場に倒れた古の機神。

 あまりにも強烈な衝撃で負傷した、ラシャプが口から血を吐き出す。


「……死んだかと思ったよ。でもね、生き残った。イカズチの鳳凰の魔法もラーニングできた」


 修復を始めたブルーノヴァを見ながら、追撃しない大魔王にラシャプが呟く。


「なんのつもりだ大魔王。僕を倒したつもりか? 止めを刺さなければ、こいつは何度でも再生する、そしてラーニングした攻撃を使えるようになり、そのスキル自身も無効にできる。しょせん、おまえがどんなに規格外でも、古代の神の力には敵わないのさ」


 神の力と言われて大魔王が、ラシャプの考えの幼さ軽さに不満を漏らす。


「あなた……やっぱり、機神を使いこなせていない。覚悟が足りないわ「僕は孤独だった」「僕は優れている神だ」とか駄々こねているけど、前のブルーノヴァの所有者は、神となるべき条件を全て満たしたけど、愛する人が出来て神にはならなかったの。神様は私たちと相互の関係は持てなくなる、一方的な信仰、自分は一段上の次元へ一人ぼっちで進むのよ。あなたにその覚悟があるの?」


 完全に修復を終えたブルーノヴァ、古代の機神に向かって、大魔王が右手を強く強く握った。


「それともっと喧嘩はシンプルがいい。あ、躾だったよね? あなたは固く握った、ただ力を込めた拳の痛さを知りなさい」


 一瞬でブルーノヴァの胸元へ飛んだ大魔王は、固く握った拳を叩きつけた。

 拳を中心にとんでもない量の魔力が放たれる。


「僕の騎乗する神の鎧は一億枚ものシールドが貼られている……素手で壊せるはずは……」

 ラシャプが計器を見て青ざめる。

「一撃で……七千万のシールドが喪失? そんな」


 振りかぶり二発目を打ち出した大魔王、シールドを素手で貫いて、直接魔力を打ち込む。大魔王の三発目はブルーノヴァの装甲を貫通した、神の鎧の動きが止まる。


「ばかな、どこまでなんだ、おまえの本当の力。この世界が選んだ者は大魔王ツクヨミなのか」


 ラシャプが信じがたい光景に言葉を失う、ビシビシ身体中にヒビが入るブルーノヴァ、ボディが砕け落ちた。


 転生勇者バアルが大魔王の強力な魔法より、真に恐ろしいのは素手の攻撃だと言っていたが、まさに地上最強の攻撃だった。


 今、それが証明され、装甲がなくなり、コクピットが半壊して、体が表に出たラシャプに手招きする大魔王。


「今度は自分の拳で語りなさいラシャプ」

 砕け倒れ落ちたブルーノヴァ、神の鎧から出たラシャプは首を振り続ける。

「僕は認めない…おまえはここで死ぬんだ」

「おもちゃなしで? どうやって戦う気?」

 圧倒的な力を見せる大魔王に、ラシャプは戦う意思を見せた。


「おもちゃは壊れたわけじゃない……ラーニングして修復中なのさ。そしてファイナルヴァージョンへとアップする」


 ラシャプの身体を蒼い光が包む、その光は徐々に形を造っていく。

 修復されていく機体は、ブルーノヴァに似ていたが、遥かに大きく、巨大なエナジィを出していた。

 最終バージョン、身長二十メートルの真の機神の蒼き機体が現れた。


「母のマスティマがこの星に、降りてきた時に乗ってきた船、身近な所にあったよ。グリモア城の地下にSSN-571戦艦ノーチラス。機能はほぼ完全な形で休眠していた。母マスティマの手でね。それからノーチラスで、あなたが言う、良いおもちゃが見つかった。それが僕が乗っているブルーノヴァ」


 大魔王ツクヨミは黙ってラシャプの話を聞いていた。


「でもここにあったのは、かなり古い機体だった。それでちょっと困ったけど、バージョンアップの方法を見つけた。まさか使う時がくるとは思っていなかったが……機体自身が古いので、ヴァージョンアップには危険がある。だが、ここまで破壊されたのであればと決心した。おかげで世界を滅ぼした、最終バージョンが実現できたよ」


 ここまで黙って聞いていた大魔王が声を出した。


「じゃあ、それでいいのね? そのおもちゃがあれば戦える?」

 大魔王からは測量不可能な魔力が溢れだし、爆炎を周囲にまき散らす。

「あなたの回復と言い訳を待っていたの……これ以上はガッカリさせないでね……餓鬼!」

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