第148話 最後の強者

 黄金龍が去り、動く者がいなくなった地上で一人憤る闇の王ラシャプ。


「機神は僕がふさわしくないだと! そんな事はない! ブルーノヴァは僕のものだ」


 黄金龍に破壊され、自動修復中のブルーノヴァの中で周りを見ていたラシャプ。

 小さな光球が目の前に倒れるバアルの上に降りてきた。


 その微かな輝きに気が付いたラシャプは、腕のガトリングをバアルと、地下に残る四人のパーティを打ち込んだ。


 ズタズタに破壊される地下室と目の前の砂塵、しかし、光の玉は五人を格納して空中へ飛び上がり、一瞬で消えた。


 何が起こったか分からないラシャプの目に、360度スクリーンを通して、静かに後方から近付いてくる者が見えた。



「大魔王ツクヨミ……やはり最後はあなたか。僕に逆らう者など許せない。神の僕にね」

 ラシャプの乗る神の鎧は修復を終えて、その場に二十メートルの青い巨体を見せた。


 静かにゆっくりとだが、確実に近づいてくる大魔王ツクヨミに、戦闘準備が出来たラシャプが呟く。


 ラシャプの目の前に立った、大魔王ツクヨミが両手を挙げて、大きな欠伸をした。


「ふぁあ~~。まちくたびれた。寝過ごしてアスタルトに迷惑かけちゃった」

 欠伸をするレザーのボンテージで二つにセパレートされたブラトップとフレアミニスカー。まったく戦場に相応しくないが、その魔力は見る者を圧倒する。


「大魔王……それは申し訳ない。こちらにも順番があるのでね。まずはあなたの大事な者を倒し、そして母を消してきた」


 欠伸をした時に口元にあった右手を下ろして、大魔王は神の鎧を見た。


「なんか良くわかんないけど」

 大魔王はつまらなそうにしている。

「小物って感じ」


 闇の王ラシャプが言った。

「小物だって? この世界の破壊者……闇の王が?」

「だって偉そうにしているけど、誰かとガチで殴りあった事あるの? そんな玩具なんか乗っちゃってさ」

 シュシュと拳を振ってみせる大魔王。

「いつも影から策略ばっかりだと、カッコ悪いわよ」


 ラシャプが苦笑いする。


「自分が叶わない者に、素手で向かっていくのは蛮勇だよ」

「あれ? そうかなあ」

 大魔王ツクヨミは一人うなずいた。

「うーーん。でも、私は好きだな。男の子ならストレートが一番だよ」


 大魔王の言葉にラシャプが憤る。先ほど、バアルの黄金龍に言われことを思い出していた「叱ってもらえ」と。


「叱ってもらえ? この女にか? う、うるさい長い間、闇に落とされて、苦しんだ僕の気持なんか、おまえに解らない」


 大魔王があっさり答えた。


「わかんないわ。でも、勝って当たり前の勝負なんて、つまんないでしょ? 自分が絶対勝てる相手ばかりと喧嘩。金狼の力を見たら、命がけでいきなさいよ……つまんない男」


 いちいち癇に障る大魔王の言葉に、ラシャプは戦闘を始める準備を開始。

「どうやら、死にたいらいしいね」

「うんうん、情けない男の愚痴も聞きあきた」


 冷静だったがついに切れるラシャプ。黄金龍にあしらわれた記憶が蘇る。


「こ……このやろぉお~~しね!」

 神の鎧ブルーノヴァが動き出した、巨大な拳を大魔王にぶつけた。

 大魔王の周辺の大地が陥没する。


「し……しね・しね・し・ねええええ」

 地上は完全に破壊された、それでも力を緩めないラシャプ。


「ばかがぁ、おれをだれだっと思っているのだ。この世界の征服者だ。おまえなど細切れになれ」

 巨大な力によって大地にヒビ割れがはしる。

 

「餓鬼め」

 大魔王の言葉が響く。

「餓鬼はぶん殴る」

 地の底まで押し込まれていた大魔王に、戦いのスイッチが入った。


 ブルーノヴァが大地を破壊した拳の辺りから、膨大な魔力が溢れてきた。 

 ググ、ブルーノヴァの拳が押し返される。


「きさま……」

 ラシャプが今度は、左の拳を振り上げた。

 ブルーノヴァの右手を持ち上げ、姿を現した大魔王ツクヨミに再び拳が撃ちだされた。


「いいかげんにしなさい餓鬼」

 神の鎧の打ち出した拳に合わせ、大魔王の右拳が放たれた。


 ぶつかる巨大な金属と小さなか弱き拳。

 ……ビシ、神の鎧の拳が砕けた。ヒビは肩のあたりまで繋がっていく。


「なにぃぃぃ」

 ラシャプが驚くと、大魔王が右手を延ばしてラシャプを誘う。


「さあ、そんな玩具に乗ってないで、降りてらっしゃい……くそ餓鬼」

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