第144話 機神ブルーノヴァ
交錯する光と闇。その力に城全体が揺れる。
本来、白き者である女が持っていた、闇、世界を破壊できる程のイルの潜在力。
アナトはイルの黒き刃、ライン攻撃をかわして、素早く飛び込み、身体を回転させた。
「よし! ここだ!」
アナトの声が響き、剣を背中まで振りかぶると体に反動をつけ、思い切りイルへと叩きつける、攻撃は弾かれたがマサムネブレードが光りを強め始める。
アナトは頃合いを見て、鞘にマサムネブレードを一旦収め、エナジィを高めて一気に居合いを抜く。
強大な光の刃がイルを襲うが、渾身の光の半円を、片手で受け止めて、笑うブラッドエンジェル。
「青い目の勇者。フッラから得た光の獣を得たあなたは美しく強い。でも、今の私を倒すことは出来ない。光が闇を押さえ込めるわけではない。どちらに主従があるのではない。それは闇と光を持った私が良く分かっている」
暗黒の天使は再び黒い涙を流して、空中に止まるアナトを見た。
「光しか知らない……アナト、あなたでは私は倒せない!」
イルの言葉を聞いたアナトは、マサムネを構え直し、瞳を閉じると、自らのはエナジィを限界まで高め始めた。
その身体は、いっそう光り輝き、銀色の鎧が透き通る。
「私は……闇を知っている。自分の父親を殺し、心は闇へと落ちた……人は神の力を持っても、深い闇を永久に消し去ることは出来ない、過去を変える事も出来ない。だから、私は光り輝く。一瞬の瞬きが、私とイルの闇を一瞬だけ消滅させるから」
最大まで高められたエナジィは、アナトのバトルフォームを、より純粋なエネルギー体、アストラルへと身体を変化させた。
クリスタルの様に透き通った身体は、幾層にもカットされ、光を増幅するダイヤモンドのように自ら光を作り出し、強烈な輝きは世界を照らす。
地上を蠢く黒い触手をなぎ払いながら、バアルが眩しそうにつぶやく。
「あのエナジィの力、光の輝き……あいつ、まだ本気じゃなかったのかよ」
アイネが痛む身体を立たせて微笑む。
「天の神子の艦隊、十二翼の戦女神。その中で最高の戦士であるシルバーナイト。その力は無限大」
アナトの鎧が完全に透き通り、生まれたままの、美しい身体を見せた。
マサムネを天にかざし、アナトの最大奥義が発現した。
巨大な雷のような光の太刀が数百メートルにも伸び、イルの身体を切り裂いた。
瞬間、暗黒の天使は真っ二つに切り裂かれた。
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破壊され黒いエナジィが消えて、イルは元の姿に戻っていく。
床に倒れこむイルをアナトが、両腕で抱えて頬を寄せる。
「痛かった? 苦しかった? ごめんねイル」
「むにゃ、もう、食べきれないよー。あれ? 私どうしたんだっけ。アナト頬すり、くすぐったいよ」
アナトはイルの言葉に、力を増して全力で抱きしめる。
「良かった。闇の部分を引っ込ませただけで済んだみたい」
アナトの言葉通り、イルに刺されていた、ひね曲がる剣も地面に落ちていた。
「どうしたの? なんかあった?」
無邪気にアナトにイルが聞いてくるで、やっと安心したアナトが痛みを漏らす。
「イルが無事だったのはいいけど、体中が痛いし、力が入らないよ。イル、治療をお願い」
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伝説のダークナイトのモードから元に戻った、グレンが闇の王ラシャプを追う。
「ラシャプ、もう逃げられないぞ!」
「逃げる? 十分時間は稼げたよ、僕の準備が出来たわけだ。クク、……勇者諸君。この世界で身の程を越える力を持つ者ども。正真正銘のこの世界の上位者である天の神子と遊ぼうよ!」
ラシャプにより、城の床に巨大な魔方陣は赤き血でかかれており、六龍王のエネジィを受け取るもの。青い光がラシャプの身体を包み、その光は徐々に形を造っていく。その姿はヘルダイバαに似ていたが、ヘルダイバαとは比べものにならない巨大なエナジィを露出していた。
身長二十メートルの蒼き機体が、ラシャプと融合して、真の天の神子の遺産が発現した。
「これこそが本物。名前はブルーノヴァ。かつて神になる力を持ちながら、神にならなかった者が、世界を滅ぼしかけた意思のある鎧。さっきまで僕が騎乗していた玩具のヘルダイバーαとは、まったくの別物と理解して戦ってくれよ。そうじゃないと、君達はあっさり死ぬ事になるから……じゃあ続けよう。二回戦を……ここからは死にゲーだよ。少しでも戦いを間違えば、さっそくゲームオーバー。さて感じてもらおうかラスボスへの絶望を」
急ぎアナトへ、イルが素早く回復魔法を施す。
「痛いよ……早く治してイル。あいつを、闇の王を倒すのはあたしなんだから!」
「はいはい。初めてアナトを見た時は、世界を救う力なんてないと思ったけど……フフ、こんなに強くなるとはね。でも、猪突猛進で大食らいなのは変らないけど」
イルが笑いながらアナトに言った。
「うっさい! 大食らいは余計だよ!……助けてくれるの? くれないの?」
イルはアナトに癒やしの白い光を送りながら、首を左右に振る。
「ばかね、わたし達は仲間でしょ? 助けるよ。さっきはあなたに助けられた。行きなさい。わたしの大事な友。勇者アナト。闇の王をぶっ飛ばせ!」
アナトが頷き、残りの者はパーティの陣形を整える。
前衛はバアル、グレン中衛にアナト。後衛には負傷したアイネとイル。
「さあ、行くぜ! 闇の王を天の神子の遺産を倒す!」
バアルが叫び、治療が済んだアナトが入り陣形が整った時、皆が頷いた。
古の機神。意志ある鎧ブルーノヴァを操るラシャプがニヤリと笑った。
「さて準備ができるまで待ってあげたのだから、一発で死ぬなんてつまらない事は止めてくれよ。殺せ神の鎧ブルーノヴァ」
ブルーノヴァのOSであるラバーズが答える。
「了解。五つの魔法陣を開きます。光子レンズオープン。パワー最大。フルレンジ射撃」
ブルーノヴァの肩の装甲が反転すると八個のレンズが現れ、力の循環が始まり、機体には五個の魔法陣が現れ廻り始めた。
ブルーノヴァの攻撃の直前にイルが叫ぶ。
『全ての災いを払え ラ・シールドオール』
同時にアイネも叫ぶ。
『宿れ精霊達 ラ・レジストオール』
対物理と対魔法そして、全属性のシールドがパーティを包み込む。
さらに竜騎士バアルが、その守備力を生かして一歩前に出て盾となる。
「ほう……完璧な布陣だ……だが通じないよ。クク、死ね。一人残らず!」
ラシャプの声と共にレンズの光がバアルに重なる。一万度を越える高熱の光の束がバアルを襲う。翠の風と竜のエナジィで身を守るバアル。
続けてブルーノヴァは腕の、リニアレールガンでの連続射撃を開始した。
機神の攻撃は巨大な地下空間を、振動とともに破壊し続ける。
光の速度で打ち出される金属の弾で、舞い上がる土砂と光の束で、高熱で歪んだ空気が混ざり、強烈な熱風の渦が巻き起こった。
「視界0%。敵をロストしました。視界回復まで90秒」
ラバーズがラシャプに報告する。
「攻撃停止。全方向のスキャンを開始します。スキャン完了。敵の存在は確認出来ません」
「クク、死んだか? 死んだか!?」
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ラシャプの笑い声が巨大な空間に響いた。
勝ち誇ったラシャプに、緊急で神の鎧のOSラバーズが報告する。
「ジャンプを確認。後方十メートル」
「何!? ジャンプだと? そんな力がアイネに残っていたのか? まさかここに来てマスティマと力を合わせたのか」
ラシャプの後方で、一瞬で蒼い光が集まり消えた、神の鎧の攻撃レンジ外へテレポートした勇者のパーティは、即座に攻撃態勢を取っていた。
勇者のパーティーの団結力と実力に、かつてこの世界を制していた魔王ラシャプがうなる。
「なるほど、勇者のパーティは侮れないな。だがアイネには、もうジャンプするエナジィは残っていない。これを凌げば勝てる!」
後ろを取られ、勇者のパーティに先制を許すラシャプが目に、蒼く光を放ち始めるアナトの姿が映る。
アナトの手に力の循環が始まり、魔法陣が描かれていく。
『全ての敵を打ち消せ ラ・シャイン』
アナトの撃魔法に続けて、アイネの右手に力の循環が始まる。
『鋭き氷の壁 ラ・フリーズバイト』
質量のある光の雨が、氷の欠片がラシャプへと降り注ぐ。
動きを止める神の鎧ブルーノヴァ。
そこへバアルとグレンの必殺の声が響いた。
『真竜ソニックブレード』
『アルカナブレード』
パーティが連携して打ち出した魔法と剣技は、合体魔法として威力を最高まであげ、強烈な衝撃波を叩き出す、ブルーノヴァの装甲が半数以上吹き飛ぶ。
最後の詠唱を開始したバアルが語りかけた。
「ラシャプ……何の咎めもないのに、その身を闇の国に封印された哀しみ……世界を滅ぼす事を望んだも仕方ないかも。でもな、人の大事なものを汚す事は許せない……アナトの父さんや六龍王、そして俺の姉のアーシラト。だからこの魔法で決着をつける……六龍王よその力を我が手に!」
トドメの一撃を放つバアルの額には、五つの角を持つ魔法陣が宿った。
立体的に表示された魔法陣は、縁取られ滲むように光を強め、龍の王の力が右手に宿ったバアルが六頭の龍に命じる。
『聖なる六竜が放て ヘキサグラムフォース』
六頭龍の血を引いた翠の龍、ドラゴニックオーラを放つ勇者バアル、アイネが使った龍の魔法とは威力が桁違いだった。
神の鎧ブルーノヴァへ六つの光の筋が飛ぶ、まともに受けて、全てのシールドを抜け装甲を突き抜けた六頭竜の魔法。
桁違いの「戦いへの意思」に弾き飛ばされたブルーノヴァは倒れて。機体からは蒸気のようにエナジィが洩れていく。
「ダメージによるエナジィ消失95%。防御シールド消滅。全ウェポン使用不可。第三装甲まで大破。システム稼働率5%……ラーニング完了」
機神オのOSラバーズの報告が闇の王に届き、笑い出す闇の王ラシャプ。
「フフ、そうか、ラーニング出来たか」
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