第142話 機械の巨人

 転生勇者バアルと召喚勇者アナトのパーティが、古代の神の巨人に相対する。


 前衛にバアル、グレン、中衛をアナト、後衛をイルとアイネが守る。

 現世の最強パーティとついにラグナロクが始まった。

 かつてのマスティマ女王の居城グリモアで、剣を構えるバアルは呟く。


「俺はこの為に転生して、戦ってきたのかもしれない。今までの事が頭に浮かぶぜ」

  

 闇の王が騎乗する、機神ヘルダイバαから、距離を取った五人は、即座にスキルによる攻撃を開始した。


「全員先行で最大奥義をぶつける! 俺に続け!」


 叫んだバアルの背中に翠の竜のエナジィがゆらりと映った。

 翠の鎧がその姿を変えていく。鋭い鱗の表皮が割れ始め、新たに結合を繰り返し、翠の大竜に変化したバアルは爆風を起こすインフェルノソードを振り込む。


『爆風昇龍剣』 

 翠の風を纏いながら爆風がへルダイバαへ撃ち出される。

 続いてアナトが昴を構えた。


『ブラックホールキャノン』

 アナトは百キロを越える昴を、超高速で横に払った。


 続いてグレンの父親譲りの秘剣が発せされた。

 居合のスキルでエナジィを一点に集中し、高速で必殺技を撃ちだすグレン。


『アルカナブレード』

 ダークナイトには変身できない今、使える最高技。

 

 バアルとアナト、そしてグレンの必殺技に地面に亀裂が入り、衝撃波が回転しながら突き進む。


 続く必殺の攻撃を回避しようとするヘルダイバα。

 しかし、グレンのソウルイータの特殊能力である呪縛で動けない。

 三人の衝撃波が直撃し、動きを止めたヘルダイバαに向ってアイネが縮地で、一気にヘルダイバαの頭上へ飛ぶ。


 双剣にエナジィを込めて機械の巨人に叩き付ける。アイネの背には剣の軌道、八つの羽が見えた。 


『八翼天使の刃』


 大魔王のおかげでかなり回復したが、それでも痛々しい右手を無理やりに使い、八回のアイネの高速な剣劇、衝撃がヘルダイバαの頭部を破壊し、亀裂が巨人の機体内部へと入り込む。

 内部から炎上して動きを止めたヘルダイバα。


 アイネはが地上にスタッと降た時に、ズズン、古代の巨人は崩れ落ちた。



「やったのか……俺たちが」

 バアルが探るように倒れた機械を見た、

「やっぱり、あたしって世界最強の勇者様?」

 アナトは簡単に倒れた巨人に喜んでいた。

「あたしって……他のメンバーの立場は?」

 グレンが反意を唱えた。


「うん? 何言ってるの! おやじはやられ役に決まっているでしょう?」

 アナトが答えにグレンが懸命に反論する。

「だからさぁ、好きで老け顔でいるわけじゃ……」

 アガレスが言いかけた、その時。


「まて! そう簡単にはいきそうもない」

 バアルが左手を挙げて、巨人に近づくなと指示を出す。


 ヘルダイバαが立ち上がり光り始めた。

 装甲が修復され、防御シールドが回復していく。


 立ち上がったヘルダイバαに騎乗する、ラシャプにアナトが語りかけた。

「玩具を見つけたね。闇の王ラシャプ」


「久しぶりだね、アナト……召喚勇者。どうやらエナジィを取り戻したようだね……父親と大魔王に感謝だね」

 アナトは唇を強くかみ、目の前の父親の仇を見ている。

 ヘルダイバαに騎乗した闇の王ラシャプが、アナトの心の底を見透かして言葉にする。


「おや? 少し焦っているのかな。外も気になっている? 確かに黒き軍団は十万、白き軍団は二千。せいぜいもって二時間くらいかな? たとえ獣王アスタルトと、シルバーナイトのダゴンがいてもね。この国の軍隊が壊滅するまで、君たちには僕の相手をしてもらうよ、クク」


 向こうの壁が見えないくらい巨大な、地下のホールにラシャプの声が響く。


「さて君達はどんどんやってくれよ。遠慮はいらない。必殺技でも魔法でも、使ってくれて結構だ。こちらは無限コンティニュー。何度でも再生するからさ」


 完璧に決まった全員の連携攻撃でも倒せなかった、ラシャプの騎乗するヘルダイバαを前に躊躇するペーティの五人。


「クク。どうしたの来ないの? 確かに各自の必殺技で倒せなかったからね。クク、さてどうする?」

 ラシャプは楽しそうに笑ったが、その言葉には動じず、アイネは左手を空中にかざした。


「こんな玩具じゃないでしょ? ラシャプ、あなたが見つけたものは!」

 アイネの突然の言葉に驚きながらも冷静の答えるラシャプ。

「ほう、マスティマが囁くのか。本物の力の存在を。フフ、でもこの機械を壊せないようでは、お話にもならない」


 広大なホールに力の循環が始まり、巨大な魔法陣が描かれていく。四方から稲妻が走り、魔法陣に吸い込まれていく。マスティマの力を借りて最大級のエナジィが流出する。アイネは掲げた左手を闇の王ラシャプへ向けて、力を放った。


『空と大地の雷神 シャイニングスパーク!』

 数千もの稲妻が龍となって降り注ぎ、強烈な雷の衝撃がヘルダイバαを襲う。


「さすがアイネ――いや、母マスティマが発現したか。まだこちらが完全に回復していない今、最速で最強の魔法を持ってきたか!」

 ラシャプの感嘆と同時に、ヘルダイバαのシールドが雷に砕かれていく。

「あなたが雄弁なのは、古代の巨人の回復を待っていたから……でも逃がしません!」


 発現したマスティマの力を借りて、アイネの詠唱は続いていた。

「なに? 続けて魔法を詠唱だと!?」


 驚くラシャプへ向って、鋭い視線を送るアイネの額には、五つの角を持つ魔法陣が宿った。立体的に表示された魔法陣は、青く縁取られ滲むように光を強めた。


 アイネが左手に宿った六頭の竜に命じる。

『聖なる六竜が放て ヘキサグラムフォース』


 闇の王ラシャプへ六つの光の筋が飛び、厚い装甲を貫かれたヘルダイバα。

「ばかな。それは六龍王の技。アイネお前は……完全にマスティマと同化したのか」


 竜巻のようなエナジィがアイネの周りを巡り、髪を結わえた糸が切れ、アイネの長く銀髪が空中に広がる。轟音ともに、再び崩れ落ちるヘルダイバα。


「世界の平和を守る為には、例え古代の神の兵器であっても、引く気はまったくありません。たとえマスティマの力を借りてでも」


 アイネが空中で銀色の光を放つ。細く長い髪を払った。


 勇者のパーティーの力により破壊された神の巨人。

 パチパチ…… 破壊されたヘルダイバαから火花が飛ぶ。


 巨大な機械の胸の装甲が開いて、闇の王ラシャプが姿を現した。


「まいったな、こんなにも簡単に壊されるとは……探しだして起動するまで、結構大変だったんだけど」


「な、な、なによ。あんた、何を言ってるの? もう、古の機兵は倒したんだからね! 降参しなさいよね!」

 ドキドキ震えながらも、おしゃべりで口の悪いイルが、闇の王ラシャプに降伏を促した。イルの言葉には応えずに、独り言のように話し始めた闇の王。


「システムは複雑化すると、設計した者にも理解できない結果を生む。本来この世界は、光と闇から新しい色を生む為に設計、プログラムされていた」

 何を言っているか理解できないパーティを無視して、ラシャプが語る。


「六龍王がこの世界を変化させ、転生勇者と召喚勇者が龍を押さえ、新しい世界を維持するストーリー。しかし異世界の勇者と家族のあまりに大きな力によって、計画は狂った」


 ラシャプは独り言のように話を続ける。

「天の神の計画に狂いが生じた時に、プログラムの初期化が発生する。神の力で封じられた僕が、解放されることにより、天の神子のカギが開けられ初期化は始まった……まずはノーチラス、そしてこの機械の巨人。そしてもう一つは……フフ」

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