第141話 秘密の部屋
「う、うん頑張るよ」
ダゴンの励ましに、か弱いアナトの言葉、先ほどのゴラムとの戦いではなすすべがなかった。ノーチラスもどうすればいいか、戦う方法さえ思いうかばなかった。それなのに次の敵は確実に、今までの力を越えてくるだろう。
そしてフッラはもういない、イルのイザナミもグレンのダークナイトも発動できるか分からない。アイネに至っては重症だ。
ダゴンはいつになく、緊張の顔を見せるアナトに近づき、その肩を抱き、銀色の髪に触れ耳元で囁く。
「どうした召喚勇者? 立派に成長したアナトは誇り高き勇者だ。必ず勝って戻ってこい。そして一緒に旨い飯を食おうぜ」
長い間一緒に旅した、赤髪のダゴンを見上げたアナトが頷いた。
「うん! サラマンダのもも肉がいいな。でもね、ダゴンそれだけじゃ嫌なの、頑張れないよ……ねえ、ダゴン。あのさ、なんて言ったら良いのか……あたしってどうかな」
食べ物をオーダーするアナトに、胸を叩いて了承するダゴン。
「よし分かった腹いっぱい食わせてやる。恐れるな。食欲があってこそアナトだ。うん、それだけじゃダメってなんだ? アナトはどうかと聞かれても、アナトだろ?」
徹底的に鈍感なダゴンに、呆れながらも、これが最後となるからと勇気を出してアナトは自分の気持ちを伝える。
「ダゴン、あたしはあなたが好き。ずっと兄のように父のように、あたしの傍に居てくれたから、あなたを今まで意識しても、はっきりとは言えなかった。でも、これが最後の戦いになるから……戻ったら抱きしめて、おもいっきり」
一瞬、驚いたダゴンが、視線を下げアナトをハグして、頷いた。
「わかった。行ってこい。愛する青い目の勇者」
数十秒の逢瀬だったが、アナトの瞳は勇者の光が満ち溢れた。
・
・
・
巨大なライオン、獣王アスタルトがバアルの肩を叩く。
「まだ細い体だが、バアルは転生勇者として、十分力をつけた、六龍王さえ倒した。召喚勇者アナトと力を合わせろ、もちろん、グレン、アイネ、イルともな。五人の力を合わせて、世界の英雄として堂々と戦ってこい」
頷くバアルを見て安心した獣王は、ダゴンに向かった。
「もう、いくぞダゴン。こっちはモブ戦だ、数が多いがな」
「ああ、分かった獣王。じゃあ、アイネ子供の引率は任せたぜ! みんな頑張れよ!」
アスタルトとダゴンが走り出す、白銀軍を率いての戦いが始まる。
十万の再編された、魔王ラシャプ闇の軍団と二千の白銀軍。
アイネ達が戻るまで、苦しい持久戦になる。
「ダゴン、アスタルト、ここはお二人にお任せします。ご武運を」
アイネが二人の後ろ姿を、見送りながら呟くと、手を挙げてアイネに答えたダゴンとアスタルト。
アイネは振り返った。
「さあ、いくわよ! 若き勇者達!」
五人は廃墟と化したグリモア城へ走りだす。
・
・
・
グリモア城の深淵に隠された巨大な部屋。
かつてマスティマ女王、天の神子の子孫が収めていた、グリモア城の最奥にあるホールは高さが百メートル、奥行きは一キロメートルを越える巨大さだった。
神話の時代、ここでは魔道兵器の研究と、実験が行われたと語られていた。
その場所で、闇の王シャヘルが、神のOSラバーズシステムを呼び出した。
「システム起動……セキュリティを解除せよ」
少女の姿をした制御OSラバーズが、コンソールに立体ビジョンで現れた。
「遺伝子確認中……クリア。天の神子の意思を確認。ロックを解除しました。実行の為には更にセキュリティの解除が必要です。キーコードをお願いします」
「チッ、二重のロックシステムか。僕の天の神子の意思だけでは、こいつは動かないのか」
ラシャプが不満そうに呟く。
「最終セキュリティ解除コードの入力をお願いします」
ラバーズから再び、コードの問い合わせがきた。
「解除コードか……」
考え込むラシャプがハッと気が付く。
「そうか、もしかして!?」
解除コードを音声で入力した。
「μοιρα」
その言葉はエールの正門を開けた、アイネの呪文と同じ言葉だった。
ラシャプの発したパスワード――OSが確認に入る。
「確認中……コード確認終了。これよりヘルダイバα全システムの、管理者権限をラシャプへ移行します。自動戦闘システムのラバーズタイプFを起動。敵の識別コードを入力してください」
ラシャプが音声で答える。
「Stranger(みしらぬ人)」
ラシャプは自分の知らない者、ほぼ世界の人々全部を攻撃目標にした。
「了解。地上の全人類を攻撃目標とします」
闇の巨大な部屋で、巨人のマシン、ヘルダイバαが動き出す。
耳を塞ぎたくなる巨大なノイズが響く。
笑みを浮かべて、ヘルダイバαに騎乗したラシャプ。
十六メートルを超える古の巨大な機械で、過去のオーバーテクノロジーである、戦闘機ヘルダイバα。
闇の巨大な部屋を頭部から出る、赤外線の赤いサーチスコープ照らす。
・
・
・
ラシャプを追い、グリモア城の地下を進んで、大きな部屋に出たバアル達。
ヘルダイバの赤い光に照らされた、アナトが思わず声を漏らした。
「なに? これは? あの機械の巨人は……天の神の遺産?」
機械の巨人から、ラシャプの声がした。
「勇者ご一行様の到着か。ちょうど良かった。こちらの準備も出来たところだ……熱烈に歓迎しよう」
闇の王が騎乗するヘルダイバαの巨大さに、バアルが驚き呟いた。
「こんな巨大な機械が、遙か昔に使われていたなんて……」
キュルルル。 黒い機械ヘルダイバαからモーターの起動音が聞こえる。
神の時代の戦いに使われた機兵ヘルダイバαに、ラシャプが攻撃指示を伝える。
「ショルダー装甲オープン。光子レンズの焦点をワイドに。露出をライト。シャッターをハイスピードに設定」
ヘルダイバαの両肩の装甲が上部へ移動して、はめ込まれた巨大な8つのレンズが現れた。
「バレットを設定中。攻撃方針はどうしますか?」
ラシャプがラバーズに返答する。
「攻撃大。防御小。移動少で設定」
「了解。攻撃力LV5。範囲LV3設定。防御LV2。移動LV1に設定。システムコンフィグの書き込み完了。戦闘パラメータ書き換え完了。ラバーズ再起動。これより攻撃を開始します」
ヘルダイバαの肩の光子レンズが、光速で瞬いては暗くなるのを繰り返す。
バスバスバス。目標に焦点が合った瞬間に光の弾が打ち出され、吹き飛ぶ城の床と壁。粉塵で一瞬、視界が無くなった。
「集まってください!」
アイネのジャンプの魔法で攻撃レンジから離れた五人が戦闘陣形を組む。
前衛にはバアルとグレン。中衛にアナト。後衛にイルとアイネ。
「さあいくぞ! みんな!」
先頭に立つ勇者バアルが味方パーティに声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます