第139話 創成とダークナイト
恐怖を打ち消してゴラムの前にスッと進むグレン。
ゴラムは銀色に輝く衣を揺らして、骸骨の笑いを止めない。
「ハハハ、カスが相手か。まあ、いいか。来いよ」
ゴラムの承認に黙って、パーティから離れ始める重騎士グレン。
その真意を考えて、自らもグレンを追い始めたゴラム。
「できるだけ仲間たちと離れて戦いたいわけか。青い目の少女とドラゴンウォーリアの回復を待ちたいわけだ、それか本物の闇イザナミの回復かな。どちらにしても、おまえはすぐ死ぬ、願いは叶わない。まあ、三人が回復してもシルバーナイトの私の敵ではないがな」
数百メートル歩き、向きを変えゴラムに相対したグレン。
「ペチャクチャ煩いな。俺の知っているシルバーナイトもダークナイトも無駄口は叩かないぜ。さあ、来い」
「バカが死ぬだけだ」怒りを表したゴラム。
数百メートルを一気に光速で突き抜けてグレンへ向かった。
フワッと力感なく一撃目がグレンがを通り抜ける。
重騎士特有の強固な重装備の鎧だったが、生命狩りの鎌により簡単に切り裂かれる。
時間をおかずに返しの光の鎌の太刀筋。今度は背中を斬られるグレン。
「なるほど、打たれ強さはパーティで一番って事か……ハハハ。じゃあ我慢大会でいこう」
グレンが余裕を見せるゴラムへ切りつけるが、簡単にすり抜けてしまう。
「装甲はかなりのもだが、速度がまったく遅すぎる。では、あと何回、私の鎌に耐えられるかな。楽しみだ」
進化した魔道騎士は、闘いの楽しみ、相手を嬲る楽しみを持ち合わせていた。
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ゴラムの連続五回斬りに一度くらい、反撃するグレンだが、すでに五十回以上切り刻まれていた。
しかし、グレンの強固な意志が、重騎士というジョブと重なり、ゴラムの膝を屈しる事はない。嬲っている、遊んでいる気だったゴラムだったが、だんだんとイラつき始める。
「はぁあ」
溜息を銀色の髑髏が吐き、もう飽きたと呟いた。
「こちらに反応もできないカス。ただ硬いだけ……おまえが命乞いをするまで切り刻もうと思ったが、面倒になってきたよ。次は首を刈る……祈るものがあるなら少し時間をやろう」
ゴラムは輝く光の粒子で出来た、生命狩りの鎌を両手で持ち、わざとゆっくりとグレンに近づく。言われたグレンは祈っていた、たった一つの事を。
グレンの前に立ったゴラムは言った「死ね」
光速の鎌が打ち出された、そしてグレンの望みは叶う。
首筋に差し込まれた銀の鎌、それが食い込むより先にゴラムが声をあげる。
「……貴様。これを狙って。俺の攻撃を受け続けたのか」
ゴラムの胸には父アガレスの剣、ソールイーターが突き刺さっていた。
グレンが言葉を返す。
「カスだとゴミだと、圧倒的に力を抜いたおまえ。それでもかわしたり、先制をとるのは俺にはできない。だから切り刻みにきた攻撃タイミングを覚えた」
初めて敵の攻撃を受けた、しかもカスに怒りを見せるゴラムを、不敵な表情で捉え、言葉を続けるアイン。
「そしておまえが言ったように祈った、この一撃をおまえに打ち込むことを! さあ、俺の首が飛ぶのが先か、おまえのエネジィを俺の剣が吸い取るのが先か……真剣勝負でいこうか!」
ゴラムは煽られ、一瞬、グレンの首にかかった鎌に力を入れようとするが、自分の胸のソウルイーターが同様に差し込まれるのを感じて、後ろへと跳躍して距離をとった。
「おまえの様なバカは見たことがない。いや、侮っていた。詫びよう黒き騎士よ。もはやあなたの攻撃範囲に入ることはない」
グレンへ賛辞を贈ったゴラムは本気の臨戦態勢に入った。もはや油断はない。
「これで、望みは成すことはなした。アガレス、我が父よ。ダークナイトとして死んでもいいか?」
死を覚悟したグレンに不思議な、懐かしい声が天から聞こえた。
(我が息子よ。天へ掲げよ。真の力を得よ)
音もなく光速でゴラムが襲ってきた。
銀色の輝く光の鎌がグレンを切り裂く、その一瞬、ガキン、金属が当たるような音。
「バカな」
初めて感情を見せたゴラム。光の粒子で出来た鎌は、すべての物質を貫通する、弾かれるわけなどない。
ゴラムが打ち込んだ先、グレンの周りには天空から真っ黒な光が射していた。
「これは……」
ゴラムが呟く中、黒き光の中でグレンが本能のまま叫ぶ。
「来い! 十二次元を越えて、我が鎧よ!」
なぜ、そんな言葉を発したかグレンも分からなかったが、だがそれは来た。
何もない上部の空間が闇を発生させ、黒い羽根が大量に降り注ぐ。
黒き翼を携えた漆黒の鎧が現れた。
ガシン、ガシンと足、腕、胴体に見たこともない漆黒の鎧がグレンへ装着されていく。大鎧を着て胴丸はめ腹巻をし当世具足を締め付ける。
頭から足先まで、漆黒の異国の様相を見せるグレンの鎧。
「ふん!」グレンは剣を縦に横に振り、その威力とエナジィに、自分がダークナイトになった実感を現す。
「なるほど、おまえも光の獣を操る者」
目の前に現れた闇の象徴、光の獣、伝説のダークナイトにゴラムが呟いた。
この世界にシルバーナイトとダークナイトが現れ、最強の騎士同士の戦いが始まった。
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……グレンの黒き大剣、ソウルイーターが、不気味な叫び声をあげながら、まっすぐとゴラムへ降り下ろされた、グレンが叫ぶ!
「おら! 次いくぞ!」
黒き剣を銀の鎌で受けたゴラムに、グレンが呟く。
「俺はダークナイトになった。もうおまえの鎌は素通りできない。自称シルバーナイト。勝負はここからだ!」
二撃目を放つグレン、瞬間にゴラムの姿が歪む。
それは残像。グレンの剣が残像を通り抜ける。
間髪入れずにゴラムの銀の鎌が光の筋を放つ。
闇の鎧は強烈な一撃をかわして、前へと出る、白と黒の閃光が、お互いを通り抜けていくかのように見え、交錯する圧倒的な力、光と闇。
何十回と光と闇が斬り結ばれ、ゴラムが素早く大きく踏み込む。
「ここだ!」
ゴラムの声が響く、のけぞるように剣を振りかぶり、反動をつけてグレンめがけて叩きつける、銀の鎌が輝く。
打ちだされた光の円に向かって、ソウルイーターが不気味な音を立てる。
闇の剣がエナジィを放出して、グレンの周りにシールドを張る。
シールドで弾かれたゴラムが姿勢を崩した、真下から天井に届くような大きなモーションで、グレンが剣を打ち上げる。
素早く姿勢を正し、上段から銀の鎌を振り下ろすゴラム。
打ち合う互いの剣に弾ける光と闇。
二人の重ねた波動が巨大な波紋となって、上空の巨大なノーチラスさえ大きく揺らす。
「シルバーナイトとダークナイトの戦い……まさか、伝説は本当だったんだ」
圧倒的な力のぶつかり合いで起こった爆風の中、イルはつぶやいた。
神話に出てくる最強の剣士たちの名前を。
一見、互角の戦いのように見えた、だが徐々にその力の差が表れてきた。
ノーチラスより無限のエネルギーを受け取る、シルバーナイトと、初めて装着して急速にエネジィを鎧に吸収されるダークナイト。
圧倒的有利になったゴラムがシルバーナイトとして勝利を確信した。
「ハハハ、確かに凄いよ。あなたをカス呼ばわりして済まなかった。だが、勝負はこれまでだ」
ゴラムの勝利宣言に、不敵にニヤリと笑ったグレンが防御を完全に捨て、距離を取った。
ゴラムがグレンの異様な構えと、急上昇、湧き上がるエナジィに驚きを見せた。
「……なんだ、その構えは。大剣を刀のように鞘にしまって、腰に当てる……そして無くした筈のエナジィが高まっていく……まさか」
ウォォーン。魂を喰らう剣ソウルイータは固有スキル「呪縛」を発現させた。
この剣で殺された人々の呪いの叫びで、グレンを囲んだ全員の動きが止まる。
止まった空間でグレンは左手で、ソウルイータ持つと、腰に密着させ、そのままを居合いの構えを取る
オッッッッォオオン。壮大にソウルイータが吠えた。
今まで切られた者達の魂を圧縮していく。
漆黒の闘気が全てが吸い込まれて消えた瞬間。
超大型剣のソウルイータを右手で居合い抜く。
暗黒の闘気を一点に集中し、高速で技を打ち出す必殺奥義。
『ジェット・ブラック・タクティクス』
ついに父アガレスの奥義さえ越えた、居合の速度と大剣の重さに、漆黒のエナジィを乗せた技は、普通なら片手剣で行う居合い抜きを、両手剣で撃ちだす。奥義の凄まじい速さとパワーに直前の地面には亀裂が入り、黒い衝撃波が鋭い刃となって周りの空間を一瞬で切り裂く。
かわす時間はなかった。
圧倒的有利だったゴラムは、魂ごと切り裂かれて、消滅していく。
「そんなバカな……どこからこの力を」
消えながら呟くゴラムにグレンが答える。
「ダークナイトなって分かった。本物にはまだほど遠い。そうだな本来の0.3%の力しか発揮していない。ゴラムおまえも同じ。光の獣とはおこがましい。カスだな」
天空から黒い光が射して、グレンの装備が解除された。
果てしない空を見上げてグレンは呟いた。
「さっきの声は父さんか……心配かけました。俺はもっと強くなります」
グレンは歩いて仲間の元に帰り、バアルとアナトの心配をすると、イルが答えた。
「私もボロボロなんであまりうまく回復できないけど、アイネと力を合わせているわ。もう少し時間がかかる。でもまた戦えるようになる」
「そうか」と一言発したグレンも、その場に膝を屈して座り込む。
イルが慌てて、グレンの回復も始めた。
「グレン……よくもこんな窮地で……伝説のダークナイトに」
イルの言葉に少し恥ずしそうに答えたグレン。
「俺はお前たちに遠く及ばなかった。でも本物のダークナイトの息子で、本物の狂気の剣、ソールイーターがあった。あとは心を決めるだけで良かった。死ぬ覚悟、いや違うな仲間を守る覚悟かな」
イルは闇の力を恥じていた、コントロールできずに今まで白竜に守ってもらっていた事も含めて。だが、目の前のダークナイトは見せてくれた、闇とか光とかに捕らわれない、自己の強い意志、仲間の前で命を懸ける姿。
少し頬を赤くしてイルが、グレンの手をとって笑みをかわした。
「カッコよかったよ。グレン。とってもね」
二人の笑みが解ける前に、上空に停泊中ノーチラスがついに動き始めた。
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