第138話 崩壊とシルバーナイト

 女王スユンが座る玉座のある、白く高き塔のすぐ横に、ノーチラスが出現した。

 

 ゴーンゴーン、重低音を響かせながら旋回するノーチラス。

 ノーチラスは衛星からの攻撃と、最大までパワーを上げた城のシールドにより、城が、一旦、エネルギー不足になり、シールドも索敵も甘くなる、今を狙っていた。


 ノーチラスの主砲が再びエネルギー反応を示す。

 それを見たスユン女王は玉座に崩れ落ち、力無く呟いた。


「シールドを通り抜けてジャンプするなんて……こちらが相手を恐れすぎエネルギーを使いすぎた。だがノーチラス天の神子の遺産。勝つなど……やはり運命は変えられないか……マスティマ。我々は精一杯戦った」


 ノーチラスの主砲から伸びた光が、塔の女王の間を直撃し、白く高き塔は光の中で崩壊した。

 空から数千もの流星、制御を無くしたエンジェルナイトが地上に墜ち、光の筋を美しく残す。


 女王スユンと白く高き塔を無くし、エンジェルナイトは制御を失い、アークランド軍は沈黙した。


 先の六龍王のレベリオンの戦いで、エール国、マスティマ国、ヤム・ナハル国、ドライグ国の軍勢は大きな痛手を負い、ついで各国をノーチラスは破壊し、今、アークランドがノーチラスの攻撃により滅びようとしていた。もはやこのゴースには、大きな軍勢は存在しなくなった。


 驚異の神のオーパーツにより、ラグナロクは70%を越える死傷率を、世界中の人々に授けた。


 さらにノーチラスは無慈悲に地上の掃討を開始。

 生き残ったエンジェルナイトが個別で防戦するも、指揮官である女王スユンを失った今、アークランドの壊滅は時間の問題だった。


 燃えさかるアークランドを見て、夢を思い出しアイネは静かに目を閉じた。

 その時、アイネ達を発見したノーチラスが船首の向きを変えて、こちらに接近してきた。


 今、目の前で見せられた圧倒的な、天の神子の遺産、宇宙の戦船に恐れる心。

 勇者たちは戦闘を開始できる状態ではないと判断したアイネは、急ぎテレポートを行うとするが、それを察したよう、ノーチラスから光の帯が伸びてきて、パーティ全員を囲みこんだ。


「これは。この光の中ではテレポートが使えないです」

 アイネの言葉と同時に、ノーチラスから大量の魔道騎士が、地上への下降を開始した。


 地上に並ぶ、数百機の魔道騎士はレールガンを構えて、パーティに向かってきた。

 恐怖が新時代の勇者達をかなしばりにして、誰も動けない中でイルが前に出た。


「こんな所で終われない! スユン、フッラが犠牲になって守ってくれたんだから!」


 完全な敗北の予感と、迫る圧倒的な闇に、イルの中に眠る何者かが目覚める、その力は白竜イルルヤンカシュ、世界のあまりの被害の大きさに慈悲と知恵の龍は、イルにその力を与えた。その力はイルが持っているものとは違い、龍の力でもなかった、イルが生まれながら持ち、封印されたもの。


 白竜イルルヤンカシュはイルの本性を抑え込むために、封印の守り神になっていた、それほどのイルの力。


 前にアーシラトが認めた、パーティーで最も高い素質が、白竜の封印も突き破り、表面に現れた。それはあまりに深く大きな闇。


 イルが大きく呼吸をして、息吹を吸い込むと、全身に、高位の霊力が巡り初め、イルの服装が変わりはじめる。


 黄金の耳輪、頸珠、襷、衣、胸紐、 倭文布の帯、裳。古代の女神の姿。

 イルの本当の力は闇、圧倒的な闇を抱えた女王。

 最初に人を殺した闇の女王イザナミ。


 真の闇を抱えたイルが叫ぶ。


「偉大なる我が力よ。邪なる巨人を打ち砕け。いでよ黄泉比良坂(よもつひらさか)」


 イルの凛とした声で巨大な亜空間が広がり始め、ノーチラスのビームを消去し始めた。


「アイネ、テレポートの準備を!」

 イルの言葉に頷くアイネは、別の問題を呟く。


「トラクタービームは消えましたが、こあの魔道騎士達は待ってくれないです」

 大丈夫とイルが、魔道騎士達へ走り出す。


 近づくイザナミに、レールガンを一斉に打ち出す魔道騎士。

 周辺に大きな爆発が起こる。

 だがイザナミを囲う圧倒的な真の闇の力に、すべては無力化されてしまう。

 何発かイルに着弾するがイザナミの、闇の衣はすべての破壊を吸い取ってしまう。


 数百と連隊を組む魔道騎士たちの前に立ったイルが、闇の大魔法を唱えた。


『原子の核よ。漂う世界より遷せ。カグツチ』


 魔道騎士の軍勢の中心あたりに、小さな炎が発生して、次の瞬間、真っ白な炎柱が立ち、それを中心に光が地上に満ち溢れていく。


「あれは……あの光は」

 アナトの言葉にトランス状態になったイルが答える。

「これは……世界の初めの炎。多次元より召喚した。この反物質の炎は、反作用で超高熱を発生させる。焼き払えカグツチ!」


 イルの言葉のとおり、広がる続ける光カグツチは魔道騎士を消し去っていく。

 すべての魔道騎士が消滅した後、地上にはパーティだけになった。

 空中には何もなかったように停泊するノーチラス。


「これで……テレポートできる……アイネお願い。あの戦船とは戦えない。いや戦ってはダメ」


 身から黄金の耳輪、頸珠、襷、衣、胸紐、 倭文布の帯、裳が消えて、自身のエナジィも消え、その場に倒れこむイル。

 すかさず、グレンがイルを抱きかかえると、礼を述べた。


「ありがとう、ここまで衰弱するまで……そしてさすがだなイル。俺はお前たちに比べてあまりにも弱い。役に立てない」


 その時、消え去ったはずの魔道騎士が、一人だけ立ち上がった。


 その姿は身体は銀の骸骨で、聖なる光の衣、その胸には血の十字が描かれ、両手で持つのは光の粒子で構成された、生命狩りの鎌。もはや一般の魔道騎士の姿とはまったく違う、圧倒的な力を他の者に見せつけていた。


 その正体はフッラと戦ったリーダー機だった。

 新たなフォームを得たリーダー機は自分を語り始めた。


「その娘はいいタレントを持っているな。でもな、私も光の獣、フッラのシルバーナイトと戦い、生き残った……それは偶然だが、必然となった、なぜなら戦闘結果を元に改造された、私はその娘の最初の炎とやらも耐えられた。世界は作り出したのだ、新しい光の獣であるシルバーナイトを……私の名前はそう……ゴラム」



 伝説の光の獣の一つ、シルバーナイトと自らを定義し、番号でなく固有の名前さえ名乗った、魔道騎士のリーダー機だったものが、特別な力を得た銀色の躯ゴラムが笑う。


「さて、さっそくのこの力……シルバーナイトを使わせてもらおうとしよう。まずは……そうだな、おまえが強そうだ、来いよ」

 ゴラムは銀色に光る人差し指で、バアルを指名した。


「みんな下がってろ。こいつはバケモンだ!」

 バアルの注意の言葉に、パーティが下がった瞬間。

 クク、笑いながらゴラムが襲ってきた。


 瞬時にドラゴンウォーリアへ変身して、新しい剣、六龍王が持っていたインフェルノソードを構えるバアル。


 剣同士がぶつかり合う音。

 剣で受けたのを確認したバアルだが、転写で後ろに下がった、その横をゴラムの鎌がスーッと通り抜ける。


「こいつの鎌は魔法だけで出来ている、物理で合わせる事はできない。今はインフェルノソードの魔力の炎とかち合ったが……」


 打剣の正体を明かすバアルの言葉に、他のパーティメンバーが驚く。

「魔法だけで出来た武器だと! どうするんだバアル!?」


 思わず叫んだグレン。完全に物理攻撃に特化されたドラゴンウォーリアには相性が悪すぎる相手。しかもまだバアルはインフェルノソードを使いこなせていない。


 相手のやり取りを見ていた、ゴラムは大笑いを始める。


「ハハハ、相性などどうでもいい事だ。さっきの一撃は一応、強者の公平さを見せただけだ……これが本物の私だと」


 ゴラムの姿が消え、本能的な反射で攻撃を予想したバアル、だが、防御の為にクロスした腕をすり抜けて、胸に深い血の十字が刻まれた。


「……見えなかった。それに龍の外層を簡単に切り裂くなんて」


 その場に倒れたバアル、瀕死とわかるその姿に駆け寄ろうとするイル、しかし、ふわっと一瞬で、パーティの前に出て、イルに鎌を当てるゴラム。


「お嬢ちゃんはさっき力を見せてもらった、無駄な回復に力など使わず、まだ充電していろ。あとは……右手を無くした女はボロボロだし、青い目の女、おまえが次かな」


 アナトはゴラムのイルに向けられた、鎌を右手で払って前に進む。

「言われなくても、早くバアルを助けないといけないんだよ。さあ、いくよ!」


 アナトは言うより早く、一気に加速してゴラムの頭上から、真一文字に、巨大な剣、スバルを振り下ろした。


 真っ二つに切り裂かれたゴラム。しかしアナトは勇者の勘で、当たりが甘いと感じ追撃に入るが、麗しの銀髪が宙に舞った。


 アナトは横一文字に、斬られて一撃でその場に倒れる。


「ほう、先ほどのドラゴンウォーリアも、おまえも致命傷は回避しているな。これはシルバーナイトの私にも、まだ調整の余地があるという事か。それと、うまくいけば、また生きのいい勇者と戦えるか。回復してやれ女ども」


 まさに圧倒的な力、シルバーナイトの強さ。

 勇者二人が一瞬で倒されて、まるで夢の中のように体がうまく動かない残り三人。はっと気が付き二人の勇者を回復を開始するイルとアイネ。


「次は誰かな……カスと怪我人と電池切れの三人か、では今度は……」

 次の相手を言いかけた、ゴラムの前に前に出たグレン。

 その手はあまりに強大な敵に、自然に手が震えていた。

「俺が戦う!」

 グレンの震えながらの、宣戦に大笑いするゴラム。


「カスのお前ごときが何をできる気でいる。このパーティで一人だけ、桁が違う弱さのおまえが」

 笑うゴラムを見据えて進むグレン、手の震えは止まっていた。


「そうだ。俺は凡庸。皆にのような特別な力は持っていない。でもな確かなものがある。この世界のダークナイトだった父アガレスと、このダークナイトの剣、ソウルイーターを持っている事だ!」

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