第136話 フォームチェンジ

 ゴーンゴーン。空を飛ぶ船ノーチラスから重い金属製の音が響く。

 ナチュラルを使うイルは思わず耳を塞ぐ。


 その時に空中から声が聞こえた。


「みなさん、ご無事ですか?」

 エンジェルナイトのフッラだった。


 六龍王の軍勢との戦いで情報操作を一手に引き受けた、その高いデータ通信で解析能力で五人を探していた。


 遠い過去に天の神子の軍隊の指揮官の一人として、この星と戦い、戦争の傷跡を贖罪する為に、地上に降り立った、エンジェルナイトのフッラ。

 魂をデジタル化して、サーバーへ格納して、有機的に別途作られた身体に魂をコピーして、永遠に生きる天の神子。


 フッラはその仕組みをいずれ起こる戦いに向けて、自分のコピーを作成に利用した。

 コピーは何万回にも及び、感情はとうに消えて、機械的な感情のない話し方になってしまった。

 

 今、アークランドが最終戦闘に入っていても、それは変わらなかった。


「みなさん! こちらへ!」

 フッラの後を追い、走りながらバアルが聞いた。

「フッラ、あれはなんだ?」

 フッラはバアルの問いには答えなかった。

「さあ早く、こちらから外へ脱出します」

「脱出? 戦わなくていいいのか?」


 バアルの言葉にフッラが答えた。

「あれは……私たちが墜とします。それがマスティマの願いなのです。我が女王スユンとの約束でもあります……みなさんはこの後の戦いに備えてください」


 皆は状況に納得できていないが、アイネが頷いた。

「アークランドが破壊された後に、マスティマの居城であったグリモア城に向えと」


 グレンがアイネの話を聞き疑問を聞く。

「アークランドを破壊する者が現れた。それが光の神の戦船ノーチラス……なぜ、光の船がここを攻撃するんだ? 確か天の神子の子孫が神人で、それを守るのがこの国アークランドではなかったか? いくら闇の王の策略だったとして……な、もしかして闇の王ラシャプは、天の神子の血を引いているのか?」


 グレンの疑問には答えずに、フッラが全員を急がせた。

「急いでください。こっちです!」

 地下通路のハッチを開けたフッラ、勇者パーティーが入り脱出を図った。



 一人残ったフッラが、何もない空間に話しかける。

「フッラからメインフレームへ。光の獣を起動せよ。転送準備……転送開始」


 空中に現れた十二の光球が降りてきて、フッラの周りを静かに回り始め、少しずつ回転を速め、輝きを増しながら、フッラの胸の辺りまで降下していく。


 フッラが光球に向かって手のひらをかざすと、十二の光球が力の循環を描き始める。やがて光球は一つの透き通った魔法陣になった。


 フッラを中心に輝き、回転を続ける魔法陣。力の循環は続き、フッラの身体に光を纏わせていく。徐々に変化するフッラの姿。同時にスキルと知識も変更されていく。


「ウェポンはマサムネブレードを選択」


 フッラの言葉で、光の刀、マサムネブレードが出現した。

 フッラの胸に十二の翼を持つ光の天使の姿が浮かぶ、天の神の艦隊の戦旗の十二翼の光の獣の姿だ。艦隊で最高の戦闘力を持つ”戦う神”へと、フォームチェンジが完了し、光の獣シルバーナイトになったフッラが命じる。


「テレポート開始!」

 強い光がフッラの体を包み、光の瞬きが身体を戦場へ飛ばした。



 地上を蹂躙した魔道騎士は勝利を確信していた。

 魔道騎士は自己管理機能を持っている為に、人間の感情に近いものを持ち、部隊の編制、攻撃、そしてそれらを統括するリーダー機も存在した。


 リーダー機が呟く。

「所詮、天の神子の粗悪なコピー品。我々に敵うわけない。しかし、下賤の者の血でボディが汚れるのは我慢できないな」


 リーダー機に無表情な笑みがこぼれたところで、システムから報告が入る。


「リーダー、レッドチームが攻撃を受けています」

「なに?」

 驚くリーダー機に報告が続く。

「レッドチーム全滅しました。ブルー、イエロー、グリーンも戦闘を開始」


(ばかな、なにが起こっている?) 

 現状を把握しようと焦るリーダー機。


「全方位をスキャンしろ! 敵の特定を急げ!」

「イエロー全滅。グリーンからヘルプ要請あり。全方位スキャン開始」


 信じられない戦況報告にリーダー機が叫んだ。

「馬鹿な! 我々は数百機、惑星一個を楽々制圧できる戦力なんだぞ!」

「報告。機能停止およびロスト機体、二百九十八。稼働百九機」


「グリーン壊滅。ブルーとの通信が途絶えました」

 次々と報告は入るものの、リーダーには状況が信じられなかった。

 システムからやっと理解できる情報が入った。


「報告。スキャン回復しました」

「どこだ! 敵はどこにいる?」

「敵数1。戦闘力分析、パワーS、速度S、現在位置、前方距離20m」

「なに!」

 魔道騎士は自分の観測機能を全開にして、敵を探した。


 熱と煙で視界が狭まる画面の中、多くの魔道騎士がレールガンで、敵を攻撃している。しかし、その弾道は、敵の残像を捉えているだけで、本体をかすめる事もできていない。


 数機から発射された追尾ミサイルも、あまりにも速い動きに、無駄な爆発を繰り返している。


 煙の中にキラっと光が走ることがある。マサムネブレードを使って超高速での移動、転進、攻撃を行うシルバーナイトのフッラが残した光の残像だった。


「この姿は……光の獣シルバーナイト……ばかななぜここにいる!?」


 肉眼はおろか、如何なるスキャンでも、フッラを捉えることはできなかった。

 そして驚異的な速度で振り下ろされる、マサムネブレードが、いかなる物体をも簡単に切断していく。


 光速で移動しながら、フッラは魔動騎士たちに忠告、いや宣告を行った。


「再び、この世界に害を与えるなど、私が許さない。さあ、自らの身体とエネジィで償え」


 腕、頭、胴、足。魔動騎士が斬り弾かれ、空中に散乱する。

 オイルと鮮血で床は真っ黒に染まった。返り血さえ浴びることのないフッラは、光を纏い、美しく輝いている。


 恐怖に襲われたリーダーは動けなかった。初めての感情だった。魔道兵器である自分が恐怖を覚える!? そして自身の死を確信した、目の前に映った数字に。


「戦力分析報告。味方機残り1。勝利確率ゼロパーセント」



 アークランドオペレーターが報告する。

「市街地に降りた魔道騎士は全滅しました」


 スユンは安堵とフッラの心配を口にする。


「フッラが光の獣を使ったのか。しかし、自身をコピーさせ続けた為に、天の神子の力など殆ど残っていなかっただろう……フッラ自身の消滅まで考えられる」


 その時、女王の目の前のスクリーンに城に突進してくる、ノーチラスが見えた。


「アークランド城壁の防御シールドをおろせ」

 女王スユンの言葉がブロードバンドにより、エンジェルナイト達へ伝達された。

 アークランドの城壁に光の壁が出現し、ノーチラスがそこに突っ込んだ。

 ノーチラスの船首とシールドが重なり、光の衝撃が散る。


 シールドを破ろうとする、アークランド軍による、神の船への攻撃が開始された。


 地上から伸びる光の筋が、数十、数百、数千と増えていく。

 この国の戦士である、多数のエンジェルナイトは高く舞い上がり、ノーチラスを眼下にしていた。


「エンジェルナイトに告げる。ノーチラスの迎撃を開始せよ……フッラが消滅を覚悟してチャンスを作ってくれた、ここは勝ちにいく!」

 女王スユンの命令で、ノーチラスへ向かって一斉にダイブする、数千のエンジェルナイト達。

 ノーチラスを数千の光が貫き、強烈な輝きとなって、空を明るくした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る