第135話 神の来襲

 女王スユンとの謁見を終えたパーティは、城下の宿屋に移された。

 戦いの為には城に留まった方がいいのでは、とパーティ全員が進言したが、女王は、この城が一番危険だと言い、街はずれへと移動を勧めた。


 アークランドの宿屋のダイニングで休息を取りながら、待機中の中、暇そうに欠伸をしながらアナト呟く。

「最近アイネがしっかりしたせいで、いまいち物語が面白くないって評判ね」

 窓際に座って外を見ていたアイネが答えた。

「誰の何の評判ですか!?」

 言葉を投げたアナトは、中央のソファーに座っている。


「そっちこそ、最近イライラしていませんか? とくに、ここに来てからは」

 向かいに座っているバアルがアナトをチラリと見た。

「アナトは感じているのさ、勇者の勘ってやつで。強大な敵の存在を」

 大きな窓から外を見ているバアル。

「たしかに俺も感じているよ。胸がざらつくような感じ」


 暖炉の側で剣の手入れをしているグレンは苦笑した。


「ダークナイトに成り立ての俺ならばいざ知らず、お前達が恐れる相手とは、いったい何なんだ?」

 暗黒騎士グレンの疑問を打ち消した大きな音。


 アークランドの街にサイレンが響き渡り、同時にブロードバンド通信で五人の頭に直接、警告が伝えられた。


「警告シマス。我ガ国ヘ接近スル者有リ。現在敵影ヲ照会中デス……高速接近中」


 アークランドの城壁付近が明るい。この国の魔法技術カガク、サーチライトにより闇の空が昼間のように照らされている。

 宿屋の外に出た五人は明るくなった空を見上げていた。


「神はどこから来るの?」

 アナトが珍しく不安げに聞くと、イルが目を閉じた。

 巫女であるイルは交霊(ナチュラル)により、現代のレーダーにも勝る索敵能力を持つ。だだし、ナチュラルを使うにはイルの心が安定している必要があり、闇の国のように強い負の力が働く場所でも使用出来ない。


 目を開きイルは南西の方向を指差す。

「あそこから、巨大なものが向ってくる」

 アークランドの警報が市民全員へ向けて鳴り続く。


「全市民ハ避難。シェルターノロックヲ解除シマス。エンジェルナイトハ戦闘準備。白ク高キ塔ヲ守レ」

 サーチライトに照らされ、遠くに船の影が映った。


「馬鹿な。空を飛ぶ船だと!?」

 グレンが呟き、そして現れたそれがすぐ上にまで来た時、全員が驚嘆した。

 数百メートルを越える空を飛ぶ金属製の戦さ船。その船体には文字が刻まれていた。


 “SSN-571 Nautilus”


 太古の戦いでフッラが乗っていた戦船ノーチラス。


 ノーチラスは甲板の側面に対面で並ぶ200個のポートが空き、強力なレーザを地上へ向かって打ち出す、一瞬でアークランドの街は燃え上がり、続いて船の底が開き機械の戦士たちが降下を開始した。


 その数は約百機、その姿は人間の形をしていたが大きさは20メートルもあり、腕にはリニアレールガンを持ち、自己管理システムを持つ、魔道騎士だった。

 地上に降りた魔道騎士は、手にしたレールガンをところかまわず打ち込む、光の速度に加速された数グラム金属は、地上で大爆発を起こした。


 逃げ惑う人々を空中のノーチラスのレーザーが襲い、微かな生き残りも許さないと、地上で生き残りを探す魔道騎士たち。


 魔道騎士を止めるために純白の羽根を携えるエンジェルナイトが、主要武器である雷の槍を持ち、立ち向かうが、圧倒的な魔道騎士の攻撃と、ノーチラスの援護射撃に、次々と破壊されていく。


 地上に出された数百のエンジェルナイトは、すでには壊滅状態だ。

 手、足、頭、体、指。バラバラになった天使が空中を舞う。

 数十分、短い時間でこの国は壊滅しようとしていた。



 城のモニターで戦況を見つめる、女王スユンは、あまりの戦火に恐怖を覚えていた。人工的にフッラから作られ、役目ごとに機能を変えられたエンジェル達。


 彼女らは戦う為に、戦闘力をフッラからコピーしただけで、感情は薄い。

 しかしスユンは人間に近い感情を持っている、だが恐怖の感情は初めてだった。


「く、もうアレを使うしかないか……しかし、魔道騎士たちは市街地に降りてしまっている……やはりラシャプは、私にアレを使わせない為に、局地戦に持ち込んだか、このまま、国が焼かれるのを見ているしかないのか。なんとか市街地の魔道騎士達を排除できないか」


 その時、オペレータから報告があった。

「光の獣に反応があります……これは、緊急転送要求です!」

 光の獣、それは天の神子の遺産の一つ、アークランドの城の奥に置かれたもの。 


 しかしそれは動かないはずだった。なぜなら、天の神子でなければ使えないものだったから。マスティマがアイネと同化している今は使うのは無理、あと光の獣を動かせる者は……。

 はっと、気が付いた女王スユンはオペレーターに指示を出す。


「光の獣のセーフティロックを解除。転送準備をせよ」


 光の獣は神である天の神子でも扱いきれない、神のオーパーツであり、その素性は魔法だったり、剣だったり、エナジィそのものだったりと多種多様である。

 唯一の共通点は、極めて高い才能と、それを操るための相性である。


 天の神子でも、この条件を満たすものは少なく、他の種族ならばほぼ存在しないと言ってもいいだろう。


 アークランド、いや、世界が滅亡に瀕した今、選ばれた数少ない者が、光の獣を使おうとしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る