最終章ラグナロク
第132話 アイネの夢
ここより十二次元上の、神の領域の宇宙で白き艦隊の旗艦グリモアの、中央コントロールで腕組みする者がいた。
長い時間暗き宇宙では、竜の一族と天の神子の艦隊の戦いが続いていた。
「現在時刻、22時00分。竜の一族の艦隊ドライグとの開戦から4820時間が経過」
メインモニタを見ながら、天の神子第六翼の司令官マスティマが呟く。
「強いな……六頭龍」
天の神子が決定したインフィニット計画。
全ての生物の魂をデジタル化しエナジィに変換、サーバーシステムに保存する。生物は永遠にストレイジの中で生き続ける。エナジィ化が済んだ生物には、光の艦隊による抹殺が待っていた。
天の神子の軍隊は十二翼、12の部隊に分かれていた。
その一翼は数億の兵士と、数千万の艦艇から成り立ち、圧倒的な力で宇宙を席巻していた。
「肉体的物理的な生き物は永遠でない」
外界の全てが汚れたものだと、天の神子は思っていた。
汚れたものであり、自分たちに抗い続ける六頭竜の一族は手強かった。
戦闘用OSであるラバーズが報告する。
「敵、生存率48% 我が軍77%」
「やっと半分を切ったか。今まで戦った相手の中では、間違いなく最強の相手だな」
光の艦隊の第八翼の総司令官マスティマが呟く。
「我が軍の被害も大きい。何か良い作戦は……もはや主砲を使うしかないのか」
マスティマの乗る旗艦グリモアの主砲は、銀河さえ破壊出来る程の強い光を用していた。だが、マスティマは天の神子の方針には疑問を持っていた。
「すべての種族の絶滅など本当に正しいのか……黄金の獅子のように破壊できない者もいる。それに私たちだけが正しい優先するなど、それこそ独善ではないか……この戦いも被害はお互いに最小にしたいものだ。そういえば金狼はどうしている?」
オペレーターの一人が、マスティマに答えた。
「現在、金庫の中でのエネルギー反応は安定しています……クエーサーレベルのエナジィですが」
金狼は突然生まれた、そして唯一の黄金のエネジィを持ち、一人で二つの銀河で2万の国と戦い、殲滅してきた。天の神子の司令官であるマスティマが戦い、なんとか封印したが、それは丁度、金狼の睡眠期にあたった事、数億年もの戦いに飽きていたためで、マスティマでさせ、金狼に傷をつける事も出来なかった。
金狼は一つの条件を出して、おとなしくマスティマの支配下にはいった。
本人曰く「俺が危険だと思うなら封印してくれ。その代わりにお前たちの魂のデジタル化で、もう一人の俺を作り出して、世界を見せてくれと。
願いは叶えられ、金狼は獣王アスタルトとして別の人生を送り始めた。
「まあ、金狼は自分の保管先が欲しかったんだろう、しばらくはアスタルトで遊ぶ気満々だ、問題は起こさないだろう。一応、私が封印しているし……今は六頭龍との戦いが問題だ。やはり両軍の被害を抑える作戦が必要だ」
マスティマの呟きに答えがあった、パーソナル高速通信が入る。
「あるよ、いい方法が!」
戦艦ノーチラスの艦長フッラからであった。
「フッラ! どこに行っているのだ! おまえは貴重なエナジィなんだぞ! 危険な事はするな!」
マスティマは目の前に映る、小さな妖精の通信映像に向けて怒鳴った。
フッラは悪戯好きの妖精のインプのような顔で答えた。
「あらら……いつも冷静沈着な天の神子ともあろう者が、感情むき出しとはねぇ? これまた意外だね」
悪戯っぽく笑うフッラに、マスティマは感情を露わにしたままだった。確かに、神であるものとしては平静さを欠いている。
「笑い事ではないぞ、フッラ! ……ふぅ、少し冷静にならねば」
旗艦グリモアの搭乗員もこちらを見ている。冷静になって話すマスティマ。
「我々光の艦隊には、戦う以外の感情は持たされていない。戦いに於いて感情は無駄だ。だが、なぜかおまえの……なんというか……その悪戯のような行動を見ていると、心が乱される。そして、おまえの身を案じてしまう」
首をかしげたフッラ。
「それはマスティマ、人には普通の事だよ」
フッラの言葉にマスティマは首を振る。
「人には普通の事か……。人の中で暮らす、フッラにはわかるまい。汚れた人を捨てるために心まで捨てて、進化してきた我々のことは。私は艦隊の総司令官であり、全てに最高の判断を求められる」
フッラがその後を続けた。
「その為に人の勘とか、その場の空気まで読む必要がある。だからマスティマには、感情……心をエナジィに入れてあるんでしょう?」
「確かに私はこの艦隊で唯一感情を持っている。しかし、おまえの言うところの、正確な判断の為の一つのパラメータに過ぎない。だから心が乱される事など無いし、あってはいけないのだ」
力の入り過ぎたマスティマの言葉に、フッラが笑った。
「別に感情に流されたっていいんじゃないの? 人生って、ドキドキしなかったら面白くないわよ」
「ふぅ、ドキドキだと?」
ため息をつき真顔になるマスティマ。
「私はおまえが心配なのだ。我々とは別の進化を遂げた貴重な古代神。おまえには、いつも側にいて欲しい」
フッラの均整がとれた麗しい顔が、少し赤くなった。
「ばか。照れるからそういうのやめなさいよ、マスティマ。こっちの艦のパイロットも聞いているんだから。あ、もし私が生まれかわったら、マスティマの言う通りに感情は消して、あなたに仕えるね。ということで今は私の意思で行動するよ」
コホンと咳払いをしたフッラ。
「とりあえず……ノーチラスで突っ込むから、あとはよろしく!」
高速通信が切れた。
「ばかはどっちだ」
マスティマが叫んだ。
「全艦戦闘態勢へ移行! ノーチラスを追跡しろ! 絶対に振り切られるな!」
天の神子マスティマに興奮が伝わる。今まで味わった事の無い感情だった。
「先行するノーチラスから暗号無線。翻訳します。我を撃て! 以上」
戦闘用OSであるラバーズの報告を聞いて、マスティマは考え込む。
「我を打てか……ノーチラスか……なるほどな。ターミナルをオンラインモードへ移行」
マスティマの命令で十二のターミナルから光のラインが延び、マスティマの身体に接続された。
戦闘中に総司令官であるマスティマは十二の光ケーブルと繋がれ、瞬時に十二のターミナルからの要求を判断していく。
同時に言語、つまり会話での質問と判断も行う。
言葉は原始的なインターフェースだが、今でも非常に効率が高い意思疎通手段である。
宇宙に浮かびあがる星。暗黒ガスに被われており星の表面は見えない。
星の周りには六頭竜をシンボルにする艦隊が、数百万を超えて集結している。
光の艦隊が接近したことで、六頭竜の艦隊からの攻撃が始まった。
敵の光弾が命中した衝撃で天の神子のシールド艦は揺れている。
「被害をターミナル3に出せ。グリモアの状態をターミナル4で随時報告せよ」
マスティマが複数端末で、状況確認をマルチタスクで行う。
「了解しました。以後報告をターミナルに切り替えます」
戦闘用のOSであるラバーズが応答する。
「メインスクリーンを拡大。敵艦隊を全体アングルで表示しろ」
メインスクリーンに、六頭竜の艦隊の攻撃を受ける、光の艦隊の前線が映る。
戦況を見ていたマスティマがタイミングを図って叫ぶ。
「全艦停止。密集隊形に移行後、攻撃を開始せよ! グリモア、リフトアップ!」
光の艦隊の旗艦グリモアが停止し、機体を縦に起こし始めた。同時に光の艦隊の戦艦が、黒き艦隊へ攻撃を開始する。輝く光の束が弾けるように、前方の黒い空間に打ち出されていく。
マスティマは一瞬目を閉じた。
「この攻撃で、まだエナジィの解析が済んでいない星を消してしまうかもしれない。それはこの星に住む者の完全なる消滅を意味する。それは避けなければならない。頼むぞフッラ!」
目を開けたマスティマから、攻撃指示が艦内に飛ぶ。
「武器は、主砲を選択、パワー充填開始。出力を最低に限定。照準はオートでトリガーをマスティマに」
武器コントロールのラバーズが復唱する。
「了解しました。照準オートで、出力を最低へセット。トリガーを移行します」
グリモアのメインコンソールに、六頭竜の艦隊と暗黒ガスに被われた星が表示された。
「全エネルギーをジェネレーターに送信開始。主砲ラグナロクの封印を解除します」
ラバーズからの報告と同時に、マスティマの前に光のトリガーが現れた。パワーの循環を表す光の魔法陣がマスティマの手に宿る。
「ラグナロク最終段階へ。セキュリティロック解除します」
「頼むぞフッラ」最終報告が船内に響く中、一瞬、天を仰いだマスティマ。フッラを追い暗黒ガスの中へ照準を合わせると、力を込めて光のトリガーを弾いた。巨大な閃光が宇宙の全てを白く染めた。
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