第126話 絶対的その名は大魔王

 大魔王が放った、たった三発の魔法で、数万人が直接的な被害を受け、白銀騎士団と闇龍騎士団の戦いはストップしていた。

 また、これが一番すごいところだが、大魔王ツクヨミの魔法で怪我人は沢山出たが、死者は全く出ていなかった。


 最後の一発を直接食らった勇者バアルは、完全に焼き焦げていた。

 大魔王の側にいて、奇跡的に助かった兵士は、命令でバアルを懸命に引っ張っていた。


「はぁはぁ、大魔王様。ご命令通りに勇者バアルの、焼き鳥をお持ちしました、どうぞお召し上がりください」


 恐れを抱く兵士がおずおずと、大魔王へ申し上げる。

「いやねーー。食べたりしなわよ。あんたは大魔王の事を勘違いしていない?」


 大災害レベル惨状を見渡した兵士は、大魔王の言葉を信じられなかった。

「いえ、滅相もありません、勘違いなどしておりません。世界に災害レベルの破壊をもたらす……そして人間を頭から、むしゃむしゃ食べる……それが大魔王様」


 背中の小悪魔のかわいい羽をパタパタさせて、キュートな笑顔。

 だが可愛い姿の奥に潜む、巨大な魔力にますます怯える兵士。


「大魔王様。どうか命だけはお助けください。私には家族がいます。帰りを待っています」

 それまでにこやかだった大魔王が表情厳しくする。

「命を助けろ? おまえは戦に来ているのだろう? 遠足とは違う、家族が恋しければ戦場には出ないことだ」 


 兵士はその場に正座して答える。


「はい。もう家に帰ります。戦争など無意味だと、あなたを、絶対的な力を見てわかりました」


 大魔王は兵士の言葉を聞いて、ふぅん、と鼻を鳴らしたツクヨミは、上空に留まるフッラに、思念を送った。

 上空のフッラは大魔王の参戦にも表情を変えず、ツクヨミの願いを承諾した。

「ツクヨミわかりました、あなたの言葉を伝えます」

 フッラは戦場全体に届くテレパシーを兵士全員送った。


「我は大魔王。絶対的な者である。この戦いは預かる。戦いを続けるなら、まずは我が相手になろう」


 大魔王が右手を上げると雲がどんどん湧き出て、一メートルもある巨大な氷の塊が降り始めた。

 兵士たちは空から降る、大魔王の力を見せられ、戦うことを諦め戦場からの避難を開始した。戦いは自分が死ぬ覚悟だけでは行えない、

 自軍の、自分の勝利を想っているからできるもので、災害レベルの絶対的な力の前には、戦う意志さえ飛んでしまう。


 静かになった戦場の真ん中に、白銀騎士団の団長アイネが歩いてくる。

 右腕を損傷する大けがで、六龍王との戦いでは、サポート役をしていたが、巨大な魔力とテレパーシーを受け、大魔王の側に近づいてきた。


「さすがというか、すさまじいですね。大魔王」

 アイネの言葉に答える大魔王。

「どうしたの? まだ本当の戦い、六頭龍と勇者達の戦いは続いているのでしょう?」

 アイネは大魔王の前に立ち願い事を話した。


「お願いがあります。勇者アナトを回復させて頂きたいのです。このままでは六龍王を倒す事は難しいと思います」

 大魔王はアイネの頼みに考え事を始めた。

「それなら、今やっている茶番、有象無象の軍隊の戦いはやめる事ね」

 アイネは無くした右腕の痛みに耐えながら、白銀軍団の通信を管理するフッラを呼び出した。


「フッラ、戦争は終わった。撤退命令を出してください」

「了解しました、アイネ」

 アイネの言葉がエンジェルナイトの技術、ブロードバンドで全軍に伝えられた。

「白銀軍団の全員へ。戦闘終了。繰り返す戦いは終わった。撤退を開始せよ」


 絶対的な力である大魔王の出現により、あっけなく軍勢同士の戦いは終わりを迎えた。

 全軍への戦争終結を伝えたアイネに大魔王が口を開いた。


「さて、アイネの願いだけど……私の力でも失ったアナトの魂を呼び戻すのは無理ね」

 肩を落とすアイネに、ウィンクするサキュバスの悪戯っぽい表情。

「でもね、戦争が起こる前に私が落書きしておいたの。蒼い瞳の勇者のエナジィを引き込む魔法陣をね!」


 アイネの表情が明るくなったのを見て、大魔王が黒焦げの焼き鳥に言った、

「まったくボスキャラの六龍王と戦わず、モブキャラと戦っているとかないわ……バアル。起きないと……メテオだから」

 大魔王のいつもの脅し文句言った瞬間、反射的に起き上がった転生勇者。


「はい! 只今起きました! ……あのな大魔王、おまえが初級だと言い張っている魔法はカタルシス。世界崩壊の魔法だから止めてくれ……それと、おまえの言うことは正しい、俺は六龍王の所へ行くから……アイネの怪我を直してくれ」


 頷いた大魔王は、六龍王の元の向かうバアルに、その前にと呼び止める。

「今私が立っているこの場所に、勇者のありたっけのエナジィを頂戴。アナトを救うための魔方陣は書いたけど、私の魔力とは、勇者の力は相反するものだから、あんたに手伝ってもらいたいの」

 大魔王の話に、バアルは少し考えてから答えた。

「つまりは、俺の勇者のエナジィをぶつける、必殺技を打て、そういう事かな。じゃあ、その場から離れてよ。危ないからさ」


 バアルは大魔王に注意を促してから、ドラゴンウォーリアへと変身していく。

「私は避雷針になってバアルのエナジィを正確に、魔方陣に伝える役割があるの。このまま私を狙いなさい」

 大魔王の言葉に、一瞬躊躇するバアルだったが、相手は世界最強、すぐに剣を構えて言い放った。

「あんたの事だから、たとえ最終形態のドラゴンウォーリアの技でも、大丈夫なのだろう……じゃあ、いくぜ! 絶対にアナトを取り戻してくれよ!」


 空中に飛びあがったバアルは、アイネがテレポートで距離をとったのを見て必殺技を繰り出す。

『ドラゴブレイク』

 破壊力ではなく、エナジィの伝達をメインにしたバアルの技は、大魔王に命中してまわりの空間を巨大なエナジィが焼き、イオン化した匂いが周りに広がる。


「これでいいわ。アナトは転生勇者バアルの力で命が起動される」

 大魔王は成長したバアルの力に納得して、アナトの復帰を口にした。

 同時に大魔王が立つ小さな魔方陣が青く光り、空中に光の玉を放出した。

 光の玉がエールの診療所へ向かって飛び立つと、一安心と大魔王が語った。

「アーシラトの書いた魔方陣は、死者のエナジィを集める力がある、アナトが失ったエネジィもこれだけ大規模なら、ここに寄せられると思ったの。そこで集まったエナジィからアナトものだけを、吸い出す魔方陣をここに書いた、起動にはかなり高い勇者の力が必要だったけど、ちゃんとバアルは成長したみたいね」


 光の玉が飛びさる見てから大魔王は、アイネに近づき、喪失した右手の再生の魔法を唱えた。

「よく頑張ったアイネ。後は他に任せて、休養しなさい」

 大魔王の言葉にツクヨミの手をとって、アイネは自分の気持ちを伝えた。

「ツクヨミ、私は最後まで見届ける必要があります。これから六龍王の戦いの場所へテレポートします。いいですよね」


 六龍王へと、空中へ飛びあがったバアルに、さりげなく回復魔法をかけた大魔王。


「アイネ。見届けるのはあなたの義務かもしれない。でもこれ以上戦うことはないわ。残りは頼りないと思うけど、男どもに任せましょう。私たちは戦いの行方を見守りましょう」

 右肩の傷口が再生の魔法で輝き始めた中、アイネが礼をした。


「ありがとうございます大魔王。そうですね「俺が一番強い」は女には興味がないものです。男たちに戦ってもらいましょう。さあ、飛びます本当の戦場へ」

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