第125話 真の戦士と大魔王来たる

 速度と力を倍増するアガレス、その力は世界最強の六龍王に迫っていた。

「我を越えることはできん。この力は世界一の者」

 六龍王が叫ぶと、距離をとって、すくっと立ったアガレスが答える。

「そうだな、おまえは世界一かもしれん、だからおれは別の次元の世界の一番を呼ぶとしよう」


 アガレスが大剣ソールイーターを天空へと捧げると、天井から黒い光がアガレスを照らし始めた。

 その場の皆が驚きを見せる。今まで一度も上次元と世界を連結できた者などいなかったし、そこから、そもそも伝承である、光の獣、ダークナイトの鎧を転送するなど、あるわけないからだ。


 しかし、当のアガレスにできるかどうかなど、そんな迷いはまったくない。

 アガレスを照らす黒く光は強く輝きだし、空中に漆黒の渦巻きが現れた。


「バカな……本気で十二次元上の漆黒の鎧を召喚しようと、できると思っているのか! アガレス!」

 六龍王のさけびも聞こえない、完全な集中と命を懸けた、アガレスの強い意志と身体は、ついに異次元の扉をこじ開けようとしていた。


「全軍、アガレスを攻撃!」

 アーシラトの号令で、数千本の弓矢がアガレスに向かった。

 完全に無防備のアガレスは沢山の矢に貫かれて、その場に倒れこんだ。


「アーシラト! やつは今、真のダークナイトになろうとしてたのだぞ!」

 六龍王がアーシラトを責めようとしたが、逆に窘められた。

「六龍王。これは男の同士の一騎打ちではありません、プライドも男気も捨ててください。今は、戦時中です、少しでも負ける要素を含むわけにはいきません」

 アーシラトの言葉に目を閉じた六龍王は、左右に首を振ったが言葉は発しなかった。



 空が真っ赤に映える、十万を越える兵士が空を見上げた時、戦場のど真ん中に衝突する大火球。

 強烈な衝撃が戦場を揺るがせる、今できたばかりの、大きなクレーターから立ち上がる者。


 レザーのボンテージで二つにセパレートされたブラトップとフレアミニスカート。

 色はブラック。細くて雪のように真っ白な腕で一頭分の肉を持ち上げている。

 両脚は血管が浮き出るような白く艶やかな素足に厚底のショートのヒールで、意外とムッチリ。


 背中には小悪魔のかわいい羽が生えている……大魔王ツクヨミの降臨だった。

 大魔王は体についたほこりを払いながら、吹き飛んだまわりから生きている者を探す。


「さてと、ちょっとそこのあなた……そう、もうすぐ死にそうな人」

 大魔王が腹に傷を負っている兵士を呼んだが、本人は痛みより戦場を一瞬で変えてしまった、大魔王の力に怯えていた。


「お、おまえはなんだ? この魔力はバカバカしすぎる」

 爆風で数十メートルのクレーターが開き、数千人が吹き飛んでいた。


「攻撃なんてしないじゃない。私は通りがかりの主婦。これは移動しただけで、あなた達をどうしようとか考えたものじゃない。ところで息子のケンカを見に来たんだけど、どこでやっているか知らない?」

 サキュバスの姿に黒い羽根。傷を負った戦士は緊張しながら答えた。

「移動しただけで、この惨状!? もしかして、あなたは大魔王ツクヨミ? 息子とはバアルの事か?」


 大魔王の移動をいきなりの攻撃と、捉えて急襲と驚いた軍勢が、闇も光も関係なく集まってくると、大魔王は一言。

「もーー人が集まってきたわね……よく見えないし……邪魔。ファイヤー」


 真っ赤に燃える隕石が空中からいくつも落下して、地上で爆発。

 また数千人が吹き飛んだ。

「お、おい、いったいおまえはどっちの味方なんだ!?」

 傷を負った兵士は、白銀騎士団も闇龍騎士団も、区別なく吹き飛ばした大魔王に聞いた。


「え? どっちの味方? なにそれ? 邪魔だから消しただけよ。まあ、一番初歩的な魔法だけどね」

 大きく首を振って否定する戦士。


「いやいや、あれはメテオでしょ? 究極魔法の一つ……やばいやつ」

 ふーん、大魔王の人差し指巨悪な魔力が凝縮されていく。

「じゃあ、これがファイヤーかな?」


 大魔王が放った炎は天空を覆いつくし、そのまま大地へと降り注ぐ。

 数千もの空に届く炎柱が立ち、数万の兵が逃げ惑う中で、傷を負った兵士は呟く。


「こんな魔法は見た事がない……しかも、敵味方関係ない……フレンドリーファイヤー? 見境なさすぎ……あれ? なんで俺は大丈夫なの?」

 兵士は不思議がるが、簡単な明快な答えが返ってくる。


「私の周りは大丈夫。だって自分だけはケガしたくないじゃない?」

 いやいや、またも大きく首を振った兵士。

「全員に被ダメが99999とか出てますよ。やっぱりあなたは……大魔王ツクヨミ。爆炎の王」


 すでに兵士との会話に飽きた大魔王が歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 兵士は大魔王についていく、安全圏を確保するために。


 焼け野原になって四方に散った軍勢を見ながら、息子のバアルを探す大魔王が声を上げる。


「あ、バアル見っけ! サンダー」

 巨大な雷の柱が上空から落ちて、空中で戦う一人の騎士に命中した。

 唖然として見ていた兵士が大魔王に言った。

「あの~~。それはテスラですよね。電撃系の最上位魔法の。しかもあんな巨大なイカズチは見たことが……」


 大魔王が兵士の言葉を遮り、命令を下す。

「うるさいよアンタ。それよりあそこで焼き鳥になっている、息子のバアルを連れてきて頂戴!」

 パタパタ、大魔王の背中で羽ばたくキュートな羽根……真っ黒だが。

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