第124話 速く強く早く
六龍王が立つドライグの平原で、アガレスが再び戦いの表情を見せる。
「ダゴン。少しの間休んでいてくれ」
アガレスが二人に近づく。
ダゴンは六龍王と既に一時間以上互角に戦い、エナジィをかなり消耗していた。
「ふぅう、何しに来たアガレス。俺はまだ戦えるぜ?」
「それは分かっているさ。だが、おまえにはやってもらいたい事が残ってる。四人でな」
「四人? 今ここにいるは、俺とアガレスとアスタルトとアイネ……戦うのは難しいだろう、だいたいアガレスその言い方だと、おまえはその数に入ってないみたいだな。勇者がくるのか?」
「ああ。来る。ふたりの勇者がな。だからここは俺に任せて少し休め。その時の為に」
アガレスの言葉に、ダゴンは槍を下ろして戦闘態勢を解いた。
「分かったぜアガレス。少しだけ休憩させてもらう。ただ、やり過ぎて俺たちの出番を無くさないでくれよ」
「ハハ、それは保証出来ないな。早くアイネの所へ行ってやれ、ダゴン」
ダゴンは後ろを向き、アイネの方へと歩き出す。
「期待してるぜ、アガレス……死ぬなよ」
自分の背後を離れていくダゴンに、軽く右手を挙げて答えるアガレス。
「ふん。今度はアガレスか。おまえ如きが何度やっても無駄だがな」
六龍王の言葉にアガレスが笑った。
「衰えた俺にはダゴンのような戦いは出来ないと思っていた。だが、それは自分への甘えだったのかもしれん。息子のグレンの為に生きながらえる、そんなダークナイトとしては有り得ない心構え……。六龍王がいくら強大でも、勝負は最後までわからない」
剣を構えるアガレス。その身体から漆黒のエナジィが溢れる。
「なるほど。全てを捨てて、俺を倒すという事か。フフ。では見せてもらおうか、かつてゴースで恐れられた、冷酷無比な剣士の真の力をな!」
「ああ、いいだろう。いくぞ!」
両手で構えたソウルイータ人の魂を喰らう大剣を、六龍王へ打ち込むアガレス。
「ふん、こんな打ち込み軽すぎる」
アガレスの斬撃を簡単にかわした六龍王がニヤリと笑う。
「その程度か、アガレス。昔のおまえは、もっと強く、もっと冷酷だったぞ」
左手のとてつもない重い拳を、アガレスに打ち出す六龍王。
大剣を素早く切り返し、六龍王の拳を弾くアガレス。
(もっとだ)
今度は横から真一文字に六龍王を斬る。
剣を後ろに飛んでかわす六龍王。そこへ飛び込んで、のど元への突きを入れるアガレス。
(もっとだ。もっと)
剣を引き、数歩踏み込み、六龍王との距離を縮めて真上から剣を振り下ろす。
アガレスが呟く。
(もっと、もっと、もっとだ。速く、そして強く、早く)
一段、二段、三段と、速度と力を上げていくアガレス。
ついにかわし切れなくなり、頭上で十字に組んだ両手でアガレスの剣を受け止める六龍王。
「アガレス!」
あまりの猛攻に思わず敵の名を呼ぶ六龍王。
剣を右肩に乗せたアガレスが、間をおかず六龍王へ漆黒のエナジィ纏って身体ごとぶつかる。その強烈な一撃で、ついに六龍王を捉えた。
「く、やるな、だがアガレス、これでしまいだ!」
六龍王の手刀が、密着したアガレスの首を打った。手刀をまともに受けたアガレスの首から血が滴る。ニヤリと笑った六龍王は、右の拳に力を込めてアガレスの額に打ち込み、アガレスの兜が砕けた。輝くような長い金髪が風になびく。
「少しはやるようだが、今のおまえは昔のアガレスには及ばないな。さあ死ね!……なんだ!?」
それは六龍王に冷気を感じさせるほど、尋常ではない、黒いエナジィだった。
(まさか!?)
異変を感じたアーシラトが走り、六龍王へ近づく。
「王、このエナジィは、アナトが闇の王を倒した、狂気のエナジィです」
「狂気? まさか漆黒のエナジィか!?」
チラっとアーシラトを見て、六龍王がアガレスに向った。
「なるほど、本当に俺を倒す事に命を賭けるか、アガレス? 漆黒のエナジィ、カオスドラゴンの力が自らを破滅に向わせるとしても!」
フッと笑ったアガレス。
「これはお前が思っているものではない。獣を呼ぶんだ……おまえを倒し仲間を守れるなら、それでいいさ」
アガレスの身体から湧き立つ漆黒のエナジィ。大剣ソウルイータを構えなおすアガレス。
強まっていくアガレスのエナジィに、思わず六龍王が呟く。
「クク、おまえも新たな力を求めるのか、アガレス」
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少し離れた場所で懸命にダゴンを治療するアイネ。
ダゴンの身体もエナジィも多くの損傷を受けていた。
心配そうなアイネに、ダゴンは「五分も休めばいけるさ。俺は丈夫だけが取り柄だからな」
そう言って笑ったが、確実に疲労を見せるダゴン、ただ頷いて治療を進めるアイネ。
アガレスと六龍王との激突は続いていたが、不思議な事に傷つくたびにアガレスの力が上がってるように思えた。
その不思議な現象にアイネの中のマスティマが表層に出て語りだす。
「天の神子には光の獣の言い伝えがあります。それは一機で世界を変えるもの。その一つに、シルバーナイトとダークナイト戦いがあります。この世界のどこかで、両名が長い長い悠久の時間戦い合っているという話です」
アイネの口を借りたマスティマの言葉に、アスタルトが疑問を口にする。
「この世界でダークナイトと言えば、アガレス。シルバーナイトといえばダゴンの事をさすが、それは天の神子の伝説からきていたのか?」
「ええ、そのとおりです」マスティマは頷いて話を続けた。
「天の神子の伝説がこの世界にも残っている、ということは世界は繋がっている可能性があるのです。だから、この世界のダークナイトであるアガレスは、すべてを捨てて、光の獣である伝説の真のダークナイトになろうとしているのです……でも、そんな事は無理です。ダークナイトの鎧が設置されているのは十二次空上の空なんだから。命を捨てる気なのアガレス」
話が終わり表層から消える瞬間、マスティマは微かに涙を流した、かつて愛した人へのレクイエムとして。
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