第121話 一騎当千

 肩に聖槍を担ぎながら、アイネと六龍王の間に立つダゴン。


 アーシラトがクスッと笑った。

「あら、ダゴン。この状況が見えているのかしら。この本陣の構えは一万以上の兵士に六龍王。いくらあなたでも勝てるわけ無いわよ」


 首を回し、準備体操をしているダゴン。

「まったくだなあ……逃げちゃった方がいいか?」

 後ろからアイネの、ちょっと怒った声が聞こえた。

「ダ・ゴ・ン!」

 アイネに振り向くダゴン。


「オレが来たら随分元気じゃないの?」

「そんな事ないわ。ねぇ、アスタルト、アガレス」

「そうだ、おせーーぞダゴン。年寄りに運動させすぎだ!」

 獣王アスタルトの言葉に、ダゴンが赤い髪をポリポリと掻いた。

「開戦日を間違えてさ。すまんな獣王」

「おまえらしいな」

 アスタルト呟きにアガレスが言葉を返す。

「まったくだ」


 ガハハ、大笑い出すアスタルトにアーシラトは心が穏やかでない。

「ふざけないでダゴン……自分の立場を思知らせてやる」

 追い込まれた状態でも、まったく臆する事の無いシルバーナイトに、アーシラトが右手を挙げて攻撃を指示した。


「お前から殺してやる!」

 即座に数百の矢がダゴンに降り注ぐが、ダゴンはそのまま攻撃を受けた。

 重厚な銀色の鎧は、すべての攻撃をはじき返す。

「おまえらの弓矢って、パラパラと小雨みたいだな」

 棒立ちのダゴンに、続いて槍隊が一気に突っ込み、その刃をダゴンに突きたてた。

 だがダゴンの鎧、インペリアルアーマには傷一つつかない。


「おい! ちょっとは部隊を鍛えた方がいいぞ、アーシラト」

 聖槍を構えたダゴンが、すぅぅと大きく、長く、息を肺一杯に吸い込んだ。


「うぉぉおおおおおおおおおおお!」

 大地に響き渡るダゴンの気合に、一万の闇龍軍団が凍りつく。


 目をカッと見開いたダゴンが初めて前に出る。

 百の闇龍ナイトが盾で押さえ込もうとするが、ダゴンの圧倒的な突進力に、全員がそのまま後ろに押し戻された。


 闇龍ナイトが押されてぶつかり合う中、さらに後衛の兵士ごと押し進むダゴン。

 数百人の兵士が、徐々に後ろに押し出されていく。

 ダゴンがイージスの盾を左右に弾くと、三、四人ずつ左右に撥ねると、ダゴンの後方に新手の数百人が回り込んだ。


「なんだ、おまえら邪魔だ!」

 聖槍を持ったダゴンが身体ごと一回転、周りの兵士達を一気に打ち倒す。

 ダゴンの身体からは赤きエナジィが、炎のように吐き出した。

 その力強さは無敵と思われた、六龍王にも引けをとらない。

 

 ダゴンが軍団へ大きく強く一歩足を踏み込む。

 その衝撃と気迫で、崩れる闇龍軍団。

 ダゴンの気合が響いた。


『大車輪!』


 前方と左右の兵士を丸ごと弾き飛ばす、ダゴンの槍を使った力技で、近くに立っていられたのは、六龍王とアーシラト、二人だけだった。


 燃え上がるダゴンの赤きエナジィに、アーシラトは思わず後ろに下がる。

 アーシラトの驚嘆した顔に、楽しそうに六龍王が笑った。


「アーシラトおまえは転生したから昔を知らないだろう。ダゴンは人でありながら、ドラゴン、巨人、そして神人にさえも、その絶対にひかぬ突進力で、恐怖を与えた無双の者だ。弱兵一万では相手にならない。なあ、そうだろシルバーナイト? アハハ」

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