第120話 究極魔法

「はっ! まさか」

 アーシラトはアイネの行動を意図を察知した。

「まさかの消滅の魔法!? 混沌の術式で、六龍王さえ倒せる可能性がある究極魔法……実戦で使えるのかアイネ? ここでとっておいたというのか!?」


 右手を前に出してアイネが叫ぶ。

「世界を造りだせ!」

 アイネの右手に、眩しい程の光が集約されていく。

 左手には闇のエナジィが集まりだす。

「全てを混沌に戻せ!」 

 両手を重ねて、アイネが叫んだ。


『全てを消し去れ インフィニット!」


 アイネの両手か交差した、高圧電流のようにエナジィが流れ、白と黒の渦が撃ちだされた。白と黒の対極の渦が六龍王を包み始めた時、別の詠唱の声が聞こえた。


『光よ貫け ラ・ピュアライン』


 バシン。アーシラトが放った光の矢で、アイネの右肩が吹き飛んだ。


「アイネ!」

 アスタルトが足を引きずりながら、アイネに近づこうとする。

「来ないでアスタルト。たかが腕一本飛んだ……だけです」

 言葉とは裏腹にその場に膝を落とすアイネ。

 吹き飛んだアイネの右手を、六龍王が拾って笑った。

「少し驚いたぞ。団長殿」


 アーシラトが六龍王に並びながら言った。

「消滅の魔法とはね。光の軍勢の中で唯一、アイネはマスティマを宿し、その闇を知る者だと、忘れていたわ。でも、これで打つ手は無くなったわね」


「ふん」

 六龍王が力を込めると、アイネの右手は蒸気の様に、エナジィを出しながら消滅した。

 それを見たアーシラトは安心してアイネに向かう。

「消滅の魔法は両手が必要な魔法。右手を喪失したあなたには、もう使うのは無理ね」

 

 アーシラトは右手をサッと上げた。それを合図に闇龍軍団の攻撃が止まった。

 六龍王が単独で決着をつけようと、三人に近づいてきた。


「さあ、一人ずつがいいのか? それとも三人まとめてがいいのか? 死に方を選べ」

「どっちも選びたくないですね」

 アイネが膝を落とし、吹き飛ばされた右肩を押さえながら呟く。

「私だけ、殺すのはどう?」


 アイネの言葉にアスタルトが文句を言った。

「おいおい、アイネ。そんな冷たい事言うなよな!」


 ここまでの大きなダメージで、身体がうまく動かない、アスタルトとアガレスは、戦いのエナジィを失っても、それでも、アイネを守る為に側に立つ。


 大きな体の二人に、麗しの指揮官は笑みを浮かべて言った。


「魔法が使えない今のわたしは役立たず。あなたたちは、生き延びてチャンスを待つべきです」

 アイネの言葉に、アガレスとアスタルトは腰を落して、アイネを覗き込む。大きな二人を胸に引き寄せ、アイネは二人の髪を撫でた。

 大きな身体の二人が子供の様に見えた。


「さて……別れは済んだのかな?」

 六龍王が三人の前に立った。

「ええ、丁度いい時間稼ぎが出来たみたい」

「なんだと?」

 アイネの言葉に、六龍王が真意を確かめようとした、その時、背後から男の声がした。


「あーー。ちょっと遅刻か?」

 フードを被った一人の男が、闇龍軍団の兵士を掻き分けて出て来た。


「アイネの匂いを探して来たんだけど、結構、敵が多くてさ。戦うの面倒だったんで途中で拾った、おまえの兵士の服を借りたんだぜ! 六龍王!」


 男がひらりとフードを脱ぎ捨てると、そこには神槍グングニルを右手に構え、左手にはイージスの盾、兜はインペリアルヘルム、身体はインペリアアーマ。超重の装備で固めた、銀色に輝くその姿から、シルバーナイトと呼ばる鉄壁の戦士ダゴンが立っていた。


「遅い……遅いです。ダゴン」

 アイネは安心からか、指揮官ではなく日常の話し方に戻り、微かに笑顔を見せた。

 ダゴンが頭をかきながら力づよく答えた。


「すまん、アイネ。だが、あとは任せとけよ」


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